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想う男子

 異常なテンションをみせた灰田の「恋愛じょーじゅ作戦結構じゃあああ」という雄たけびを思い出して、その作戦の当事者である俺は憂鬱なため息を漏らすことしかできない。

「はぁ~・・・」

口をらければ漏れるため息に、絨毯の上に座った妹が舌打ちをしたのが聞こえた。

中学二年生という多感な時期を過ごしている彼女にとって・・・兄などごみくず同然なのだ。

だからごみくずである俺は、じっと部屋の隅にたまっているほこりみたいにひっそりと息をひそめていなければならないのだ。

また漏れたため息に、テレビ画面をみていた妹がこちらに視線を投げてよこしてくる。


「・・・うざい」


今日初めて妹と交わした会話がこれだ。

いいや、交わしてもいない。向けられた言葉、か。

冷たい瞳を見つめながら、なんといったらいいのかわからず黙りこむ。

「ため息、うるさい。テレビ聞こえない」

テレビの音量は大きい、少なくとも先ほど母親が「澪、もうちょっと静かにできないの?」と台所から注意するほど。

最近人気の、イケメンユニットのライブDVDを見ている澪は、母のその言葉に一つだけ音量を下げた。

・・・それだけじゃ、なんも変わらないんじゃないの?

そう思ったが、これを口にだしたらめんどくさいことになるなと俺は諦めて、手元の雑誌にも飽きて澪の見ているDVDを見つめる。

普通の男子だったら、汗臭い、きもいと一喝するのに、彼らみたいなイケメンが流す汗はどうしてあんなに煌めいているのだろう。

「汗を流す男がかっこいい」とうっとりと喋るが、かっこいいのは一部の男子であって、その他多くの男子たちは―――。


「お兄ちゃんと一緒に洗濯しないで!!」

「汗臭い。近寄らないで」

「わたしより先にお風呂はいらないでっていったじゃない」


だろう。

そうだ。

この画面の中の彼らが異常なのだ。

画面を真剣な瞳で見つめる澪を見ながら、俺は思う。

お前がみてるこいつらの汗だって、俺と同じく臭いんだぞと。

だが、こんなことを言ったらどうなるかは目に見えているので、俺は口を閉ざし再び、キャーという女子の歓声に頭が痛んで目を閉じる。

ぼうっとしたまま、目元に手を乗せる。

(藤崎は・・・こういうの好きなのかな)

すぐに脳裏に浮かんだのは彼女のことで、俺は再びため息をつく。

ありがちなラブソングじゃないんだから、寝ても覚めてもよぎるのは君のことなんて・・・。

しかもそういうラブソングは、もっと二人の関係が親密だと相場が決まっているのだ。


友達以上、恋人未満。

もしくは元恋人。


俺と彼女の関係は・・・席が近いだけのクラスメイト。

こんなのありがちだろ。

ありがちなラブソングにそんな歌詞がないだけで。

みんながみんが、そんなんだと思うなよ。

思考がぐるぐるとめまぐるしく変わる中で、俺の脳裏を再びよぎる。

彼女の黒髪に触れたいなんて、そんなことを思う自分は変態なのだろうか。

テレビから流れてきた、別れた恋人を思う切ないラブソングに、俺は飽き飽きしてため息をつく。

みんなが、みんな、そういう青春送ってるとおもうなよ。

作詞家、シンガー。


顔も見たこともない作詞家に、怒りをぶつけながら想う。


藤崎は、今何をしてるのだろうか




と。




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