表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】翡翠の歌姫は後宮で声を隠す【中華×サスペンス】   作者: 雪城 冴 @新選組の沼に落ちてます
一章 楽府オーディション編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/47

1-11 【過去編】悲しい旅立ち


 祝宴での蒼瑛の心遣いに、翠蓮は宮廷に来るまでの村の暮らしと、忌まわしいあの日を思い出していた――


 

 ◇ ◇


 ――宮廷に来る1年前――


「つめたっ……」

 翠蓮(スイレン)が振り返ると、雪玉を持った男の子達がいた。

 

「やーい、忌み眼(いみめ)!」

「翡翠の目で見られたら不幸になるぞー!」


 皆飛び上がり、面白そうにはやし立てる。



「だから、そんなのただの迷信……」


 言い返そうとするも、ひゅんっと次の雪玉が飛んできた。

 少女の珍しい翡翠の目は、理由もないのに、この国では不吉を呼ぶとして嫌われる。



(いっそ黙っているほうが早く終わる……)


 翠蓮がそう思った時。




「いってー!!」「なにしやがる!!」


 少年達は、熊のような大きな体をした男性にゲンコツをくらっていた。



 翠蓮はぱっと顔を明るくする。

「お父さん!」


 父は、ギロリと少年達を睨みつけ一喝した。


「いい加減にしろ! 忌み眼なんて差別してんのは、こんな片田舎の村だけだからな!」



 翠蓮は父の胸に飛び込んだ。


「いてて……、石頭だなあいつら」

 ゲンコツした手をさする父を見て、翠蓮はふふっと笑った。




 手をつないで家へ帰る。 

 村のはずれの小さな家、ここが翠蓮の住処(すみか)だった。



 火をおこしながら翠蓮が歌うのを、父は嬉しそうに聞いていた。


「揺りかごの唄か……。出会った時も、翠蓮はその曲を歌っていたよ。もうすぐ十年だな……」



 彼は本当の父親ではない。

 たった一人の母を亡くし、途方にくれていた小さい翠蓮を拾ってくれた。



 父は目を伏せて、気まずそうに切り出した。


「宮廷歌人になる話、考えてみたか?」


 翠蓮は『聞こえない』というように耳を塞いだ。


「翠蓮……こんな田舎の村じゃ、生きにくいだろう。

都には色んな人がいるし、差別だってここよりはマシだ」



「一人で行くなんて怖いもん」


「俺は足が悪いから、付いてはいけないんだ」



 足をさする父に、翠蓮は「この話はおしまい」と、拗ねたように背を向けた。


 

 差別する者もいるが、村人の中には優しい人もいる。


 だから、翠蓮はひっそりとしたこの生活が、そんなに嫌いじゃなかった。

 母のような歌人になることは憧れるが、何よりここには、父がいる。

 大好きな歌や楽器も教えてもらえる。



 そんな毎日が、ずっと続いていくと思っていた。



 ◇ ◇


 状況が悪くなったのは、村が飢饉に見舞われてからだった。



 村人は皆殺気立ち、暴徒化した者が、盗みや暴力を振るうようになっていた。

 父は、忌み眼を持つ翠蓮の身を案じていた。


「用を済ませてくるから、家から出るなよ」


 翠蓮はこくんと頷いた。



 一人、家の中で囲炉裏(いろり)の火を見つめる。


 飢えて余裕がなくなった村人たち。翠蓮は、皆の行き場のない怒りが、激しい憎悪となって自分に向けられているのを感じていた。



 不意に、外で子供の泣き声がした。

 外に出るのはためらわれたが、なかなか泣きやまない。


(こんな村のはずれで、どうしたのかな)

 心配になって、そっと見てみた。



 四歳くらいの小さな女の子が泣いていた。

 近づいてみると、足から血が出ている。



「転んじゃった?」

 翠蓮が話しかけると、女の子は泣き止んだ。


「まいごなの……あし、いたい」



「うん、待っててね」

 翠蓮は衣を口で裂き、女の子の足に巻きつけようとした。


 がさっと背後で音がした。



 振り向くと、ギラギラと光る(おの)を持った男性がいた。狩りでもしていたのだろうか。



 ガリガリに痩せたその男は、怒りと恐怖に満ちた目で翠蓮を見ている。


「……その子に触るな」


 「手当をしていただけ」そう、言おうとした。なのに、男の異様な雰囲気に、翠蓮は声が出なかった。



「お前のせいだ……お前のせいで村がこんな目に……」

 痩せた男は斧を上げ、にじり寄ってくる。

 逃げなければ、と思うが足が凍ったように動かない。


 

「その眼で見るなあぁぁ!!!」

 男が雄叫びを上げ振りかぶってくる。

 翠蓮は、女の子に覆い被さり、目を閉じた。




(あれ……)

 来るはずの痛みがない。

 そぉっと目を開けると、父が目の前に立ちふさがっていた。


 翠蓮はほっとした。助けに来てくれたのだ。



「お父さん……?」


 父は返事をせずに、そのまま雪の上に倒れ込んだ。雪の白に、赤いものが滲んでいく。



「……お前のせいだ。お前の忌み眼のせいで、皆が不幸になるんだ!!」

 男は、翠蓮に消えない呪いを吐き捨て、逃げて行ってしまった。



「お父さん……お父さん?」

 ゆさゆさと揺すってみる。まだ息があるようだ。


 父は襟元から紙を取り出した。

 それは、宮廷音楽団への推薦状だった。


「汚れていなくて……よかった……」


「お父さん、何言ってるのこんなときに……」



 父は翠蓮の手を握りしめた。



「良いか。人を、自分を呪うんじゃない……。お前の声には、力がある」


 まるで最期の挨拶のような言い方に、翠蓮は涙をあふれさせた。

 父の声は段々小さく弱くなっていった。


「都へ行け。翠玉を――」


「すい……? なに?」


 もう父が答えることはなかった。

 

 

 どれくらい泣いただろうか。気付けば女の子もいなくなり、雪は吹雪に変わっていた。


 もう涙は凍ってしまった。


 なのに、どうしてなのだろう。


 こんな時なのに、歌が口をついて出てくる。



 揺りかごの唄――

 この歌は、父への最期のお別れだった。


 歌い終えると翠蓮は、推薦状をしっかりと胸に抱いた。

 

 都への道が歌への道に通じている。そう信じて、一歩を踏み出す。


 遠くで、村の鐘が狂ったように鳴り始めていた。




◇  ◇


 自分のせいで父が死んだ――

 この重い事実を背負った日が、翠蓮を宮廷に行くことを決意させた日である。



 そして、無事宮廷歌人になった翠蓮の物語はここで終わらない。


 忌み眼と翠玉の真実。

 本当の試練が待ち構えているのはこれからだった――





―一第一章完▶二章へ続く




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ