第十一話 そのメイド、告白にて
お茶の準備をしながら、ヴァイオレットはイラついていた。
理由は言わずもがな、もちろんリディアムが原因である。
「はぁ……なんの御用ですか? 本日はお嬢様とアシュレイ様が、お会いになるというお話は伺っておりませんが?」
「もちろん、お前に会いに来たのだ! ヴァイオレット!!」
ヴァイオレットのため息など全く気にもとめずに、リディアムはそう告げた。
「ふふふっ、微笑ましいわねぇ〜」
「じぃや、ばぁや! あの二人、いい感じじゃないかしら?」
「お嬢様、静かになさりませんとバレてしまいますぞ」
扉の向こうには、じぃや様とばぁや様……そして何故か、ミリアリアまでいる。
もちろん三人の気配と会話は、ヴァイオレットにはバレバレだ。
「とりあえず、お茶をどうぞ」
「あ、ありがとう。……そうだ、先日市場で……」
「それで? ご要件は?」
一分一秒でもリディアムの顔を見たくないヴァイオレットは、無作法に足を組んでそう口にする。
ヴァイオレットは考えた……先日のリディアムからの告白を、どう上手くかわそうかと。
そして気づいたのだ。好意を持たれているのなら、嫌われればいいのだと。
ヴァイオレットの作戦その壱。
『無礼な態度で接する』。
リディアムがどういう経緯で、ヴァイオレットに好意を抱いたのかは分からない……しかし、使用人と貴族。それも公爵家の次男。
(使用人の身でありながら、さすがに無礼な態度で接すれば……さすがに愛想を尽かすでしょう……)
さらに腕を組、ドンと構える。「さぁ、この態度に怒れ」とばかりだ。
ヴァイオレットの作戦は、早速効果が出てきたのだろうか?
チラッとリディアムを見れば、小刻みに震えている。
「ヴァイオレット……」
リディアムの低い声に「いいぞ、もっと怒れ」と、ヴァイオレットは内心で煽る。
その瞬間――――リディアムは、勢いよく顔を上げた。
「……っ、それが普段のお前なのだな!?」
「……はぁ?」
そこには怒りを滲ませるどころか、どこか嬉しそうにするリディアムの顔だった。
予想外の反応に、ヴァイオレットは間抜けな声を出す。
「普段完璧なお前が、俺の前でこんなにも……! それほどまでに俺へ信頼と、心を許してくれているということだな!?」
「……ちょっと、何言ってるか分からないですね」
これが彼女の本音だった。それ以上でも、それ以下でもない。
だが、リディアムは止まらなかった。それどころか、何故か勢いよく立ち上がる。
「ミリアリアの専属メイドになるには、様々な困難と努力があったことだろう。それは弛まぬヴァイオレット自身の努力の結果だ。その完璧を目指すには、たくさんの重圧にも耐えたことだろう。そして同時に、四六時中弱みや弱音を見せるのができなかったのだろう」
「いや、ちが……」
「皆まで言うな、ヴァイオレット! 口下手なお前のことだ。俺に素の自分を見せるのも、相当勇気がいることだったということは分かっている!」
「いや、だから……」
ヴァイオレットが止めようにも、リディアムは矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。その光景はどこか既視感があるが、本人はまるで気づいていない。故に、こちらもスルーする。
しかし、そろそろ本気で止めなければいけない。
何故ならば……。
「……リディアム様」
「どうした、ヴァイオレッ……」
ヴァイオレットは無造作に、リディアムの口元を鷲掴む。
「そろそろ、その五月蝿い口を閉じてくださいませんか……?」
その瞳にはもちろん、怒りの色が含まれていた。
「ふぁ、ふぁい……」
「よろしい」
そう言って、ヴァイオレットは手を離す。
リディアムはと言うと、頬を擦りながらもどこか嬉しそうだ。
「……すまない、取り乱した」
「取り乱しすぎです」
「『完璧』でないお前が見れて、俺は嬉しかったんだと思う……」
「それはどういう意味ですか?」
モジモジとしながら、リディアムは口を開く。
「……お前はいつも、完璧で隙がない。そんなお前が、俺の前で本当の姿を見せてくれた。好いた者のそんな姿が見れて、嬉しくないはずがない」
ヴァイオレットは「よくもまぁ、恥ずかしげもなく……」と、どこか他人事に聞いている。
「……正直、お前が俺に興味がないことはわかっている。だからこそ、チャンスが欲しい」
「『チャンス』、ですか?」
リディアムはヴァイオレットの前まで歩くと、そっと片膝を着く。
「俺に、お前を惚れさせるチャンスをくれ」
そう言って、ヴァイオレットの手をとる。
ヴァイオレットなら、その手を簡単に振り払うこともできただろう。しかし、彼女はそうはしなかった。
「……言っておきますけど、私はリディアム様が思ってるよりもずっと性格が悪いですよ?」
「それでも俺は、お前を愛すと誓おう」
そう言って、リディアムはヴァイオレットの手の甲に軽くキスをする。
「……必ず、お前を落としてみせる」
この時、リディアムは気づかなかった。
通常の乙女なら、ときめくこの場面。
だが実際は、顔を真っ青にしたヴァイオレットが内心で「キモイ」と、全身鳥肌でドン引きしていたことに……。
お読みいただきありがとうございます。
良ければブックマークや感想、アクションや評価など入れてくださると今後の励みになります。
これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m




