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人はなんのために生きるのか?  作者: 宗徳


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第一章:最初の思い出

僕の最初の記憶は、ベビーベッドの中にある。


1歳の時の記憶だ。


部屋の天井は白く、昼の光がカーテン越しに柔らかく差し込んでいた。

福岡の町外れにある、少し古いマンションの一室だった。


都会ではない。

かといって田舎でもない。


コンビニとパチンコ屋と、名前も知らない飲食店がぽつぽつ並ぶ、

どこにでもある地方の町だ。


その部屋で、僕はベビーベッドの柵を握っていた。


手にはおもちゃ。

振るとカラカラ音が鳴る、赤と黄色の安っぽいおもちゃだったと思う。


僕はそれを振った。


カラカラ。


すると母が言った。


「すごいね」


それだけだった。


大げさでもなく、

わざとらしくもなく、

ただ自然に言った言葉だった。


でも、その声はなぜか今でも覚えている。


人間の記憶というのは不思議なもので、

人生の大事件よりも、

こういう小さな言葉の方が長く残ったりする。


あの時、僕は褒められた。


それが嬉しかった。


たぶんそれが、僕の人生の最初の感情だった。


僕の母は天然な人だ。


怒ることはあまりない。

かといって、干渉してくることもない。


放っておくタイプの優しさだった。


子供の頃、

母が僕に長い説教をした記憶はほとんどない。


だから僕は、比較的自由に育った。


自由と言えば聞こえはいいが、

放牧に近いものもあったと思う。


でも、その距離感は嫌いじゃなかった。


父は、母とは正反対の人だった。


仕事はちゃんとする。

外では真面目な人だったと思う。


でも家の中では、少し違った。


怒ると怖い。

声も大きい。


そして何より、

問題を持ち込む人だった。


借金。

ギャンブル。


大人になってから分かったが、

父はそういうものと縁のある人間だった。


ただ、それでも僕は父のことを完全には嫌いになれなかった。


なぜなら父は、面白い人でもあったからだ。


冗談を言うのが上手かった。

場の空気を笑いに変える力があった。


子供の頃の僕は、

それを何となく覚えていた。


それと僕には5歳離れた弟がいる。


名前は優生ゆうき


ダウン症だ。


小さい頃はその意味がよく分からなかった。


ただ、周りの子供たちとは少し違う、

ということだけは理解していた。


優生はよく笑う。


本当によく笑う。


何がそんなに面白いのか分からないが、

一人で笑っていることも多かった。


その笑い声は、家の中に妙な安心感を作っていた。


僕が好きだったものは二つある。


ゲームと、抹茶アイスだ。


学校から帰ると、

テレビの前に座ってプレイステーションの電源を入れる。


起動音が鳴る。


その横には、抹茶アイス。


あの少し苦い甘さが好きだった。


子供の頃、

「なんで抹茶なんて食べるの?」

と聞かれたことがある。


まあストロベリーやチョコの方が

美味しいという人の気持ちは分かる。


でも僕にとっては、抹茶が一番好きな味だった。


学校では、目立たない子供だった。


面白いことを言うタイプでもない。

スポーツが得意なわけでもない。


クラスの中にいても、

特別な存在ではなかった。


ただ、友達はいた。


幸村と琉人。


二人とも、小学生の頃からの友達だった。


子供の友情はシンプルだ。


理由なんてない。

ただ気が合う。


それだけで成立する。


大人になってから思うが、

あれほど純粋な関係はなかなかない。


だが小学三年生のある日。


僕の学校生活は少し変わる。


その日、誰かが言った。


「こいつ呪いなんだよ」


最初は冗談だったと思う。


笑いながら言った一言。


でも、子供の世界では

そういう言葉が簡単に広がる。


「呪い」


その言葉は、

教室の中をゆっくりと広がっていった。


僕の人生の、

最初の試練だった。

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