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海中交流男女

おっちにーさんしー

メガホン越しに聞こえる体育教師の掛け声に合わせて屈伸を続ける。

前の方にいる一部の連中が、真面目にやってないらしく教師の「ふざけてやってると死ぬぞ」という怒号がこっちまで届いてくる。

普段だったらなんとも思わないが、今はみんな水着姿なわけで・・・やわ肌をさらす女子たちの屈伸は、色々と多感な時期の男子、というか男全てにとって破壊力抜群なわけであって・・・。

班順で並んでいるわけであって、自然と前にいる藤崎に目がいく。

・・・これは、仕方のないことである。

自分で自分を戒めながらも、うろうろとゆれる視線は前で豪快に屈伸を続ける教師と藤崎を間を行ったりきたりする。

軽く膝を曲げるだけの屈伸を続ける多くの女子たちと違い真面目・・・というか、基本的に言われたとおりのことを実行する(言われたとおりにやらないという労力を使いたくない感じ)藤崎は、黙々と深い屈伸を続けている。

藤崎は黒の水玉模様の水着を着ている。

深く屈伸すればするほど、際どい位置まで見える太ももや・・・わずかに見えるお・・・しりに、ドキドキを抑えきれずに、内心アワアワしながら見つめてしまう。

下心もだが、それよりも、藤崎はああいう感じだがぱっとみ美少女なのだ。

触れれば折れそうな肩に、薄い腹。一度も日に当たったことがないのではないかと思うほどに白い肌。

海に入るためか、髪を後ろで一つに束ねているため見える首筋は血管が見えそうで・・・・ごくり。

下心はある。

だがそれだけではない。

首を回しながらさりげなく周りを見渡すと、こちらをみている男子を数人発見した。


 十分な程の準備体操を終わらせて、さっそく海へ入ろうという時になった。

集まったうささんグループの面々。

さあ、入ろうかという時に藤田が手をあげた。

「わたし、泳げな~い!! 」

「・・・そう、なんだ」

黙りこんだ周りに代わって、俺が相槌をうつ。

俺の相槌に「そうなの」と藤田は返すと、だ~か~ら~っと言葉を続ける。

「泳ぎに自身がある人は挙手~」

周りを見渡すと、誰一人手をあげない。

俺も泳げるには、泳げるが、人に教える自信も・・・あと、藤崎と泳ぎたいという思いに駆られて、さげられたままの右手に力がはいることはない。

藤田は「ふ~ん」とじと~っとした目でメンバーを見渡してから、さっと灰田の腕をとった。

「げっ」

「げってなによ! あ~私傷ついた! だから責任とって、誠くんは私の水泳指南役決定ね!」

「ちょっ待てよ」という灰田の言葉を無視して、藤田は灰田の腕を掴んで海へと突っ込んでいく。

そんな二人を見送ってから、残された村上さんが「じゃあ入ろうっか」と号令をかけた。


「藤崎って、泳げるんだね」

「それなりに、ね」

浮き輪につかまっている村上さんと違って、一人で浮いている藤崎に声をかけると、こくんと頷いた。

「以外だな~」

「…藤田さんにも言われたわ。そんなに私どんくさく見えるかしら?」

「・・・・いいえ。そんなことないです。ただ・・・なんか以外で」

「そう・・・」

藤崎ははあっとため息をつくと、水中メガネをさっと装着する。

「潜るの?」

「うん。貝探すの」

「・・・かい?」

「そう貝」

藤崎は俺の繰り返しに、頷くと大きく息をすって水中にもぐり込んでしまった。

俺は隣を浮き輪につかまってぷかぷかと浮いている本庄と村上を見つめると、優雅に浮かぶ二人は揃って両肩をあげた。

「藤崎さんって・・・わからないわ~」

村上の言葉に本庄が頷きながら「貝って相当潜らないととれないよね」と見当違いなことを述べたので、村上さんが「あんたもわからないわ」と疲れたように垂れてきた前髪をくしゃりとかきあげたのだった。

村上さんと一緒に苦笑しながら、浜辺をみると顔を水につけるところから始めている藤田と灰田の姿が目に入った。


「ぷっは~! やった十秒!」

「・・・・はあ~」

藤田が水面から顔をあげると、こちらに向かって笑顔を向けてくる。

「はいはい。よかったですね」

「なによ~それ! もっと褒めてよ」

藤田の言葉に、はいはいと頷きながら俺はため息をもらした。

せっかくの海なのに、かなづちのお伴だなんて。

潜ることもままならない彼女に付き合ってると、今日一日が終わりそうだ。

再び海中にもぐりこんだ藤田の海中で広がるわかめみたいな頭をぼうっと見下ろしていると、そろそろ限界なのかプルプルと苦しげにゆれる髪の毛に気がついた。

そろそろ限界だと海面に頭をあげようとした瞬間に、俺は藤田の頭の上に手を乗せる。

「ふがぽっ」と奇妙な声をあげて、泡が沢山吐き出した藤田に「次は二十秒な」と海面から声をかけると、抗議するかのように藤田の手が俺の手に絡みつく。

「こんくらいで死なない。死なない。はいーラスト五秒~」

のんきにカウントダウンする俺に対して、藤田が海中から恨み事をいっているみたいだが、何を言ってるのか聞き取れないので無視する。

「3、2、1・・・・・・・・・・・・・よしっ」

藤田の頭から手をとると、藤田が勢いよく海中から起きあがってきた。

長い髪を前にたらして顔がみえない様は、海からでてきた妖怪のようだった。

海藻みたいな髪をかきわけながら、藤田は恨みがましい目つきでこちらを見つめてくる。

さすがにやりすぎたか、と思って藤田の顔を覗き込む…と、俺はあることに気がついて、笑いを抑えようとしたが、ついには無理で吹きだしてしまう。

「なっ、なによ!」

突然笑い出した俺に、藤田が声を荒げる。

俺は腹を抱えながら、藤田にそっと顔をよせると小さい声で教える。

「はな、出てる」

とたんに藤田は再び海面へと勢いよく沈んでいき、この海にきてから一番の潜りっぷりを見せつけてくれた。



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