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砂上男女

 寝苦しかった暑さがふっと消える。

私は汗か何かわからないが、濡れた身体が冷えるのを感じて思わず身を震わせた。

「あっ、藤崎さん。起きたー?」

私の身体が揺れたのに隣に座っていた保険医が気がついて、いじっていた携帯をパタンとしまうと、こちらに笑顔を向けてくる。

「・・・はい」

先ほどよりはだいぶ楽になった身体を起そうとすると、そっと保険医が背を支えてくれる。

「ご迷惑かけて・・・すみません」

海水を飲んだ影響か、まだ鈍く痛む額をおさえながら謝ると、保険医はにこりと微笑む。

「いいのよ。これが私の仕事だし、それに無事でよかったわ~。頭、まだ痛い?」

「すこし・・」

頷くと、保険医はそうといってこちらにミネラルウォーターを差し出してくる。

「寝てる間や海水浴中に汗をかいたと思うから、苦しくても飲んで」

にこっとほほ笑んで差し出された水を、私はのろのろと手をあげて受け取った。

キャップはすでにあけられていたので、私はそっと飲み口に口づける。

乾いた唇がぴりりと痛んだが、なんとか最初の一口を飲み込む。

あの時、私をあんなに苦しめた水だと思えなかった。

「飲んだら元気でたでしょう?」

保険医の言葉に私は頷くと、そのまま一気に喉に水を滑らせる。

「あんまり海に慣れてないのに、調子にのっちゃだめじゃない」

私が無事だとわかったとたんにお説教モードに入った保険医に、私はふうっとため息をもらすがじっと我慢した。

確かに、今回は自分が悪い。

プールには波がなくて、海には波があるのだ。

反省モードにはいって、じっとする私に保険医はふっと息をつくと、こちらに微笑みかけた。

そしていきなり両手をぱんと合わせた。

「そうそう!藤崎さん覚えてる?」

突然キラキラとした瞳と、やけに甲高い声をあげはじめた保険医を見返す。

「はあ・・・覚えてる、とは、なんのことでしょう?」

足りない言葉に首をかしげると、保険医がほうっと息をついた。

「あなたが溺れたのを助けてくれた子たち! 同じ班の子なんですってね! まわりの女子たちや他の先生たちが、すっごくかっこよかったっていってたわよ!」

きゃっといって、鼻息を荒くする保険医に私は微妙な顔をしてしまう。

「・・・あらっ、女の子だったら誰だって憧れるシチュエーションなのに・・・反応が薄いわね」

私はその言葉にため息をもらしそうになるのを必死にこらえて、無理に微笑んだ。

「・・・そう・・・ですね」

何がそうですねなんだ。と自分で自分を叱咤しながら言葉を続ける。

「私、自分が溺れた時のこと・・・よく覚えていないんで・・・・・ちょっと」

これが私がいえる最高の言葉だった。

保険医は「もったいない」というと、私が起きたことを先生たちに伝えてくると立ち上がった。

「先生」

「はい」

背をむけて部屋から出ていこうとする保険医に私は声をかける。

「先生が来る前に、ここに誰かいましたか?」

「ええ。いたわよ。あなたを助けてくれた子。本田君、、、だっけ?華奢で無口な感じの子ー」

先生の言葉と姿が扉の向こうに消えていく。

「・・ありがとうございます」

届いているのか、いないのかもわからずに私はお礼をもらすと、寝乱れてぐしゃぐしゃになった髪をなおす。

寝顔を見られた。

かっこわるいところを見られた。

助けて・・・くれた。

私は全身から息を吐き出すように、深い息をつくとそのまま布団に顔を埋めた。



「あっー! みおりんもう大丈夫なの!?」

急病な人が出たとき用の部屋からでて、自分たちの部屋へふらふらと戻るとそこには二人の姿があった。

みおりんって・・・。

複雑な想いにかられたが、かけよってきた藤田の顔は確かに心配げだったので、私は言葉を飲み込む。

大丈夫、大丈夫?といって身体のあちこちに触れてくる藤田に、「大丈夫。・・・心配してくれてありがとう」といって、そっとその手を捕まえる。

「無理しないでね!夕ご飯とかもいける? 私たち上までもってこようか?」

初日の夕ご飯はそれぞれが持ち寄った食材をつかって、各班で作ることに決まっていた。

近くのキャンプ場でそれを作って、また上までくるのはめんどくさいだろうと思って、私は首を横に振る。

「ううん。大丈夫」

私の言葉に、藤田さんは「無理しないでね」といって、そっと肩に触れてくれた。

むずがゆいような気持ちに、私が村上さんの方に目を向けると彼女もこれまた心配そうにこちらを見つめてくる。

「本当に、無理しないでね」

「そう!いざとなったら男どもに、みおりん担がせるし!!」

藤田はそういってカラカラと笑うと、「早く着替えちゃいなよ」といって開かれたままだった扉を閉めた。



「藤崎、もう大丈夫なんだな」

水着からジャージに着替えた後に、下のキャンプ場におりていくとそこんは既に先についてた男子たちの姿があった。

カレーのルーとにらめっこをしている灰田の隣に突っ立っていた本田君が、こちらに気がつくとへにょりとほほ笑んでこちらに近寄ってくる。

「うん」

「頭とか、痛くないか?」

「大丈夫」

「そう」

心配げな表情で質問した後に、にっこりと微笑みかけると後ろにいる男二人に声をかける。

「藤崎、復活だってー」

「「おー」」

ルーとたまねぎをみつめたままだった灰田と本庄が、ちらりと顔をあげ声をあげた。

「おーって・・・」

苦笑する本田君が、灰田と本庄に向けていた視線をこちらにむけるとそのままぴたりと固まってしまった。

「・・・・藤崎が、笑ってる」

・・・・どうやらしらないうちに、頬が緩んでたらしい。

本田君の失礼極まりない言葉に、むっとするよりも、さらに笑いがこみあげてくる。

「そんなに、意外?」

本当に失礼ね。といいながらクスクスと私がほほ笑むと、他の四人も唖然とした様子でこちらを見つめてくる。

私は五人のぽかんとした表情に、更にこぼれてくる笑いに身をよじらせる。

藤田の「うっそー前からみたい」という声に、村上さんの「ちょっとー止めなさいよ」といいながら結局は一緒に前へと回ってくる姿。

まだ唖然とした様子の本田君に、ルーから顔をあげてこちらをきょとんとした顔で見つめる灰田、たまねぎから顔をあげていつもの表情でこちらを見つめる本庄。

何がおかしんだろう、と思いながらも溢れてくる笑いを止めることができずに、私は素直な気持ちで五人に伝えた。

「・・・ありがとう」




藤崎がーーーーーーーーーーーー!!


もう少し心を開くまで時間をかけようと思ってたんですが・・・

もう二十話近いし、そろそろ彼女にも変化を持たせないと・・・な、

と思って、ここで笑わせちゃいました。



どうしよう笑っちゃった・・・。


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