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【完結】翡翠の歌姫は後宮で声を隠す【中華×サスペンス】   作者: 雪城 冴 @新選組の沼に落ちてます
二章 歌姫の競演編

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2-10 雪の記憶


◇ ◆



 蒼瑛(ソウエイ)が何回目かに会った翠蓮は、冷たい雪の中で凍えるように小さくなっていた。


「どうしたの?」


「お母さん、死んじゃうかも……」


 翠蓮は歌人のお母さんが病気なこと。元気づけるために歌っていることを教えてくれた。



「大丈夫……きっと治るよ……」


「うそ! 私の歌じゃ だめなんだ……」


 目からこぼれ落ちた涙が雪を溶かしていく。


 蒼瑛は居ても立ってもいられなかった。

 たった一人の母親が死んでしまうかもしれない恐怖――蒼瑛には想像もつかなかった。

 どうにかしてあげたい。そのことで頭がいっぱいになる。 


「翠蓮の歌は駄目なんかじゃない!」


 翠蓮は涙でいっぱいの目で蒼瑛を見た。


「……僕も友達いなくてさみしかったけど、翠蓮の歌聞いて元気出たんだ! だから、そんなふうに言わないで!」

 

 自信がなさそうに、翠蓮は顔を伏せてしまった。


 蒼瑛は襟元から蒼玉の首飾りを取り出す。

 それは、皇帝である父から「皇子の証」として、兄とともに譲り受けたものだった。


 一瞬迷ったが、どうしても翠蓮を元気づけたい――その思いが蒼瑛を突き動かす。

 大きく息を吸うと、翠蓮の首にふわっと首飾りを掛けた。


「僕、皇子なんだ。だから嘘はつかない」


 そんな馬鹿なと言うように、翠蓮は受け取った首飾りをしげしげと見つめる。


「きれいだけど……ただの石に見える……」


「う……兄さんのと合わせると龍が浮かび上がるんだ! それを見たら翠蓮だって信じてくれる!」


 一度止まったはずの翠蓮の涙が、再びあふれ出す。おろおろし、どうしたのかと尋ねると、翠蓮はのどを詰まらせた。


「だって……蒼瑛……皇子さまなんでしょ? お城に帰っちゃうんだよね?」


 その通りだった。蒼瑛の胸は、雪の冷気に満たされ、冷たくなっていく。

 この子は、自分が皇子だと知っても離れたくないと泣いてくれる。


(別れたくない。ずっと一緒にいたい……)



「僕が大きくなったら宮廷に音楽団つくる。

だから、いつか僕のために歌ってくれる?」


 翠蓮はその言葉に、じっと蒼瑛を見た。


「それって約束?」


「うん、約束」


 すると翠蓮は袖元から、茶色の革袋に包まれた翡翠の首飾りを差し出した。お母さんからもらったお守りだという。


「大事なものだから、革袋から出しちゃ駄目って言われてるんだ」


 そんなものを受け取っていいのかと戸惑う蒼瑛に、翠蓮は泣きながらもにこっと笑った。


「いいの、わたし大きくなったら蒼瑛のために歌う。それは約束の印ね」


 初めて女の子から物をもらった。それに、子供同士で約束したのも初めてだった。

 翠蓮は少し元気が出たようだったが、不意に不安げな顔に戻った。


「お母さんが心配だから帰るね。また、明日くるから……」


 そう言って、翠蓮は小さな背を向けて雪の中を歩いていく――




◇ ◆ 



――(待って)


 声を出そうとして蒼瑛は目が覚めた。


(そうだ。あの後……)

 あの後、翠蓮は三日間姿を現さなかった。

 ようやく会えた彼女は母親を亡くし、泣きじゃくっていた。


 何もしてあげられず、逃げるように宮廷へ帰ってきてしまった。宮廷に帰ってから、翡翠の瞳への差別があることを知り、ますます後悔は大きくなった。


 翠蓮はあの後、どのようにして生きてきたのだろうか。



 蒼瑛は、まだ寝ている翠蓮を見つめる。

 長いまつ毛に縁取られたまぶたが、ゆっくりと開く。


「ん……」


「起こしてしまったか」



 翠蓮が状況を把握しきれないでいると、蒼瑛は苦しそうに微笑んだ。


「謝らなければいけないことがあるんだ」


「……なんでしょうか」


「辛い時になんの力にもなれず……避けるような態度をとってしまった」


 翠蓮はその言葉を聞くと、その時の痛みを思い出したように一瞬顔を歪めたが、すぐに首を振った。


「決して君を傷つけるつもりではなかった。」


「なにも謝っていただくことはありません……どうか、そんな顔をなさらないでください。

そのような蒼瑛さまを見ることの方が辛いです……」

 翠蓮は今にも泣き出しそうだった。



「……悲しませてばかりなのに、優しいな翠蓮は。昔から、ずっと」


 

 十年前のあの日、孤独だった蒼瑛にとって、翠蓮は光そのものだった。

 そしてそれは今もかわらない。


「これから先、何があっても離れない。私のことを信じてほしい」


 蒼瑛の決意に応えるように、翠蓮の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。



二章完▶三章へ続く


 

こんにちは。雪城 冴です。


お目に留めていただきありがとうございます♪


本作品は完結しており、時間のある時に移しております。


三章は高級編ということで、女性同士の遠回しな嫌がらせに力を入れました。

引き続きお付き合いいただけば幸いです。

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