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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第六章 集結 

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44話 取引

 ホーガイ一行は結界の中で眠れぬ夜を過ごしていた。

 マオルカとメガネの小人二人が、交代で結界を維持している。


 巌窟寺院への最後の関所、ここで武具の交換を行った。

 ここにいることが鉄騎軍に分からぬよう、関は開け放たれていた。


『今、鉄騎軍の騎馬隊が通り過ぎた……』

 マオルカが暗い顔で首を振った。


 真夜中のことだった。


『巌窟寺院が、鉄騎軍に占拠されてしまう……』

 天幕の中でヴォルノは悲痛な顔をマオルカに向けた。


『千騎はいる。今、戦っても勝ち目はないよ』

『あとは、スタンピード頼みか……』

 ヴォルノは拳を握り締める。

『猿の暴走が来るからね。きっと鉄騎軍も大混乱だよ』

『……』

 ヴォルノは深いため息をついた。


『僥倖というべきか…… なんとも皮肉なものだな……』

『でも、まだ鉄騎軍は二千騎くらい残ってるよ』

『こちらは二百…… グラン隊もそれくらいか……』

 

 ヴォルノは天幕の天井を仰いだ。


 戦力差は絶望的だった。


——法王猊下…… 


 祭壇の復旧。影の力の再封印。使い手の野望の阻止。


 鉄騎軍を撃退し、不穏な猿たちと竜猿を封じる。


『すべて成し遂げなければ……』

 ヴォルノは唇を噛む。


『この国…… この世界は終わる……』


 最優先は、イリナ法王猊下の保護。


『我らにできるのか……?』


——デルグラ…… グリファス団長…… 法王猊下……


 あなた方の犠牲を…… 無駄にはしない……


『祭壇復旧と再封印は、イリナ様がいればなんとかなるよ』

 マオルカがヴォルノを励ますように明るい声を出した。


『月の民、使い手については、チョーローに何か考えがあるようだ』

 メガネの小人が、ずれたメガネを押し上げた。


 それが出来なければ、祭壇の復旧は難しい。


『我ら騎士団は、祭壇への道を切り開く……』

 ヴォルノの声に、悲壮な決意がこもる。


 松明の明かりの中、地図に視線を落とす。

 部隊長を呼びつけ、作戦の詳細を詰めていく。


『我らの強みは小人とイリナ様の存在だ』

 ヴォルノの瞳に力が宿る。


『この作戦の詳細をグラン隊とイリナ様のところの小人に』


——やるしかない。


 ヴォルノは天幕を出て、大きく伸びをすると、夜空を見上げた。




  *





 そのころ、闇の森の中。


 獣たちの狂宴は続いている。


 しかし、猿たちは”その場所”にだけは近寄らなかった。


 彷徨い込んだ猿の群れが、本能的な恐怖に駆られ逃げ出していく。


 濃密な、他を寄せ付けない冷たい影でその場所は覆われている。

 その影の中心に黒い塊があった。


『わし、もうカラカラじゃ、もし』

『じじい! 辛抱せい! 民と羽猿どもを早く癒さんかあ、もし』

『古竜猿は、しばらく動けんわな。もし』

『じじい! 代わりにバケモンが生まれたじゃろうがあ、もしい……』

 ババ様の握る杖にも力がない。


 影が、揺らいだ。

 不穏な空気が混じる。


『魔の森の魔女よ』

 使い手の声が、闇に響く。


 ババ様は目を細めた。


『休戦は、終了だ……』

 影の中から、使い手が姿を現す。


『それじゃ、敵じゃな、もし』

 ババ様から、不穏な影が立ち昇る。


『”絶望”の影は、我がもの……』

 使い手が一歩を踏み出す。


『喰らわせは、せんぞな、もし』

 ババ様の目が妖しく光った。


 ババ様が視線を巡らせる。

 いつの間にか、月の民が使い手の背後に揃っていた。


『満月に近い……』


 使い手の紋様が、激しく脈打つ。


『我らとやり合うか? 魔女よ』

 魔の森の一団に、緊張が走る。


——ここは闇の森……


 魔の森の影の恩恵は…… 受けられない。


 使い手の言葉に、ババ様はふっと笑った。


『争奪戦じゃな、もし』


 争奪戦という言葉に、魔の森の民が戸惑った。


『ここでやり合っても……』

 ババ様は杖をついて立ち上がる。

『お互い、ただでは済まぬぞな、もし』


『……』

 ババ様の体から悍ましい影が湧き上がった。


『おめらも、満月に近いとはいえ、あの光でやられたわな、もし』

『……』

 使い手は答えない。


 しかし、それが答えだった。


『”絶望”は…… 巌窟寺院で決着をつけようぞな、もし』


『……良い判断だ』


 使い手は踵を返し、空を見上げた。


『明日…… 満月の夜だ』


 その言葉を残し、使い手の一団は姿を消した。


『ふう……』


 黒い塊が、どさりと崩れ落ちた。


『ババよ、ヒヤヒヤしたわいな、もし』





  *





 小人の里でチョーローは、影と光の動きをずっと追い続けていた。


 聖都での法王の最後の光。


 ケイの影、碧の光、二人とともにいる羽猿。


 古竜猿の復活。


 スタンピード。


 モーイ、ナヴィら小人たち。


 そして使い手と月の民の影……


 小人から入ってくる鉄騎軍の動き。


 そして——


『魔の森の魔女が、動いた……』


 その影が闇の森に入ってきた時、チョーローの背中に冷たい汗が流れた。


 さらに——


『羽猿の影に、光が差した……』


——あの羽猿、ケイの影を喰らって何かになった……


 しばらくして、魔の森の魔女と使い手の影が分かたれた。


『魔の森の魔女…… 何をしに現れた?』


 魔の森の魔女が”希望”の光で墜落した場所は、巌窟寺院の近くの森だった。

 小人の里とそうは離れてはいない。


——使い手が離れた今しか、その機会はない……


 その目的を確認しなければならない。


 チョーローの額に、脂汗が浮かぶ。


——下手すると、生きては帰れない。


 法王のその姿が脳裏に浮かんだ。


——やつも後継者に長らく頭を悩ませておった……


 イリナを仕込んでいた甲斐はあったが、次に小人を導くものの目途は立っていなかった。


 チョーローは首を振る。


——いずれにしろ、魔の森の魔女は放置できぬ脅威だ。


 なるべく穏便に、お帰りいただく。


『厄介なこと、この上ないのう……』


 チョーローは結界を抜け出すと、一匹の鳩猿を呼んだ。


『確かめなければならん』


 チョーローは、オムカの顔を思い浮かべる。


——まだ若い……


 しかし、あいつなら……


 わしに何かあったら……


 オムカ…… おまえが次の小人の王じゃ……


 チョーローは決意を固めた。

 

『行け、闇の森へ……』


 チョーローの乗った鳩猿は夜の闇の中に溶け込んでいった。



  *



『ババよ…… おいしそうなのが来ておるぞな、もし』


 黒い塊が体を揺らした。


『やれやれ、忙しいこっちゃわいな。もし』


 チョーローは聖戒の文言を唱え始める。


 その小さな体が、まばゆい光に包まれる。


——行くぞ……


 チョーローは意を決し、濃密な影の中に踏み込んだ。


 瞬間、生命力が影となって、吸い取られていくような感覚に襲われる。

 まとった光が剥がされていく。


『ぐっ……!』

 なまじな小人では、ものの数分で命を吸い取られる。

 しかし、チョーローはさらに光を強めた。


『招かれざる客だな、もし』

 ババ様が、目の前に降り立ったその小さな体を見据えた。


『喰っていいか、もし』

 黒い塊が小刻みに震えている。


『招かれざる客はそっちじゃな』

 チョーローは、負けじと光を放つ。

 

『さすがは小人の王じゃの、もし』

 ババ様は黒い塊を制する。


『まだ喰っちゃならんぞな、もし』

 にいっと、目を細める。


『魔の森の魔女よ』

 チョーローは語気を強める。


『闇の森に何をしに来た? 古竜猿は我らに任せてもらおう』


『ハッ!!』


 ババ様は一喝した。


『小人と騎士団に何が出来るぞな! もしい!!』


 ビリビリと空気が震え、黒い塊が興奮してもだえた。


 だが、チョーローはびくともせず睨み返す。


『我が弟子、イリナの光の術があれば……』


 チョーローの目には、確信の光があった。


『古竜猿など、たちまちのうちに闇へと返せよう』

『ふん! 確かにあの光の術は厄介じゃわな、もし』


 ババ様は鼻を鳴らした。


『さらに”希望”の光が、それを増幅する……』


 ババ様は続きを促すように顎をしゃくった。


『おまえらの出る幕はないじゃな』


『……あの羽猿はどうするぞな? もし?』


 ババ様は意地の悪い目で、面白そうに小人を見下ろした。


『あれは光でも闇のものでもない……』


 ババ様がにたりと笑う。


『封印は……できんぞな、もし』

『……』


——分かっていた。


 だが、方法はある。


『おまえたちの目的は…… なんだ?』


 チョーローは話題を変える。


『わしらは……』


 ババ様が語り始める。


『”絶望”の影を取りいれて、あの古竜猿とあのバケモンを縛り上げる』

『そして?』

『魔の森の闇に沈めるだな…… もし』


 チョーローは首を振る。


『絶望の紋様は、祭壇の復旧に必要じゃ。とても飲めん相談じゃな』


 チョーローはそこで言葉を切る。


 長い沈黙。

 

 やがて、チョーローが口を開いた。


『あの羽猿は……』


 ババ様の目が、鋭く光る。


『我が全身の光でもって……』

『……』


『……浄化させて、みせよう……』


『……』


 再びの長い沈黙。

 ババ様は目を細め、思案を巡らせた。


『それをしたらば、おめは死ぬだな、もし』


 ババ様とチョーローの視線が交差した。

 そのチョーローの目には、微塵も迷いもなかった。


『あの古竜猿とあのバケモンは……』


 ババ様がつぶやく。


『あの月の輩の手には余るぞな、もし』


 ババ様は独り言のようにうなずいた。


『月の輩に好きにさせるよりは…… マシじゃな、もし』


『……』


『今のままでは……』


 ババ様はニタリと笑った。


『おめらだけでは、月の輩には勝てぬぞな、もし』

『……分かっておる』


『仕方あんめ……』


 ババ様が杖をつく。


『小人に協力してやんべ、もし』


 その言葉にチョーローの目が見開いた。


『見返りは……?』


 ババ様がチョーローを見下ろした。


『もし、おめらが、失敗したらば……』


 ババ様の目が、ぎらりと光った。


『”絶望”はわしらがいただくぞな、もし』


 ここに、光と影の奇妙な取引が成立した。



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