第五話 そのメイド、感涙にて
ヴァイオレットが公爵家の使用人兼、ミリアリアの専属のメイドになって数年。
ついにその時が来た。
ミリアリアが婚約することとなったのだ。
「はぁ……お相手の方は、どんな方なのかしら……お優しい方だといいのだけど……」
「きっとお嬢様のように、お優しい方ですよ」
「でも……」
お茶を淹れながら、不安がるミリアリアにヴァイオレットは答える。
「大丈夫です、私を信じてください」
「ヴィタがそう言うなら、きっとそうね!」
その愛らしい笑顔に、ヴァイオレットは思わず吐血しかけるのを堪える。
「推しが今日も可愛い……」
「何か言った?」
「なんでもありません。さぁ、お嬢様。このお茶を飲んだら、支度にいたしましょう」
そう言って、ヴァイオレットはお茶を差し出す。
「ありがとう、ヴィタ。今日もヴィタの淹れてくれたお茶は、最高だわ!」
ヴァイオレットは内心で「お嬢様の尊さには敵いません」と、改めて推しの可愛さを噛みしめながら支度をしたのだった。
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そうして始まった顔合わせ。
分かってはいたが、相手はもちろんアシュレイ・ミルドレッド。
ヴァイオレットは知っている。二人はこの顔合わせの時、一瞬で恋に落ちるのだと。
……そして同時に、原作のヴァイオレットは地位も容姿も恵まれた主人であるミリアリアに、嫉妬するのだ。
しかしこのヴァイオレットは、原作とはもちろん違う。
嫉妬するどころか、待ちに待った推しカプの正式な誕生に眼はがんぎまり。さらに唇から血が出るほど、物理的にその尊さを噛みしめているのだ。
「大変、ヴィタ! 口から血が出てるわよ!」
「すみません、推しカプが尊……いえ、口を噛んでしまっただけです。問題ありません」
「でも手当が必要よ。このハンカチを使って」
そう言って差し出されたハンカチに、ヴァイオレットは動揺する。
(推しからのハンカチ!? ほ、欲しい……けど汚すのは! ……でも欲しいっ!)
ヴァイオレットは震える手を必死に抑えながら、己の欲に負けて受け取る。
「もしそのハンカチ、気に入ってくれたのならそのままもらってくれると嬉しいわ!」
「ありがたき幸せ……!」
(お言葉に甘えて……コレはお嬢様から頂いた、宝物コレクションに加えなければ……!)
「……ありがとうございます、お嬢様。少し口をすすいでまいります……」
そう言ってヴァイオレットは、その場を離れた。
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