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完結‼️翡翠の歌姫は後宮で声を隠す〜特殊な目を持つ歌姫ですが、2人の皇子に追われてます〜  作者: 雪城 冴 @新選組小説「あさぎに揺れて」連載中
二章 歌姫の競演編

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2-3 絢麗とお昼

 朝餉あさげの時間。

 前に座る明鈴は同情的に言う。



翠蓮(スイレン)絢麗(ケンレイ)と二重唱することになったんだって? 上手くやってるの?」



「うーん……」

 言葉に詰まる。

 実のところ全然上手くやれていなかった。


 明鈴が雑穀がゆを運んだ口を動かす。


「同じ釜の蜜をすするだっけ? 仲が深まるとか言うよね。って言っても絢麗相手じゃ手強いか……」


 "同じ釜の飯を食う――"翠蓮は閃く。


「ありがとう明鈴! やってみる!」

 がたんと椅子から立ち上がると、翠蓮は足早に食堂を出た。




 稽古場に入ると、絢麗がすでに来ている。


「絢麗さん、おはようございます!」


 彼女は切れ長の目を、ちらっとこちらに向けた。

「……おはよう。朝から元気だけはいいのね。で、歌は少しは進歩したのかしら


「……」


 数日経過したが絢麗はずっとこの調子だった。

 翠蓮は専門書と睨み合い、夜な夜な練習を重ねている。しかし絢麗に認めてもらうには、もう少し時間がかかるようだ。


(やっぱり同じ釜のご飯を……)

 

 考えていると、香蘭が一つ結びを揺らし入ってきた。

 発声練習などの肩慣らしをしっかりしてから合わせに入る。


 歌を聞いた香蘭は眉をひそめる。


「翠蓮。柔らかい声が持ち味なのは分かるけどね、絢麗に遠慮しちゃ駄目。

ただ、楽譜への理解は深まっていて結構よ」


「はい!」


 次に香蘭は絢麗に向く。


「絢麗、あなた技術は流石だけど……二重唱は二人でハーモニーを奏でるのだから、独りよがりに歌わないで」


「……はい」

 絢麗の顔は憮然としているが、香蘭は無視して手を叩いた。


「はい! じゃあ二人とも今の点を意識して個人で練習して!」


 ◇ ◆

 


 昼休みに入るや否や、絢麗はさっさと歩き出してしまう。

 遅れを取らないように翠蓮もあとに続く。


(ここでめげちゃ駄目。少しでも距離を縮めたい……)



 食堂では温かいお粥と、根菜たっぷりの煮物が並ぶ。淡い緑の菜の花やフキが、春の気配をそっと告げていた。


 翠蓮は絢麗の正面に座り、手を合わせる。湯気が出ているお粥を食べ始めると、絢麗は肩をすくめた。


「あなた、意外と図々しいのね……。どういうつもり?」


 翠蓮は笑顔で言う。


「いえ、ただお話できたらなって……絢麗さんはどんな歌が、好きですか?」


「は? ええ……そうね。歌自体好きとか嫌いとか、特に考えたことないわ」


「じゃあ、なぜ歌を?」


 絢麗の箸がピタッと止まる。美しい所作で箸を置くと、茶を口に含んだ。


「教養よ。それだけ」


 教養――名家に生まれた女性なら礼儀作法は一通り叩き込まれる。絢麗にとって歌は、その一部ということだった。


 翠蓮は煮物に手をつける。人参が花形に切られていて可愛いらしい。


「好きだから、歌人になったんですよね?」


「だから……好きというか、気づいたらこうなっていたのよ。才能があったということ」


「なるほど」

 好きこそものの上手なれと言うが、下手の横好きと言うこともある。

 絢麗はそのどちらでもなく、たまたま才能に恵まれた。ということなのだろうか。


 絢麗は遠い目をした。


「あなたが思うほど、楽しいことばかりじゃないのよ。才能があるって言うのは、妬まれるということなの――」


 苦い過去でもあるのだろうか。

 絢麗は一瞬寂しそうな顔をしたが、直ぐにいつもの勝ち気な雰囲気に戻った。


「特にね、あなたみたいにニコニコして"人畜無害です"って顔をしてる人の方が、裏では分からないのよ」


 そう言えば、翠蓮は初めて会ったときから、絢麗に敵意を向けられていたような気がする。



「何か……あったんですか?」



 絢麗はうっとおしそうに、手で翠蓮を追い払う仕草をする。


「色々よ――……あなた」


「はい?」

 お粥のお代わりをよそう翠蓮を見て、絢爛は驚いた顔だ。



「意外と……しっかり食べるのね」

 本日二回目の "意外と" だ。



「はい、よく言われます」

 育ての父は『食は身体の基本』と言っては、貧しいながらに工夫し料理を作ってくれた。そのせいか、翠蓮は好き嫌いなく何でも食べられる。

 身体が丈夫なのもこのおかげだろう。



 しばらくの沈黙のあと、絢麗がぽつりと口を開く。


「あなたは……好きなんでしょうね。歌が……」


「好きです」


「じゃあ聞くけど、なんで好きなの?」


 その質問に、翠蓮は首をひねる。



 育ての父は音楽を生業にしていた。翠蓮にとって、歌は常に傍にあるものだった。

 ――村で差別に遭っても、自分を庇った父が死に、悲しみのどん底にいた時も、歌がいつも救ってくれた。

 歌っていれば、辛いことも忘れられた。


 父は普段は優しいが歌に厳しく、失敗すると、太鼓のバチが飛んでくるような環境だった。

 だけど、歌をやめたいと思ったことは一度だってなかった。


(何で? 何でなんだろう――)



「色んな人の、人生に関わるうちに――

歌で誰かを支えることが、幸せだと感じるようになったからです」


 絢麗はその答えを聞くと、俯き、動かなくなった。

 翠蓮は食事を終え、手を合わせる。


(絢麗さんは……あんまり歌が好きじゃないのかな……)



「あの……」

 声をかけようとすると、絢麗は袖を揺らしすっと立ち上がる。


「これ以上、馴れ合う気はないわ」


「絢麗さん――」


「なによ」


「ご飯、全然食べていなれけど、大丈夫ですか?」


「……」


「もし私と一緒が嫌なら、もう出ますので。しっかり食べてくださいね」


 そう言い残し、翠蓮は先に食堂を出て行ってしまった。




「なんなのよあの子……」

 絢麗は仕方なく、もう一度腰を下ろす。しぶしぶ、冷めてしまったお粥を口に運ぶ。


「誰かのための歌? 幸せに生きてきた人には分からないのよ。

凡庸な……取るに足らない歌よ」


 そう言い聞かせるのに、胸の中に苦々しい気持ちが広がっていく。


「フキ、苦いから嫌いなのよね……」

 流し込むように茶を飲む。

 最近残しがちだった食事は、翠蓮に釣られたのか綺麗に完食していた。


 絢麗は静かに立ち上がり、稽古場に足を向けた。

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