じゃんけん男女
周りの視線に複雑な気持ちになったが、お腹が減ってる私は立ち上がるとルーの元へといった。
私はがりがりの肉なし骨子のわりに、結構食べる方なのだ。これ一杯じゃ、夜に絶対お腹がへる。ここは冷蔵庫があり、歩いてすぐにコンビニがある我が家ではないのだ。ここで食べておかないと、私は今夜空腹感で寝れない。
ふらふらと歩いて行くと、そこには本庄の皿にルーをいれる灰田の姿があった。私が横にたつと、そこをお玉でかき混ぜていた灰田がこちらに視線をちらりと向けてきた。そこをかき混ぜて、白米の上にのせる具を均等にしようとしている彼の意外とマメな一面をみて私は思わず口を開いた。
「・・・ルーだけ入れてやればいいじゃない」
小声のそれは灰田の耳だけに入った。
「そんな、子供じみたこと俺はやらねーよ」
「水中メガネかけて、たまねぎしみませーん言ってた人が・・・ねえ」
はんと鼻で笑うと、明らかに灰田の眉間にしわがよった。
「お前、本当に性格わるいな」
「あんたが馬鹿なだけよ」
性格が悪いのはお互い様だ。
と口をぱくぱくさせると、灰田は深いため息をついた。
「そんなにつんつんしてるから、友達できねーんだよ」
言いふくめるみたいな、言い方にカチンときて灰田を睨みつける。
「・・・友達なんていいわ。わずらわしい」
「なに、昔なんかあった系? みんな色々とあるんですよー」
私が白米を盛り付けた皿に、灰田が軽口をたたきながらルーだけをのせる。
「わかったような口をきかないで」
ルーとたまねぎだけのカレーを見つめたまま、静かにいうと灰田が「たしかに」と笑った。
私はその声に顔をあげると、灰田はいまいち読めない視線で私を見下ろしていた。そうして二人して黙りこむ。このまま続かと思われた嫌な空気を、突然灰田が切り裂いた。
「お前、貝好きなの?」
本田くんから聞いたのかしら。
私はドロドロに野菜がとけた鍋を見つめながら、「それなにり」と答えになってない答えをかえす。
「そっか」
そっちから聞いたのに、なんなのよその興味のない感じは。
「一応、女なんだな。貝が欲しいとか」
「・・・えっ」
私が欲しいのは、食べれる貝。
私は悩んだ。
くい意地をはったところの、どこか女性らしいの?
灰田はぼうっとこちらを少し見下ろすと、興味を失ったみたいに私の手にお玉を置いて去っていく。
私はそれを「わっかんない」と見送った。
「肝試しのくみわけどうする!?」
夕食を食べ終わった後に、うきうきとした様子で話しだした藤田さん。俺は皿を水につけてから戻ると、藤田さんが灰田を見つめながらそう言っていた。灰田はポッケに手を突っこんだまま、どうでもよさそうに肩をすくめた。
「どうでもいい。じゃんけんとかー?」
ふああとあくびをしながらいうと、藤田さんが不満そうに頬を膨らませ何か言いたげに口をごもごもと動かしたが、結局は灰田の言葉に同意する。俺と村上さんは藤田の言いたかったことがわかってしまい、思わず目を合わせて「かわいそうに」とアイコンタクトをとってしまった。
「じゃあ、じゃんけんで決めよう!」
藤田さんがそう高らかに宣言すると、自分の両手を掴んでなにやらむにゃむにゃと祈っている。実に女の子らしい、そういう姿に俺は下心無しでかわいいなと思って、ひっそりほほ笑んだ。俺も一応いのっとくか、周りから見えないように机のしたでぐっと両手を祈るみたいにする。心の中で願うくらいはいいだろう。ちらっと藤崎をみると、藤崎は両手を机の上にだしたまま静かに藤田さんの準備運動が終わるのを待っていた。
「最初はぐー!じゃんけんぽん!」
男女それぞれでじゃんけんをする。
なぜ別れたかというと、それは肝試しだからだ。
「きゃー怖い」
「ははは大丈夫だよ」
「きゃー」
「ははは、○○ったら怖がりだな」
「○○君ったら全然怖くないのね!す・て・き!!」
・・・ということを狙っているのだ。
実行委員は、というか全ての年頃の発情した人間たちは。
男三人でいっせいに手を出す。
俺がグーで、灰田がパー、本庄がチョキだった。
「一発できまったな」
灰田の言葉に、俺と本庄が頷く。
「そっちはどうだー?」
女子たちを見ると、誰かと誰かが一緒のを出したらしく二回戦に突入していた。
「あー!決まった!決まったよ!」
・・・四回目でようやく決まったらしく、藤田が鼻息あらく両こぶしを天にあげてこっちに瞳をむけてくる。
「そうかー。じゃあ・・・ぐーの人」
灰田の言葉に、藤田さんが「んっ」っといって両手をあげた。
「ぐーの人・・・」
「んーっ!」
灰田の言葉に、藤田が背伸びする。
・・・ガッツポーズじゃなかったんだ。
俺はそう思いながら、そろそろと手をあげた。
胸がいたい。藤田さんの気持ちをわかってるだけに。
それに、個人的にも・・・。
俺が小さく手をあげたのをみて、藤田さんは静かに片手を下ろした。
こういう時のじゃんけんで、好きな人と一緒になったためしがありません。