続・海中交流男女
「あっれー諦めたの?」
ぷかぷかと三人で浮かびながら、時折海面に戻ってくる藤崎の戦利品を受け取っていると、こちらに向かってやってくる二人が見えた。
浮き輪にすっぽり身体を預けた藤田と、それを引っ張ってくる灰田だ。
「だめだ。こいつ泳ぎの才能ない」
灰田のその言葉に、藤田のチョップが飛んでくる。
「この人さいって~なの! 私のこと無理やり潜らせたのよ! 本当に苦しかったんだから!!」
ゲシゲシと海中でも蹴りあげているらしく、灰田が「いていて」と小さく声をあげている。・・・灰田が拒否しないのはさすがに自分がやりすぎたと思っているらしい。
「別に泳げなくたって、海水浴くらいできるわよ~。ずっと泳いでいるわけでもないんだからね」
悔しげな藤田に、村上がそう声をかけると、灰田を蹴ることをやめた藤田がうんと頷いた。
「あれ、藤崎は?」
藤田の蹴りからようやく解放された灰田は、あいつの傍にいるとたまらんといった様子でこちらへと向かってくる。
「潜ってる。貝とるんだって」
「へー」
俺の言葉に灰田は興味なさそうに頷くと、二人してしばらく黙りこむ。
「なー」
「んー」
「俺がここについてから結構たってね?」
「・・・・うん」
「俺が、ここについてから藤崎のこと見てないんだけど」
俺と灰田が顔を見合わせる。
確かに、少し、時間が、かかっているような・・・気がしないでもない。
というか、先ほどまでのペースと違いすぎる。
藤崎が海中に消えてからどれぐらいたった?
とたんに顔色を変えた俺に、灰田は大きく息を吸い込むとそのままもぐりこんだ。
「お、おい!」
突然潜り始めた灰田に、本庄も気がつく。
「どうした?」
「藤崎が・・・・」
俺の真っ青な顔に本庄も察したのか「本田、先生に伝えて」というと、灰田に続いて海へと潜り込んだのだった。
やばい。
やばい。
これは、やばい。
私はつった足を抱えながら、海中でもがいていた。
痛みと苦しさで潤む視界で何もみえない。
落ち着いているように思える心のうちで、自分が今そうとうやばい状況なのだということがわかった。
どうしよう。
苦しい。
痛い。
手の中に握り締めた貝にぐっと力をいれる。
大きくて新鮮な貝が食べたいからもぐって死ぬなんて、なんてかっこわるいの。
かっこわるい、というか、やっとみつけたこの大きさ、これを食べなくちゃ、わたし、死んでも死にきれない。
論点が違うことを考える自分に、頭がグルグルする。
これは、本格的に危ないみたいだ。
助けて
焦りのあまり海中だということも考えずに、助けを求めて口を開いてしまう。
あたりまえだが残り少ない息がもれ、口の中に大量にもぐりこんできた海水に私は意識が一気に遠くなるのを感じた。
ああ、水死体って…ぶくぶくになるのよね
今わの際だというのに、冷静な自分に笑うとさらに空気がもれて私は意識を失った。
視界の悪い海中で目をこらすと、そこに彼女はいた。
力の抜けた白い姿態が、頼りなく揺れる様にぞっとして慌てて手を伸ばす。
身体はまだ暖かかった。顔を覗き込むと、まだ瞳は涙に揺れていた。
俺はほっと息をつくと、苦しげに開かれたままの藤崎の唇に大きく息を吹き込んだ。
本田君、ごめん。