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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第六章 集結 

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51話 風雲

 西陽が巌窟寺院を赤く染めていた。


『日が暮れる前に! 早くこの祭壇を! 巌窟寺院へ!』


 ホーガイが声を限りに叫ぶ。ヴォルノ隊の別部隊が、荷台に積んだ祭壇を必死に引いていた。


 チョーローは鳩猿に乗り、開戦の合図を告げる光の術を放った後、このホーガイ隊に合流していた。

 

『この祭壇がなければ、ケイたちの紋様の行き場が、なくなる……』


 チョーローの顔には、隠せない焦りの色が浮かんでいた。


 光の術で紋様を開放したとしても、それを受け止める「拠り所(よりどころ)」がなければ紋様は霧散し、永遠に失われてしまう。

 祭壇の復旧は出来ない。


 ふと、チョーローの顔が曇る。


——紋様を開放した時、生命力が影に吸い尽くされてなければ、良いが……


 もし、影に吸い尽くされていたら……


 チョーローは首を振って不吉な想像を打ち消した。


 他にも考えなければいけないことがあった。


『使い手が寺院内にいる……』

 メガネの小人がつぶやく。


『鉄騎軍本隊も、もうすぐ後ろから追いつく』

 ホーガイが背後を気にし、不安げな表情を見せる。


『古竜猿は、魔の森の魔女になんとかしてもらおう……』

 同じ闇のもの同士の戦い。

 どちらも化け物だが、魔女の方が分が悪いだろう。


——厄介なことよ……

 

 チョーローが天を仰いだ時、前方から激しい土煙が上がった。


 轟くような馬蹄の音が近づいてくる。


『ホーガイ様! ここはヴォルノ隊が食い止めまする!』


 ヴォルノだった。

 グラン隊を巌窟寺院の広場に残し、ホーガイの護衛と鉄騎軍本隊の迎撃のために駆けつけていた。


『チョーロー殿、光の術で鉄騎軍の呪いの解除をお頼み申す』

『むごい事よ…… だが、機が熟さねば……』


 呪いの解除は光の術で出来る。

 しかし、それと同時にケイたちの紋様をも解き放ってしまう。


——しかし、金色の竜猿……

 

 あれは無理だ。

 均衡を崩すもの。

 あれをそのままにしてはおけない……


 その光の術であっても、光に返すことは難しいだろう。

 

 それとは別に、使い手を倒し聖戒の力で封印を再び施せば、鉄騎軍にかかった呪いは解ける。

 その聖戒の力は、古竜猿をも再封印できる。


 あの金色の竜猿を、完全に光に返すためには……


——いよいよ、この老いぼれの命を投げ出さなければ……


 使いどころを誤ったあげく、どれか一つでも残したら、均衡は取り戻せない。


『巌窟寺院前の広さであれば、わしとマオルカの光で時間は稼げますぞ』


 小人のメガネがチョーローに提案した。


 広場を丸ごと結界で包み、光で埋め尽くして死兵の動きを止める。

 しかし、それだけでは呪いは解けない。

 そのわずかな間に結界の中を通って巌窟寺院の門まで運ぶ。


 やがて結界に閉じ込めた影の力は、中から結界を食い破る。

 間に合わなかったら、祭壇は死兵の真ん中に取り残されることになる。


 そして、術を使ったメガネとマオルカはしばらく動けなくなる。

 結界を張りつつ、死兵の影と対抗しないといけないのだ。


『……それは、危険だ。命がけの賭けじゃな……』


 ホーガイと小人を乗せて祭壇を引いた馬車の側面を、ヴォルノ隊が風のように駆け抜けていく。


 この道は十二年前、ジムニーを通すために突貫工事で切り開かれた。

 その後、巌窟寺院の修復作業で整備・拡張された一本道だった。


『この先の関所で食いとめる! 一兵たりとも通さん!』


 ヴォルノ隊も満身創痍だった。

 しかしここを抜かれたら、祭壇もろとも数で押し潰される。


『ヴォルノ隊長…… お頼み申す……』


 ここが、正念場なことは誰もが理解していた。

 ヴォルノは馬上で振り返った。


 傷だらけの部下たち。

 それでも、その目には燃えるような決意が宿っていた。


『ホーガイ様も、チョーローも、必ず生きて会いましょう』

 ヴォルノは剣を掲げ、死地となる関所へ向けて駆け出していった。


 古竜猿の咆哮が闇の森を揺るがす中、ホーガイ一行はついに巌窟寺院の威容を捉えた。


 冷たい風が吹き抜け、黒い雨雲が空に立ち込めていく。


 まるで来るべき嵐が、苦難の道を暗示しているようだった。





  *




 その少し前、闇の森の上空。


 ババ様と古竜猿の激しい戦いが繰り広げられていた。


『振り回されておるがな、もし~』

『絶対に影を離すなああ!! もしい!!』

 古竜猿に突き刺さった影の針は、ますます太く硬くなっていた。


 影の針は物理的な距離を保ち、古竜猿の鉤爪を届かせない。

 そのババ様に対して古竜猿は怒りを増幅させた。


『グワアアアァァァ!!!』

 古竜猿は急上昇、急下降、旋回を繰り返し、狂ったように暴れ回っていた。


 その度に遠心力で振り回される。

 しかしババ様から湧き上がる影が、鋼鉄の鎖のようにしっかりと羽猿とババ様たちを繋ぎ止めていた。


『どれだけ影があるのじゃろうか、もし』

『まだまだじゃあ!!どんどんわしに影を寄越すだああ!! もしい!!』


 ババ様の体から湧き立つ影は、黒く密度を増していく。

 それはもはや気体ではなく、重い質量を持った塊だった。


 古竜猿に振り回されるたびに、塊から霧のように影を撒き散らされた。

 それは、闇の森上空を覆う暗雲のように広がっていった。


 そしてやがて夕陽を遮り、闇の森を文字通り闇の中へと落としていった。


 空気が凍りつくように冷えていく。


 それは強風を巻き起こし、分厚い雨雲を呼んだ。


 稲光がきらめき、雷鳴が轟く。


 雷が闇の森に突き刺さった。

 空間を引き裂くような重低音が闇の森に響き渡る。


 それを合図にしたかのように大粒の雨が滴り落ちた。

 瞬く間に視界を奪うほどの豪雨となった。


 激しい滝のような雨が、森を叩く。


 森の奥。


 泥の中で激しい雨に打たれ、羽ピーがぴくりと動いた。


『ハネピー! 起きたか!』


 羽ピーは地面から埋まっていた頭を引っこ抜いた。

 ブルブルと首を振り、泥と雨を飛ばす。


『グア……』

 まだふらついてはいるが、その目には光が戻っていた。

 冷たい雨と落雷が、羽ピーの意識を覚醒させていた。


 土砂降りの雨の中、オムカは頭上を見上げる。

 古竜猿の姿は雨のカーテンに遮られ、すでに見えない。


 落雷があたりかまわず突き立ち、轟音がこだました。


 古竜猿の怒りに満ちた雄叫びが雷雨の中、響き渡る。


『今しかない! 巌窟寺院に戻れ!』

『グアッ!』


 オムカは羽ピーの頭の上で、杖を向けた。


 羽ピーが力強く翼を広げる。

 豪雨を切り裂いて、巌窟寺院に向けて飛び立った。


 その時、巌窟寺院の方角から、闇を突き、赤い光が迸った。


『あれは……!』


 オムカの顔が青ざめる。


『使い手の術だ…… 紋様を取り込もうとしているんだ……』


 風雲急を告げる空の下、すべての因縁が巌窟寺院で弾けようとしていた。



本日更新分で第6章が終了しました。

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。


次回より最終章に入ります。

物語は残り9話とエピローグ1話で完結となります。

現在、推敲、校正段階に入っております。


最後まで毎日更新していきますので、安心してお付き合いください。


面白い!続きが気になる!と思ってくださった方は、 下の「★★★★★」から評価やブックマークをいただけると今後の励みになります。


最後までよろしくお願いいたします。

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