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交流男女

「後ろまでプリントいきわたったな~」

担任の聞いてるようで聞いていない言葉に、俺は机の上のプリントに眼を落とす。

夏真っ盛りのムンムンと熱気のこもった教室で、だれているクラスメイトたちの背がいつもより

真っ直ぐになっているのは、たぶん気のせいではない。

「来週からはじまる臨海学校だが~チームわけは俺が平等に、席の順で決めさせてもらった。」

教室内のあちらこちらからあがった声を、担任は無視して続ける。

「チームわけは・・・紙をみろ。集合時間は朝の七時に学校の校門前。遅れたら置いていくし、成績もあげないから気をつけろ」

アバウトな説明を続ける担任の話を右から左に流しながら、俺はプリントのチームわけを見つめる。

席順ということが幸いしてか、俺と灰田と藤崎はおんなじチームだった。

それにプラスして、俺の隣の藤田さんと俺の後ろの席の本庄と村上さんの三人がチームに加わって、わが班は合計で男子三人、女子三人の六人・・・だ。

「それじゃあ、五分でチームの名前を決めろ~」

名前って、一班、二班でいいじゃないか。そういいたげな何人かのクラスメイト達を無視して、クラス中が一気に騒がしくなる。

おれたちの班も、とりあえずは前の方に集まった。

後ろをむく灰田と藤崎。座ったままの俺と藤田。後ろからわざわざご足労を願った本庄と村上。

「で、チーム名だけどどうする?」

灰田が問うと、班内に戸惑った空気が流れる。

なんでもいいよと言わなかっただけまだマシかもしれないが。

う~んと悩んでいると、俺の隣の藤田が「はい」と勢いよく手をあげた。

「はい。藤田」

灰田が指すと、藤田はきゃっとほほ笑んで甲高い声をあげた。

「私、うさぎ飼ってるから~うさぴょんグループってどうかな?」

うさぎを飼ってるから、

うささんグループ。

なんともいえない藤田のネーミングセンスに、班内がちょっと騒然となる。

誰も口を開かないのにざわめいたように感じたのはなぜだろう。

「う~ん・・・」

藤田の後ろの村上が、笑いをこらえるような奇妙な唸り声をあげた。

村上の様子に藤田がもうっと頬をふくらませた。

「な~に、文句ある? 文句ありたげな顔をしてますね!みんな!」

「いや、、文句っていうか、、高校生でうさぴょんって・・・」

頭がいたいといった様子で続けた村上に、男たちも乾いた笑いをもらす。

ずっと無言な藤崎に視線をむけると・・・恐ろしいくらいに無表情だった。

藤田の発言に、灰田が「うさぴょんは・・・さっすがにな~」と顎を撫でた。

「じゃあ、灰田君も何かいってよ」

がたんと軽く机にのりだす形で、灰田に近寄った藤田に、灰田は少し唸ってから「うささんは・・・?」と、、、どうにもならない案をひねり出した。

あれ、でもうさぴょんよりマシな気がするのは―――俺だけじゃないだろう。

後ろにたつ本庄と村上をみると、彼らも同意見だったらしく。

別にそれでいいよ。といいたげな顔をしている。

「うささん・・・か。うん。うさぎが残ってるし、それもいいね! 」

藤田が噛み砕くようにうささん、うささんと何度も繰り返して、ようやく舌に馴染んだのか満足けに頷く。

村上や本庄も「うささんでいいよ」といったので、俺も「かわいいしね」ととりあえず笑った。

俺のかわいいしね、発言に藤田が「でしょう」といってこちらににっこりとほほ笑みかけてきた。

「う、うん」

女子に真正面から笑いかけられたことに、若干気恥ずかしさを覚えながらも頷き返すと、藤田の視線が藤崎に向けられる。

「藤崎さんは、それでいい?」

藤田の甘い声に、藤崎の冷たい声が突き刺さる。

「うさぴょんよりはましね」

瞬間、それまでにこやかだった藤田の表情が固まったのは俺の見間違いではないだろう。

変な空気に胃が痛んだ俺とは逆に、灰田は平然と藤崎の発言に「確かに」と頷いた。

「・・・もうっ、灰田くんも藤崎ちゃんもひどい~」

冷たく凍った氷が解けるかのように、一気に明るくなった空気に後ろの村上と本庄も、朗らかに笑い声をあげる。

「だって、お前。うさぴょんって・・・お前が思ってるよりきついぞ」

「も~かわいいじゃん。ねっ、本田君!」

突然隣から腕を叩かれて、俺は反射的に頷いた。

「ほら!仲間一人み~っけ」

きゃはははというのが相応しい笑い声をあげる藤田に、俺もつられて微笑んだ。




「誠くん。重いからもって~」

「俺だって重いんです~。黙ってもて。おんなじ歳だろ」

「ぶ~。いじわる~いいもん。薫君に持ってもらうから」

かおるくぅ~んとこちらに、手を振る藤田の頭を村上が宥めるように頭を叩くのが見えた。

「灰田のいう通り、みんなもってる荷物は一緒なんだから、自分で持ちなさよ」

「え~」

きゃっきゃと戯れる女子たち。

甘えたような声をあげて我が班のムードメーカになったのは藤田愛美。

藤田は…その朗らかな性格と、天然さゆえか男子からの人気が高い。藤田の隣だということと、臨海学校のチームが一緒だということで、藤田にホの字の連中からはずいぶんとやっかまれた。

変われるなら変わってあげたいものだが、そうもいかない。

そしてそんな愛美を宥めているのが、村上翔子。

村上はママさん的な存在として、暴走する(主に愛美)を宥める役をかってでてる。

臨海学校の以前から、二人は席も近いということもあり仲がよいらしい。

華奢に藤田とは違って、がっちりとした体格だが…出てるところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる体系が・・・いい。らしい。

「じゃあ、なおきく~ん」

「こら」

本庄直樹は隣を歩く灰田と、軽く話しているらしく、藤田の声を無視している。

「あ~無視した!ひどい」

藤田の嘆きを無視し続ける本庄に、藤田がきいいっと声をあげた。

それさえも無視する本庄は、藤田とおんなじ中学校を出ているらしく、藤田の扱いを心得ている様子だ。

俺は、後ろからひょこひょこと付いてくる藤崎を、止まって待つ。

藤崎は薄い肩に不釣り合いな重たいバックを、ぜえぜえといった様子で歩いている。

「藤崎、もうちょい体力つけないとダメだな」

おれが前からそう声をかけると、俯きがちだった瞳を向けてくる。

「・・・そうね」

頷きながらも少し悔しげな様子の藤崎に、俺は「もう少しだから頑張れよ」と声をかけると、そっと藤崎が日陰になるように隣を歩いた。




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