第三章:家族
僕の家は貧乏だった。
しかし当時住んでいた町では珍しくなかった。
事実、幸村も琉人も片親だったせいか
貧乏だったし生活は大変だったらしい。
僕もそういう大変な生活を送っていた一人だ。
父のギャンブル依存症によって
折角建てた会社は倒産。
僕が小学三年生から
高校生になるまで父はニートだった。
そして父親はギャンブルの為に
借金を繰り返していた。
ただ当時、家が借金をしていたことなんて
僕は知らなかった。
ただ何となく「父はなにやってるんだろう?」
とか「なんで貧乏なんだろう?」とは思っていた。
家のガスや電気が止まることは
しょっちゅうだった。
中三の冬、ガスが復活する事が
なくなり僕は冷水で体を洗った。
それに嫌気がさして
風呂に入るのをやめると母が
「風呂は?」と聞いてきた。
「お湯もでないのに入れるか!」
と思わず感情的になったけど
母は冷静だった。
「お湯ならあるわよ」と言って
電子レンジで温めたボウル一杯の
お湯が出て来た。
母と弟はそれを使ってキッチンで
頭を洗っていた。
なんと逞しい事か。
一方父親はどうだったか?
勝手に借金してくるし、
僕の貯金箱から金
を盗んでパチンコにいくし、
不倫はするしで大変な相手だった。
ただ良い面もあった。
仕事に対する姿勢は真剣だったし、
ユーモアのセンスがある人だった。
しかしやはり人格に問題があった。
印象深いのは中三の大晦日。
父の実家である祖父の家に親戚が集まり、
夜になると皆酒を飲んで盛り上がり始めた。
すると父は僕の前で平然と金を賭け、
ブラックジャックをやりはじめた。
そういう姿に嫌気がさした僕は
祖父の家を出て2時間かけて
自宅まで歩いて帰った。
30分後、父も自宅に帰ってきた。
直後、僕に向かって
「勝手に帰るな!」と怒ってきた。
しかし僕もムカついていた。
父のせいで貧乏なのに堂々と
ギャンブルができることに。
僕は父の顔を見たくなかったから
背を向けて話していた。
すると父は「わかった。俺が悪かった」
「今日勝ったからって訳じゃないけどこれやるよ」
「お母さんには内緒だぞ」と言った。
つまり金で僕を買収しようとしたのだ。
正直腹が立ったけど、
まあ貰えるものは貰って置こうと父の方を振り返った。
すると父の手にあったのは
たったの 500 円だった。
普通高校生になろうかという
歳の息子を 500 円で買うか?
父のキショイ人間性が
露骨に見えたせいでやはり僕はキレた。
「そんなはした金いるか!!」と
父の手を叩いてその日はふて寝した。
翌朝、床には昨日の 500 円玉が
転がっていたのでちゃんと拾っておいた。
しかし、そんな父親がいながらも
新しい風を吹き込む愉快な男が一人いた。
それが5歳離れた僕の弟、優生だ。
こいつは本当にイカれている。
一緒に風呂に入ると湯船でうんこしたり、
おんぶしてあげると肩を噛んできたりした。
僕が小学四年生の時、
親の運転で高速道路を走っていると、
優生が僕のガラケーを
窓から外に放り投げたこともある。
後ろを走っていた車の前輪に轢かれ、
僕のガラケーはベイブレードみたいに
火花を散らしながらアスファルトの上を回った。
奇跡的に僕のガラケーは無事だったが、
俺達兄弟は無事では済まなかった。
また僕が中一になった時、
2年かけて貯めたお年玉で買った
PSPとモンハンを翌日に
電子レンジ入れてぶっ壊されたこともある。
全部実話だ。
だがこいつはダウン症という事も
あって僕たち家族は優生に甘かった。
そしてなにより憎めない男だった。
いつも陽気に歌い、踊り、
人懐っこい笑顔を見せる奴だった。
その人の懐に入り込む才能は凄いもので、
ガスが止まって風呂に入れなくなった時、
流石にちゃんと体を洗いたいと
近くの銭湯に家族で出かけたことがある。
すると優生は風呂から上がった後、
受け付けのおばさんと勝手に仲良くなって。
1年分の回数券を貰っていた。
しかも凄い事に優生は重症のダウン症
であるため日本語を話せない。
なので身振り手振りだったり、
ニコニコした表情で雰囲気を作って
相手を取り込んだのだ。
きっと健常者だったら
ひどい女性関係になっていたであろう。
さて、当時の僕にとっては
ゲーム、抹茶アイス、そして弟が
癒しになっていた。
だが、だからといって
悩みの種が消えるわけでは無い。
僕のイジメられ気質は
高校になるとより発揮されることになる。




