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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
エピローグ  

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最終話 約束

 雲が晴れ渡り、満月が巌窟寺院の前の広場を照らし出していた。

 

『グアッ……』

「羽ピー?」

 碧がその弱弱しい声の方を振り返った。

 羽ピーはイリナの光に焼かれ、影を失い、息も絶え絶えでうずくまっていた。


『……ハネピー?』

 ケイも心配そうに近寄る。


 その時、上空から羽猿に乗った小さな影が二つ、降り立った。


『あの光で”絶望”の影は全部、吹き飛んだわな、もし』

『飼育係さん! 給餌係さん!』

 羽猿から降りてきた二つの影を見て、ケイと碧が目を見張った。


 飼育係が羽ピーに杖を振るい、影を送る。

 給餌係が羽ピーの口に壺の水を流し込んだ。

 すると、金色に輝いていた鱗は急速に黒ずみ、本来の強靱な竜猿の姿へと戻っていく。

 それと同時に、その瞳に野生の活力が宿った。


『ババ様の影はさすがだな、もし』

『もう、名前は奪っただな、もし』

 イリナの光から命を守っていたのが、ババ様が注入した影だった。

 飼育係は、ただの竜猿になった羽ピーを撫でた。


『ババ様が、この竜猿を飼育しろと仰せだな、もし』

「羽ピー!」

 碧が呼びかけるが、羽ピーは反応しない。

 その目は、もう碧を見ていなかった。


『もう、呼んでも無駄じゃ、行くぞな、もし』

 飼育係は竜猿の背に飛び乗り、鈴を鳴らした。


 羽ピーはその鈴の音に、ビクッと体を震わせ頭を垂れた。


『グアッ! グアッ!』

 羽ピーは翼を広げ、力強く飛び立つ。


「羽ピー!! ありがとう!!」

『ハネピー! 好きッ!』

 飛び立つ竜猿に、碧の大声での「好き」が夜空に響き渡った。


『グアッ!』


 竜猿はそれに答えるように、短く一鳴きして上空に舞い上がっていく。


『おめ、今、反応しただな…… もし……』

 飼育係がぞっとしたように、竜猿の頭を眺めた。


 二つの影が、森の向こうに小さくなっていく。

 碧はその影が見えなくなるまで、じっと見つめていた。


『……魔の森の魔女のところに、竜猿……も』

 オムカがぶるっと、考えたくないというように身を震わせた。


「碧、羽ピーのことそんなに、好きだったんだな」

 田崎は碧の肩に手を置いた。

「羽ピーがいなかったら…… 助からなかった」


 碧の目に涙が浮かぶ。


「好きっていうか、すごい感謝してる。だから、ありがとうって」

「それは、えーと、あれだ。手帳を見たんだな。あれは、間違ってる。『ありがとう』と『好き』が逆になってるんだ」

「え?」

 碧がポカンとして、次の瞬間、顔が真っ赤になった。

 「好き」「好き」とケイに連呼していたことを思い出す。


「ケイ兄ちゃん…… 知ってたよね?」

 ケイはリューシャのそばに寄り添って、苦笑していた。

 言葉は通じなくても、心は通じていたのだ。


「タサキ。本当にありがとう」


 リューシャと何かを話していたオムカが、田崎の足元に来た。


「それで、頼みがあるんだけど……」


 オムカが上目遣いで田崎を見上げた。


 そしてちらりとリューシャとケイの方を見る。


「オムカ、なんだ?」

「祭壇の管理を、お願いしたいんだ」

「え?」


 イリナがホーガイに付き添われて田崎に近づいた。

 いつの間にかモーイがホーガイの肩に乗っている。


『私からもお願い申し上げる』

「月に一回だけでいいからさ、満月の夜に掃除に来てよ」


 その言葉を聞いて碧の顔がぱっと輝いた。


「パパっ! やろうよ! ケイ兄ちゃんとも、また会えるし!」

「月に一度って、有給を使わないと、だな…… 休めない日もあるだろうし……」

 途端に現実的になる。年始のスケジュールと上司の顔が脳裏に浮かぶ。


——満月っていつだ? 週末ばかりじゃないよな……


「そのときは代わりに、私が行くわよ」

 未来が食い気味に宣告した。

 田崎はため息をついた。


「影は? そんなにあるのか?」

「田崎のじいちゃん家の石板にたくさん残ってた」

 モーイが口を挟んだ。

「迎えに行くからさ」

 オムカがダメ押しとばかりに口を開いた。


「理由は? 別に誰でもいいんじゃないのか?」

「森の民が回復するまでね。こっちの人間が管理したら、また問題が起きる」

 オムカは真剣な顔で首を振った。

「それに、巨人族なら、誰も文句を言わないと思うよ」

「巨人族って……」


 田崎は頭を抱えた。


「じゃあ、決まりね」

 未来が笑顔で断言した。

 その未来の言葉に、リューシャがすっと目を細めた。

 

「リューシャさん? 洋服をたくさん、持っていくからね」

『結構だ。ミク殿は来なくてよろしい』


 二人の女の目からバチバチと火花が散り始めた。


「圭一?」

『タサキ?』


 いつかの修羅場の再来に田崎の背筋が凍った。


「今は、そんな場合じゃないよ。チョーローを弔わないと」


 田崎はとっさに話題を変え、馬車に安置されているチョーローの方に目を向けた。


『……確かにそうだ』

「そうね……」


 しめやかな空気が流れた。

 この戦いで、あまりにも大きな存在を失ったことを思い出す。

 さらに犠牲になった多くの人々もいる。


「チョーロー……」

 モーイが小さくつぶやいた。

 その目に熱いものが込み上げていた。


「モーイ…… チョーローは、自分たちを守るために……」

 田崎が唇を噛んだ。


『チョーローは英雄だ』

 リューシャが静かに言った。

「チョーローは、あなたのおじいさんに似てるわね」

 未来がその小さな姿に思いを馳せた。

 

「チョーローは小人の里で弔うよ。田崎の父の隣に……」

 しばらくしてオムカが静かな声で言った。

「だから、お墓参りに来て、タサキ」


 イリナも目を閉じて祈りを捧げていた。


 チョーローに命を救われ、光の術をつきっきりで指導されていたことは、小人の里の誰もが知っていた。


 しかし、イリナは目を開けて前を向いて言った。


『祭壇の影は残り少なく、すぐに消えてしまいます。安定するまでは一月はかかるでしょう』

 イリナは荷台に積まれている祭壇を見上げた。

 覆いは取り除かれ、八つの紋様が静かに瞬いている。


 まだ、やらないといけないことはたくさんある。


 寺院の修復、祭壇の設置、森の民の処遇、鉄騎国との戦後処理、疲弊した民、国の行く末。


 その小さな体に課せられた責任に、田崎の胸が痛んだ。


 だが、田崎も前を向く。

 自分もやらないといけないことがある。


「帰らないとな…… 車もぎりぎりだろうし……」

「帰りますか。また来れるしね」

「うん!」

「タサキ! 一月後、満月の時に」

 オムカの言葉に、田崎は力強くうなずいた。


「じゃあ、帰るか…… イリナ、大変だろうけど」

『タサキ! ミク! ありがとう!』

 隊をまとめたグランとハンクが駆け寄った。


「グラン、ハンク、こっちこそ、ありがとう」

 田崎は手を差し出した。

 グランはその泥だらけの手を力強く握った。


『タサキは、俺たちの友だ。また会おう』

「ああ、必ず」


『タサキ殿、感謝する』

 ホーガイが深々と頭を下げた。


「ホーガイ、チョーローを…… よろしく頼む」

『もちろんだ』

 ホーガイの目にも涙が光っていた。


「ケイ兄ちゃん! またね!」

『アオ、元気で!』

 ケイが大きく手を振った。

 今生の別れではない、また会える。

 ケイは満面の笑顔で手を振った。


『タサキ……』

 リューシャが静かに微笑んだ。

 言葉はなくても、その瞳が「待っている」と雄弁に語っていた。


 田崎はジムニーに乗り込んだ。

 助手席に未来、後部座席に碧が乗り込む。


「なんで、モーイも乗ってんの?」

 しれっと座布団に座っているモーイに未来が嫌な視線を向けた。

「オムカから頼まれたんだ。じいちゃんの石板の管理の手伝いをしてくれって」


 モーイは真面目な顔で座布団に座り直した。


「あと、ハンターハンターの続きが気になって、夜も眠れないからね」

「……まだ、終わってないわよ?」

「え? まだ? あれあら何年、経ってるの?」

 一同は笑った。

 オムカが詠唱を始めると、祭壇から影が湧き上がり、霧を形つくる。


「タサキ! 行き先はじいちゃん家だ」

 モーイが杖を指し、田崎はアクセルを踏んだ。


 ジムニーは黒い霧に包まれ、日本へと帰っていった。





  *





 一ヶ月後——


 ジムニーは修理工場に預けられたまま、まだ戻ってこない。

 フレーム修理からエンジンのオーバーホールまで、全治三ヶ月の大手術だった。


「本当に、ランエボで行くのか?」

「だって、ジムニーの修理、まだ終わってないでしょ?」

 未来が運転席で不敵に笑う。


——代車の軽自動車じゃ、あっちのオフロードは無理か。


「これなら、あの羽猿にも走り勝てるかもね」

「山道で、腹を擦るぞ……」

 田崎は苦笑して助手席に座った。


「早く行こうよ!」

 碧はお土産をどっさりリュックに詰め込んでいた。


 エンジンが咆哮を上げた。


 ターボが唸りを上げ、野太いエグゾーストノートを残し、ランエボが夜の峠道へ飛び出す。


 雲ひとつない冬の夜空に、満月が浮かんでいた。


 碧は流れる景色と窓から見える月を見上げる。


——ケイ兄ちゃん、リューシャ、オムカ、イリナ姉ちゃん、みんな待っててね。


 また会える。

 その確信が、碧の胸を温かくした。



 家族の冒険は、まだ終わらない。




 完



無事、完結しました。

『軽四駆 × 異世界疾風録 season2』をここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

タキマサトです。

前作から続く冒険、いかがでしたでしょうか。

今回は「家族全員」での異世界ということで、主人公の田崎だけでなく、ランエボ乗りの妻・未来が大暴れする展開となりました。

ババ様や黒い塊、古竜猿、羽ピーの進化など、当初のプロットにはなかった展開で、キャラクターたちに散々振り回されました。


ラストのランエボ出撃……まだまだ彼らの旅は終わりそうにありませんが、ひとまずここで区切りとさせていただきます。シーズン3の種はたくさん残っていますが、田崎の冒険はこれにて完結です。


そして、次回作のお知らせです!


次はガラッと雰囲気を変えて、現代知識とSNSを駆使したドタバタコメディをお届けします。

【次回作予告】

『神様やめたい 〜万バズから始まるポンコツJK三人組の異世界勘違い神話』

硬派な四駆の次は、ポンコツJK三人組です。

SNSでバズった勢いで異世界でも神様扱いされてしまう……!? という、勘違いと勢いで突っ走る物語になる予定です。

こちらもぜひ、ブックマークして楽しんでいただければ幸いです!


改めまして、最後までお読みいただきありがとうございました!

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