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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第五章 満月前夜

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41話 覚醒

 月夜の空を、三つの影が疾走する。


 満月を背に、羽猿の一団が駆けていく。

 その前方には、巨大な古竜猿の姿。

 その古竜猿から逃げるまばゆく光る一匹の羽猿が、金色にきらめく影を月夜になびかせていく。


 竜猿の狂ったような怒号が月夜を切り裂いた。


『あの竜猿を止めるぞな!! もしい!!』

 ババ様の号令に、使い手がうなずいた。

 今まで敵対していた者同士が手を組む。


 前代未聞の共闘だった。


『わしらの影と、貴様の影を合わせるぞな!! もしい!!』

『よかろう……』

 黒い塊と使い手の影が、その声に合わせて膨らんでいく。

『おめらは! 羽猿に影を喰わせるだあ!! もしい!!』

 魔の森と月の民の一団は羽猿に影を送る。


『ギャギャッ! ギャッ!!』

 ババ様たちの羽猿の一団はさらに速度を上げた。

 巨大な影を猛追していく。


『今こそッ!! 魔の森の魔女としての力をッ!! 見せる時だああ!! もしい!!』

 ババ様の体が膨張する。

 全てを黒く染めるような影が滲むように湧き上がった。

 その影は前方に伸び続けている黒い塊と使い手の影を、軽く凌駕していた。


『……!? これほど、とは……』

 使い手の額から、冷たい汗が噴き出る。

『これが…… 魔の森の…… 魔女……』


 三つの影が合わさったそれは巨大な黒い竜巻となり、竜猿に放たれた。


『ギャオオォォ……!!』

 その竜巻は竜猿の巨大な後ろ脚に絡みつく。


 竜猿の動きが一瞬、鈍った。


『やったぞな!! もしい!!』


 しかし、次の瞬間。


『グオオオオオオ!!!』

 竜猿が力任せに影を引き千切った。


 黒い竜巻が霧散し、ババ様たちの羽猿が嵐に浮かぶ小舟のように激しく揺れた。

 魔の森と月の民が次々と振り落とされていく。

 月明かりの中、小さな人影が闇に消えていった。


『だあああ!! まだ足らんのかああ!! もしい!!』

『……もう、わし。ダメ』

 黒い塊がババ様の上に崩れ落ちた。

『しっかりせんかあ!! じじい!! 追えぇ!! 追わんかい!! もしい!!』


 その時、前方の羽ピーの様子が変わり始めた。


「ダメ! 羽ピー! このままじゃ、ドラゴンモンキーになっちゃう!!」

 羽ピーの首が伸び始めていた。その首が鱗に覆われていく。


『ギャ…… グャッ……』

 羽ピーは苦しげな声で鳴いた。


『ギアッ!』

 まるで鳴き方を忘れたように戸惑った声を上げる。

 翼の羽が次々と抜け落ち、下から硬い鱗が覗いた。


『ギアッ! グアアッ!!』

 羽ピーはそれに抵抗するように悲痛な叫び声を放つ。


「羽ピー?!」

『ハネピー!! 耐えるんだ!! 頼む!!』


 碧とケイの必死の懇願に、羽ピーは湧き出す力を持て余すように吼えた。


『ガアアアアッ!!』

 その怒声はすでに羽猿のものではなくなっていた。


「だめええ!!」

 碧が必死に羽ピーにしがみついて叫んだ。

 その瞳からは次から次へと涙がこぼれ、羽猿の少なくなった羽毛を濡らした。

 碧の紋様が感情に揺さぶられたように激しく明滅した。


『くそっ、止まれ! 影よ! 止まれ!!』

 ケイはその紋様を碧の紋様に合わせるが、とめどなく流れ続ける影は止む気配がなかった。


 背後からババ様たちの影を吹き飛ばし古竜猿が迫った。

 黒い竜巻を吹き飛ばした余波が、羽ピーを襲う。


「きゃああ!!」

『うわあ!! アオ! ハネピー! 無事かッ?!』

 羽ピーは漆黒の影の奔流に弄ばれるように飲み込まれ、乱高下した。

 ケイは碧をしっかりと体で覆いながら羽ピーに必死にしがみつく。


 そして暗闇から現れた羽ピーの体は、さらに一回り巨大化していた。


『グワアアアァァ!!!』

「羽ピー!! ダメ!!」

 碧の絶叫が夜空に消えていく。


『あれは…… もし……?』

 ババ様の目が見開かれた。


 黒い奔流から現れた元羽猿だったものは、竜猿に変貌を遂げようとしていた。


『あんなもの見たことも聞いたこともないわな。竜猿の生まれる瞬間ぞな、もし』

 黒い塊が感動に打ち震えたような声を発した。


『……喰われている ……”絶望”に』

 使い手の声が震えた。

『いや、違うぞな、もし。あれは…… ”光”と”影”の両方に喰われておる……』

 ババ様の目に、恐怖の色が浮かんだ。


『光でも闇でもない…… 何か別のものに……』

 ケイは得体の知れない何者かになった羽ピーに暗い視線を向けてつぶやいた。

 

「羽ピー? 熱い……!」

 羽ピーの体温が、異常に上がっていた。

 その背中が、脈打つように膨らんでいく。


「ケイ兄ちゃん…… 羽ピー、どうなっちゃうの?」

 碧が震えた声で問う。

 羽ピーは力強く飛び、背後の竜猿から距離を離す。


『止めなきゃ…… 影を止めなきゃ……』

 ケイは必死に碧の紋様に紋様を合わせた。

 しかし、影は止まらない。

 どくどくと影が羽ピーの体に流れ込んでいく。


『ハネピー…… ごめん…… ごめん……』

 ケイの視界が涙で滲む。


『グワアアアァァッ! ガアアアァァ!!』

 またも体を内側から破壊するような竜猿の咆哮が発せられた。

 まるで、その影をよこせ、というように竜猿は猛追してくる。

 それを拒否するように羽ピーは必死に羽ばたいた。


「羽ピー! もういいよ! 羽ピーが羽ピーじゃなくなっちゃう!!」

 碧が泣き叫んだ。

 碧の紋様の光が淡くなっていく。


 羽ピーがいなかったら、ここまできっと生き延びられなかった。

 夜は羽ピーの温かい羽毛に包まれて眠った。

 呼んだらすり寄って甘えてきた。

 

 碧の脳裏に羽ピーと出会った短い時間が走馬灯のように浮かんだ。


——羽ピーがあの凶悪な竜猿みたいになってしまったら……



 碧は顔を上げた。


「でも、パパとママに会うまでは、絶対に諦めない!」

 碧は羽ピーの首にしがみついた。

 ここまで連れてきてくれたのは羽ピーだった。


「羽ピー! 碧たちを守ってくれて、ありがとう……」

 碧の瞳から涙が溢れた。

「だからッ! だから…… 羽ピーのままでいて!」

 その言葉が、碧の紋様の光を取り戻す。


 その光が羽ピーを包み込んでいった。

 黒いケイの影と溶け合うように混ざり合い、黄金のように夜空に輝く。


『ギャギャ?』

 竜猿になりかけている羽ピーが、羽猿の鳴き声を発した。


「羽ピー!!」

 

——まだ竜猿になっていない! 碧の想いに応えてくれた!


『ハネピー!! 好きッ!』

 碧が感謝と、図らずも愛情の言葉を現地語で口にした。

 それは碧にとっては「ありがとう」の意味だったが、言霊は正しく力を発揮した。

 碧の紋様が熱を帯びた。


 愛と感謝。


 それは希望への道標だった。


 その感情の爆発に呼応し、碧の紋様から目も眩む閃光が放たれた。


 月夜が一瞬にして、純白に塗りつぶされる。


 グワ……

 ギャ……

 きゃ…… 

 ハネ……


 まるで太陽が突然出現したかのような光の洪水に、音すらも飲み込まれる。


 その光は次の瞬間、消えた。


 全てが闇に閉ざされる。


『……!!』

 

 静寂は長くは続かなかった。


 ほどなくして竜猿が地面に激突した音が、腹の底に響かせるように森を震わせた。


 羽ピーも気を失い、夜の闇に落ちていく。


 ババ様たちも糸が切れたように、次々と墜落していった。


 巌窟寺院を照らしていた丸い月が、厚い雲に隠れる。


 闇の森が闇に包まれた。


 そして、静寂。


 誰も、何も、動かない。


 夜は、まだ明けない。


 

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