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シビアな男女

 あの一件以来、俺たちは話すようになった。

最初はあまりの険悪した雰囲気にどうなることかと思ったが、、、

「藤崎、おはよう」

「おはよう」

こうなったいまではあれも、いい思い出だ。

「今日もいい天気だね」

そういいながら鞄を自分の机の横に引っかける、そうしてから窓の外を見ると蝉の合掌が学校の隣の山から聞こえてくる。

校内にはいるまでは騒音でしかなかったこの音も、学校に入ると一種の夏のBGMになってしまい、そう頭に響かなくなる。

「・・五月蠅いわ」

藤崎にはこのBGMがお気に召さなかったらしく、額に手を当ててため息をもらす。

「まー、短い命、だしね」

「蝉って一週間か二週間で死ぬのよね?」

「あーらしいね」

「夏の間、少なくとも一カ月、長くて二カ月もずっと音が絶えないってことはどれだけ、あれが生まれているんでしょうね」

苦々しいといった様子でもらす藤崎に、俺は苦笑をもらす。

「藤崎は、蝉、きらいなの?」

かたん、と音をたてて灰田の椅子を引くと、俺はそこに腰を下ろす。

教室に二人っきりだし、会話をしているのだし、別にこれぐらいは普通だろう。

俺が隣に腰かけると、藤崎がちらっとこちらに眼を向ける。

「好きとか、嫌いとか、考えたことないわ。けど・・・今はきらい」

窓の外の樹に隠れているのか、蝉の声が一層大きくなる。

「子孫を残すために必死なのはわかるわ、でも朝っぱらはやめてほしいわね。特にあんまり寝てない日の朝はきつい」

「寝てないの?・・また本よんでた? 」

俺の言葉に、藤崎は机の中から本を取り出す。

「好きな作家の新刊が出たのよ。読み終わるまで眠れないわ」

「…本当に、読書熱心だね」

「だって私、これぐらいしかすることないもの」

あっけらかんとした様子でいった藤崎に、俺は何も返せずにはははと乾いた笑いを漏らす。

決まりが悪いといった様子で頬を掻く俺に、藤崎はにやりと口元をゆがめる。

「そういうときって、普通フォローするものなんじゃないの?」

「ご、ごめん」

「ふふっ。まあ、私も人のこと言えないし、ね」

「ははは」

こうして藤崎と話すようになった気がついたことは、彼女が意図して人を近付けないようにしていることだ。

彼女のぶっきらぼうな態度は、元からなのかもしれないが、一応自分がそういったのが原因で他人から遠ざけられているということは、こうやって俺に時折指摘するのを見るとわかっているみたいだ。

ならそれを直せばいいんじゃない、と頭の隅で思いながらも、彼女がこれでいいと思っているみたいだし、それでいいならこれ以上自分が何かをいう必要は…ないんだろうな。

俺はうんと一つ頷くと、藤崎の伏せがちの瞳を軽く見てから、そっと息をついた。



「おっす。はよ」

「おっす」

「・・・」

灰田がいかにも今起きました、といった様子で教室に入ってきた。

俺は灰田の席を立ちあがると、入れ替わるように灰田が自分の席に腰を下ろした。

ドガっという音がして、椅子や机がガタガタと大きな音がしたため、本に夢中になっていた藤崎がじろりと灰田に視線を向ける。

灰田はその視線に気が付いているのか、ふわあと大きい欠伸をしながらぐっと背をそらす。

そうしてそのまま俺の方に後ろ手で手を振る。

邪魔だよ。とその手を横にどけると、灰田はゆっくりとこちらに顔を向けてくる。

「今日って、俺あたるっけ?」

「……たぶん」

俺の言葉に灰田は絶望の声をあげると、そのまま俺の机の項垂れる。

「昨日、寝てないの?」

「うん。ゲームやってた」

「そうか…」

「う~ん」

ぐりぐりと頭を揺らす灰田の後頭部をぼーっと見ていたら、藤崎が声をあげた。

「うるさい」

「・・・ここはお前の部屋じゃありませ~ん」

灰田の馬鹿にしたような物言いに、藤崎が勢いよく本を閉じる。

・・そうなのだ。この二人は、絶望的なほどに仲がよくない。

「そんなことやってる暇あったら、さっさと自分のところやれば? 」

藤崎のもっともな言葉に、俺もうんうんと頷くと、灰田が「あああ」と声をあげ唸った。

「わからない。わからないんだ・・」

「馬鹿ね」

「馬鹿だ」

「・・・寝てるからだよ」

容赦のない言葉の応酬に、俺が小さく声をあげた。

「ほんだぁ~~~。今日、昼飯と夕飯おごるから~」

でかい図体の灰田が甘えた声をあげる。

・・・・気持ち悪い。

「前も同じこと言ってたじゃない」

「俺は本田にいってるんだ~」

本田くぅ~ん。と猫なで声をあげる灰田に、俺は深いため息をつくと「デザートもつけろよな」と了承の言葉をもらした。

「ええっと、ここからだから~・・・」

俺が英語の教科書を開き説明をしだすと、それまで背をむけたままだった藤崎が振り返った。

「どうしたの?」

突然振りかえった藤崎は俺の教科書を覗き込むと「ここじゃないわよ」と冷たくいった。

「「うっそ」」

俺と灰田が同時にいうと、藤崎はこくりと頭を縦にふった。

「残念だけど事実ね」

「藤崎・・・」

「藤崎ちゃん」

「・・・・・・・・はあ」

俺と灰田から同時に名前を呼ばれ、見つめられた藤崎はズレ落ちかけた眼鏡を上に持ち上げながら、「灰田だけ二千円だせ」と言い放った。


ようやく、なかよく・・・・なりはじめたかな。

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