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完結‼️翡翠の歌姫は後宮で声を隠す〜特殊な目を持つ歌姫ですが、2人の皇子に追われてます〜  作者: 雪城 冴 @新選組小説 連載中
三章 後宮編

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3-8 夜宴の知らせ

◇ ◆


 蒼瑛は、翠蓮と芙蓉(フヨウ)妃の不穏な噂を聞きつけ、貴妃宮に参上していた。


「すみません無理を言って」


「いいのよ」

 芙蓉妃の鎮痛な面持ちはこれからの話が何であるかを予感しているのだろうか。どこか落ち着かない様子で、侍女を下がらせた。



「それで……どうしたことかしら、あなたから会いたいだなんて。きっと良くない話なんでしょうね」


「そんな嫌味を言わないでください」


「ふふ、本気にしないでちょうだい」

 芙蓉妃は場の緊張を解すように微笑んだが、すぐに真剣な表情に戻る。



「翠蓮のことね……?」


「はい……なぜお分かりになったのですか」



「今日、皇后さまがこちらへいらっしゃったわ」


――皇后

 その名前を聞き、蒼瑛は息を飲んだ。


 

「……皇后さまは何と?」

 

 芙蓉妃は口をつぐむ。机の上に置いた手が震えていた。やがて息をつくと重々しく口を開く。


「夜宴を開くとおっしゃったわ。そこで……翠蓮の歌を聴きたいと、そうおっしゃったの」



 今日、蒼瑛は、「面倒なことになる前に翠蓮と距離を置いてくれ」と芙蓉妃に頼むつもりでいた。


(間に合わなかったか――)

 蒼瑛は唇を噛んだ。

 芸事に関心が薄い皇后が、わざわざ一歌人の歌を聞くために夜宴を開く。その目的は違うところにあるのは明白だ。



 花茶からは、蓮の気品ある香りが漂う。芙蓉妃は立ち昇る煙を見て、伏し目がちに呟いた。


「蓮の花の()で方を間違ってしまったわ。翠蓮は、私の寂しさを埋める人形ではないというのに……」


「母上……」

 

 蒼瑛は掛ける言葉がなかった。

 蓮の花びらが浮かぶ花茶は、芙蓉妃の表情を映している。

 その沈んだ色からは、翠蓮に対する愛情と、それ以上に深い後悔を感じさせた。

 

 寂しさを埋めるため――

 後宮の貴妃であり、皇帝の寵愛を一身に受けているというのに、母の心を孤独にするものは一体何なのだろうか。


 芙蓉妃は決心したように蒼瑛を見つめる。


「こうなった以上、後には退けません。あなたに迷惑をかけて申し訳ないけれど、翠蓮を守るために力を貸してほしいの」


 蒼瑛が頷いた時


――コンコン

 侍女が扉を叩いた。


「お話中大変失礼いたします。先程皇后さまの使いから、夜宴の詳細が届きました。一週間後に開催するとのことです」


 芙蓉妃は侍女に礼を言うと、眉をひそめる。


「一週間後だなんて、思った以上に急ね。

……あと十五分程で翠蓮が来ることになっているのよ。ちょうど良いので今から策を立てましょう」



 蒼瑛は書類にざっと目を通した。

 歌人と曲名の項目に目が止まる。


 歌人は、翠蓮と紫雲(シーユン)で決定していた。

 紫雲の名に、蒼瑛は嫌な予感がする。


「ここでも紫雲か……」


「紫雲? この歌人ですか?」


「ええ……。念のため目付役を紫雲に付けます。

曲まで指定されているとは……」



 翠蓮の歌が聴きたいと言って来た割に、皇后は曲を指定して来ていた。それも翠蓮が苦手なタイプのものを。


 芙蓉妃も眉を寄せる。

「ええ……てっきり揺りかごの歌かと思っていたわ……」


「伴奏も皇后さまの指定ですか」

 細工をされては、歌えなくなってしまう。


「母上、ここは私から交渉します。

紫雲も楽府の歌人ですし、伴奏は楽府で用意するのが自然です」



「頼みますね。ところで、翠蓮にはどこまで話しましょうか」


「私は、翠蓮の歌を政治の道具にしたくはありません」

 全て話せば、意図せず後宮の政治争いに巻き込むことになる。

 皇后の前での歌唱となれば只でさえ緊張するだろう。そこに加えて、翠蓮に余計な心配をさせたくなかった。


「そうね、私も同意見だわ」

  

 蒼瑛は、萎みかけた夏椿を見て胸騒ぎがした。


「少し到着が遅くはありませんか? 見て参ります」




 蒼瑛は、芙蓉妃の居室を出て、長い廊下を渡る。

 薄暗さが蒼瑛を不安にさせた。


「果たして守り切れるのだろうか……」

 後宮が舞台では、蒼瑛は圧倒的に不利だった。

 基本的に成人男性は、皇帝のみ足を踏み入れることを許される花園。貴妃の息子と言っても自由な出入りは制限される。



(()()皇后に目をつけられたというのか――)


 蒼瑛は身震いした。

 息子である炎辰に、皇后がしてきた仕打ち――

 それを思うと、敵対しているとはいえ、兄への同情を禁じ得ないほどだ。



 蒼瑛はまとわりつくような、じっとりした空気を振り払うように歩を進める。


 閉ざされた空間では、母の貴妃という位と、築き上げてきた人脈に頼るしかない。


 門をくぐり抜けた時、蒼瑛の鼓動が跳ね上がった。嫌な予感は当たっていた。



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