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肝試し男女


 わざわざ暗がりに、怖がりにいくなんて・・・物好きね。

私は手にもった懐中電灯をぎっちりとにぎって、暗い森を歩く。

田舎ゆえか夜空がきれいで・・・シルエットでざわめく木々の影が見える。

右をみても、左をみても、どこのホラー映画だといわんばかりの光景に、私は思わず喉をならす。

暗闇を怖がるのは人間としての本能なのだ。

そして暗闇の中に、何かが見えるだのなんだのいうのは恐怖心からのあれであって・・・。

ぶつぶつと口を動かしていると、後ろから大きな欠伸が聞こえて思わず両肩をあげ立ち止まってしまう。

「あー、ねみー」

「・・・そう」

「これ、脅かし役とかいないわけ?」

「・・・・・さあ」

退屈そうな声に相槌をうつ。

「これじゃあ、ただの散歩じゃねーか」

はあ~と、いかにもつまらんといった様子の灰田の顔面に私はライトを当てる。

ちょっとした生首の完成だ。

「目にあてんな」

「・・・怖くないの?」

「怖いの?」

私が黙りこむと、灰田は顎に手をあてて「ふ~ん」といいながらこっちをじろじろみてくる。

珍しいものをみるような態度に、苛立ちさらにライトを灰田の目に近付ける。

「痛い・・つぶれる」

顔をしかめて不細工な顔をした灰田に、私は嫌な笑みを浮かべるとさっさと背を向ける。

今回の肝試しのルートは、ありがちなものだった。

暗い森を懐中電灯一本で歩いて、奥にある神社においてあるスタンプを手に押してくる。

・・・というものだ。

現在、私たちは暗い森を二人で歩いている。

風が、ごおっと音をたててなると木々がざわつく。

私は闇の奥で何かが動いたように感じて、立ち止まるとそちらにライトを向けた。

「なに、でた?」

なにがよ。

心の中で返しながら、ライトを上下左右にゆらす。

「・・・くま、とか、いないわよね」

幽霊とかお化けとか妖怪とか、そういう非現実的なものではなく、野生動物の恐怖に声を震わせる私に、灰田は私の手から懐中電灯を奪う。

「そんな危険な生き物いるところで、夜中に肝試しやるわけねーだろ」

こっちが幽霊になるわ。

と軽口を叩きながら、前を歩きだす灰田の後ろに私はさっとついていく。夜中の森に一人で、ライトもなしで置いていかれるのは誰だってごめんだろう。

「くまじゃなくても・・・イノシシとかいるかもしれないじゃない」

「おーうりぼう、かわいいじゃねーか」

それなら逢いたいわ。という灰田に私が珍しく力説する。

「野生のイノシシなめない方がいいわよ。ニュースでみたけど、奴ら、すごいわよ」

「すごいんだ」

私がうんと頷くと、灰田は空気の動きで私の頷きを察したのか絶妙なタイミングで「そうか」と頷く。

それから黙々と二人で歩いていると、突然右側の方からガサガサと大きな音がした。

「ひっ」と情けない声をあげて身体を固まらす、思わず助けを求めるように手をのばした先には灰田の背中があった。

灰田の黄色いTシャツをぎゅっと握ると、灰田は何も言わずにライトで空を照らす。

ばさばさと忙しない音を立てる方向を、灰田は目をこらして見つめると「鳥だな」と音の正体を私に告げる。

「くそ鳥が、焼き鳥にすっぞ」

おもわずもれてしまった自分の暴言に、しまったと思うが灰田は少し間をおいてから「俺、塩が好き」と

・・・焼き鳥の味のリクエスト?をしてきた。

最初、灰田がなにをいってるのかわからなくて、ぽかんとしてしまったが、意味がわかると私はぎゅっと握ったままのTシャツを離す気にもなれないで「きぐうね。私も塩派だわ・・」とぶっきらぼうに返した。

私がにぎったままのことに、灰田は特になにも言わないで黙々と森を歩き続ける。

そうしてしばらくして、森のひらけた所にでた。

目の前にはライトが二つついた神社が、不気味にたっていた。

暗闇にそびえる不気味なそれに、私がぶるりと背を震わせると、灰田が突然立ち止まる。

「なに」

さっさといきなさいよ。というか突然無言で立ち止まらないでよ。

心の中を様々な言葉がかけめぐったが、私のくちからでたのは「なに」という二言だけだった。

中をみあげている灰田が不気味になって、私はもっているTシャツをぐいぐいと引っ張る。

「なに?なになに?」

「・・・・上」

「は?」

「上、見ろ」

灰田の少ない言葉に、私はごきゅりと喉をならす。

怖い話とかでよくあるパターンで、そういって見上げると真上には血だらけのお、お、女が・・・。

馬鹿げたことを考えてるというのは重々承知だが、思考は止まらない。

がくがくと足が震えるのを感じて、思わず灰田の背中に頭突きするような形で顔を伏せてしまった。

もうやだ。なにも見たくない。だから嫌なのよ。何が学校行事よ。ばかじゃないの。ばかじゃないの。

「おい。上、見ろって」

「や」

「きれいだぞ」

はあ?瞑っていた目を思わず開いてしまう。

「夜空」

灰田の言葉に、私はばっと顔をあげると、そこには一面の星空があった。

わたしがぽかんと口をあけて見上げていると、灰田が前にあるスタンプに手をかける。

私は灰田がスタンプを押すのを空気の揺れで感じながら、上を見上げることをやめることができない。

こんな星空、みたことなかった。

田舎だから空気が澄んでるのか、星がまたたく、という言葉の意味を私ははじめてこうして目にすることで理解できた気がした。

「きれ・・・」

いと声をあげようとしたら、突然頬に衝撃が走る。

バンと、何かを叩きつけらたような衝撃に私が目を下界に下ろすと、そこには灰田の姿があった。

目があうと、頬に張り付いていた何かが離れていく。

ぺっとりとした感触に、私が頬に手を伸ばし触れるとぺっとりとした何かが自分の頬についているのがわかった。

「・・・なによ」

これ、手についた黒いものに鼻を近づけると、インク臭かった。

「・・・・・・・・・・・・・・は」

インク臭いそれに、私は頭が真っ白になる。

灰田の方をみると、無表情な灰田の手にはスタンプが握られていた。

「・・・・・・ありえない」

私がそういうと、灰田はにやりと「ぼけづらしってからだ」笑った。



 灰田をしばらく罵倒し、灰田の手からスタンプを奪い取って奴の顔面に何度もスタンプを押しつけてようやく気が済んだ私は、怒りに持ちあがっていた方をようやく下ろした。

嵐のような私に、なすがままだった灰田が「・・・いくらなんでもやりすぎだろ」と小声でいったが、私はそれを無視してスタンプをばんと元のところに戻す。

「女の顔にスタンプつけた報いよ」

「・・・女だっっ!!」

灰田の言葉の途中で、私はだんと右足を灰田の左足の上に押しつけた。

ぎゅっと足に力をいれると、灰田は開きかけた口を閉じる。

彼にしては利口な判断だ。

私はふんと鼻をならし歩き出すと、灰田が後ろからおそるおそるといった様子でついてくる。

「なあ」

「なによ」

「お前、付き合ったことないだろ」

「・・・・・・・」

灰田の言葉に私はざっと立ち止まる。

突然の質問の意図が読めないので、顔を見上げると灰田のスタンプでごちゃごちゃになった顔が目に入る。

もっていたライトで灰田の顔を尋問するかのように照らすと、灰田がまぶしさに目を細める。

「まー、こんだけ凶暴だったら彼氏もできないわな」

顔をしかめたままの灰田に、私はライトを皿に灰田の目に近付ける。

「いたいです。というか熱いです」

敬語になった灰田の顎にガンと音をたててライトをひっつける。

そうして下から何度か小突く。

「・・・あんたに関係ないじゃない」

「・・・そうですね」

灰田が口を開いてる所を、さらに小突いたら舌を噛んだらしく灰田は情けない声をあげる。

本当に、失礼極まりない男だ。

深いため息をもらして灰田に背をむけると、後ろの灰田も大きなため息をついたのが耳にはいった。


初めに歩いた道を、もくもくと歩いていると、行きよりも若干速くスタート地点の明かりが目にはいった。私はほっと息をもらすと、ずっと黙りこんでた灰田が突然話しかけてきた。

「おい」

「・・・」

「おい」

「なによ」

最初は無視したが、二度話かけられて私はようやく返事をすると、灰田がはいとこちらに何かを手渡してきた。

私は冷たくてすべすべしたまあるい感触の掌の中のものに目をむける。

私の掌に乗せられたのは、小さなサクラ貝だった。

「・・・貝がほしくて潜ったんだろ」

確かに、貝はほしかった。

貝は貝でも食べるほうのだけど。

掌の食べられない、きれいな貝を見下ろしながら黙りこむ。

「女って、そういうキラキラしたの好きだよな」

どうせなくすのに。

灰田はそういいながら、さらに白くてすべすべした貝も乗せてくる。

「海になれてないくせにあんま危ないことすんなよ。ほしんだったら、慣れてるやつにいえ」

それか砂浜をあされ。

灰田はそういうと、みんなのもとへと戻っていく。

私は手に乗せられた、比較的どこの砂はまでもみつけることができる貝を見下ろして、ため息をつく。

女の子が全員が全員、こんなのほしがると思ってんのかしら。

でも、それにしてはすぐ捨てるとか・・・。

女性に夢をもってるのか、それとも持ってないのか。

灰田の奇妙な行動に、私は掌に力をいれる。

いれたとたんに、貝同士が重なりあいざりざりと不快な音が耳にはいる。

私は、こんなもの別にほしくないのだ。

そう心で吐き捨てながら、これでスタンプがちゃらになると思ってんじゃないだろうなと不満をもらしながら、仕方なくパーカーのポッケにそれを無造作に入れた。







 スタート地点に戻ると、ざわつくクラスメイトの姿が目にはいった。

戻ってきた私たちに、実行委員が気付いて近寄ってくる。

「灰田君!藤崎さん!大丈夫だった!!?」

息を切らせながらこちらの無事を確認してくる実行委員の姿に、頷くと彼女は一瞬ぎょっとした顔で灰田の顔を見つめたがほうっと胸をなでおろした。

「どうしたんだ?」

灰田がそう問うと、実行委員は少し周りを見渡してから小声でこっちに語った。

「あのね。あんま言いたくないんだけど、さっき灰田くんたちより後にいった子たちが・・・・幽霊みたって騒いで戻ってきたのよ」

「「・・・・」」

「何を見たんだ・・・?」

「・・・男の生首」

隣にたっている灰田の肩が大きく揺れたのは、私の勘違いではないと思う。

「しかも顔に御経を描かれていた、なにあれ耳なし法一!?とかいって騒いでてさ~」

気味悪いよね。これじゃあ、ここで肝試し終了だな~。

といって、去っていた実行委員の後ろ姿を見送って、私はがくりと肩を落とした。

隣に立ちつくす灰田に目を向けると、顔にまんべんなく私のてによってスタンプを押された顔がこちらを無表情で見下ろしている。

・・・まさか、ね。

私が渇いた笑いをもらすと、灰田は頭をかかえた。



耳なし法一正体は・・・?


まさか、ね。

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