約束男女
バイトが終わった後に謝る灰田に藤田がした命令は帰りにおくっていけというものだった。
灰田はあきらかに「めんどくさい」という眼をしたが、しぶしぶそれに従っている。
「おまえもいくよなー」
「なんで・・・」
灰田の言葉に俺と同じくなんでと言いたげな顔をする藤田を無視して灰田を言葉を続ける。
「別に帰り道だからいいじゃん。なー藤田」
「・・・・いいよ」
数秒の間をもってから藤田はため息まじりに灰田の提案を承諾する。
ジュースを買いにきていた藤崎はそんな俺たちに何もいわずに、台の上にサイダーの瓶をおいた。
レジに近かった灰田をそれを手にとると、ふーんと顎に手をあてる。俺は灰田がもってしげしげと見つめているサイダーの瓶を奪い取って袋に入れようとしたら、藤崎が「袋いらない」と言ってきたので、シールを貼ってそのまま瓶を手渡しする。
「めずらしいね。瓶のサイダー買うなんて」
俺の手から冷たい瓶を受け取ろうと、藤崎の右手があがる。折れそうなほどに華奢な腕が店の店頭の明るさの下で彼女の腕の血管を浮き上がらせる。その青い線を目でたどるように見つめがら、俺の指先は藤崎の掌にあたる。力ない、自力で動くのも難しいといった人形のように見えたのに、ほんのわずかに触れた藤崎の掌はかすかに湿っていて、濃い青草のにおいがした気がした。
「瓶の飲み物を買うと、夏って気がするじゃない」
ポッケの中から小銭を出すために、少し伏せ目がちになったまつ毛が藤崎が言葉を紡ぐたびにあわく揺れる。
「それは同意するわー」
珍しく灰田も口をひらいた。藤崎の眼の端がぴくりとけいれんするように揺れる。
「・・・・・へー」
藤崎が五百円玉をこちらに差し出してくる。今ではめっきり目にすることがなくなった、銀色の光をはなつそれが灰田の掌に落とされる。
「あなたにも、そうやって季節感を楽しもうっていう気持ちがあったんだ」
・・・あきらかに馬鹿にした感じの藤崎の言葉に、俺はひっと声をあげる。
わかっていたが、この二人は破滅的に合わない。
というか、灰田と藤田をみていると、こいつは女の好かれようと、いいかっこしようとしてないように思える。
藤崎の意地悪げな顔に、我ながら変態だなと思いながらもドキドキしながら見つめていると、灰田は「やっぱりかわいくねえ」と地の底から這い上がるような声をあげながら、乱暴にレジをしめ、雑に藤崎の手にお釣りを落とした。
険悪なムードの中を、藤崎の隣にずっとたっている藤田が一人明るい声をあげる。
「いいねー」
突然の賛同に、何に?何が?という気持ちになって、藤田を見つめると目があったとたんに藤田がこちらに慣れたウィンクをしてきた。
「帰りにみんなでこれ飲んで夏気分を味わいましょーう」
げっという顔をした灰田と、藤田に腕をつかまれて「なんで私が」と藤崎が叫ぶ。
「いいじゃん。女の子の一人あるきはあぶなよ」
「大丈夫だから」
「いや大丈夫じゃないよ。だって藤崎さん黙っていれば美少女なんだから。ねっ!かおるくん」
なぜ俺に同意を、てかその同意は前の文のどれにかかってるんだろう・・・俺は喉をごくりと鳴らしながらも、藤田の言葉にとりあえず頷いておく。
すると藤田に腕をとられたままの藤崎がじとってした目でこちらを見つめてきた。
「いや、藤崎はかわいいよ!」
手を顔の前でぶんぶん振りながら慌てていうと、灰田と藤崎と藤田がびっくりしたといった表情でこちらをみてくる。灰田と藤田はニヤニヤといった顔で、藤崎は大きく瞳を開いた後に気まずそうに視線をずらす。俺は穴があったら入りたいきもちで、眼をそらしたままほんの少し赤くなった藤崎の耳を見ながら、藤崎よりさらに顔を赤くしている自分にも気がつかずに亀のように首をシャツに引っ込めた。




