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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第五章 満月前夜

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38話 策謀

 ホーガイ一行は昨晩のうちに闇の森の入り口でヴォルノ隊と合流していた。

 翌朝、闇の森に巌窟寺院を目指して足を踏み入れた時だった。


 竜猿の咆哮が響き、森が不穏な空気に包まれた。昨日、スタンピードが起こったという連絡は小人から聞いていた。馬が怖がっていななき、団員が不安な目を交わしあう。


 そのとき、森の奥が光に包まれた。

『今、イリナ様の光が輝いた……』

 メガネの小人が唖然としたようにつぶやいた。次の瞬間、光が森の木々を駆け抜けた。


『早く、イリナに…… いや、法王猊下にこの錫杖を持って行かなければ……』

 ホーガイは胸に抱く厚手の布に包まれた白銀の錫杖と聖戒の封印をぎゅっと握りしめた。その錫杖を持つ手が震える。


『これほどの光…… 亡き法王猊下と同等? いや、それ以上かも……』

 ヴォルノの馬の鞍上でマオルカが目を閉じた。その目から一条の涙がこぼれ落ちる。


 ヴォルノもまたその温かな光に胸を打たれていた。

『イリナ法王猊下の奇跡の光…… 皆の者! 必ずイリナ様のもとに生きてたどり着き、聖戒国の復興を成し遂げようぞ!!』

 ヴォルノは声を張り上げた。


 だが——


『団長! グリファス元団長が……!』

 夜通し駆けてきた斥候が、血相を変えて駆け込んできた。


『……鉄騎軍五千騎の前に! ……敵将を道連れに…… 壮絶な最期を遂げました!』

『……ッ!! グリファス団長……』

 ヴォルノは目を閉じ、唇を噛み締めた。

 血が滲む。

『鉄騎軍は、指揮系統を立て直し、こちらに向かってくる模様!』


『……急がねば』

 ヴォルノは涙を拭い、前を向いた。

『新しい祭壇を早く…… 封印を早く施さなければ…… あの竜猿を封じなければ……』

 ヴォルノは拳を硬く握った。

『グリファス団長…… デルグラの意思が無駄になってしまう……』

 




  *




 昨晩、グラン隊は副長の本隊と合流したが、その数は二百騎を切っていた。使い手の襲撃でさらに被害を出しオムカを奪われ、沈うつな空気の中、巌窟寺院へと進軍中であった。


『鉄騎軍千騎はスタンピードに飲まれたが、まだ主力、二千騎は残っている』

『まだ、臭いは近づいてこないわよ』

 ハンクがグランに片目をつむって馬を撫でた。

 悪臭壺の臭いはそう簡単には落ちない。

 もし近づけば馬が反応するはずだった。


『タサキたちは使い手から逃げ切った。だけど進路を外れた…… 魔の森を彷徨っているらしい』

 ナヴィがモーイからの微弱な影伝えを受信した。


『竜猿がどこかで暴れている…… ”絶望”の影…… ケイが近くにいる』

 早朝の冷え切った空気の中、竜猿の咆哮が響き渡るたび緊張した空気が流れた。

『また暴走が起こるかも……?』


『一刻も早くイリナ法王猊下と合流し、お守りしなければ……』

 そのとき、森の奥が煌めいた。光の奔流が押し寄せる。時間を置いて竜猿の苦しげな怒号が響き渡った後、温かな光にグラン隊は包まれた。


『……イリナ ……法王猊下の光』

 騎士たちは立ち止まり、涙を流した。グラン隊に無傷なものは誰もいなかった。

 その光は疲れたグラン隊に士気の上昇をもたらした。

『者ども!! 進め!!』

 グラン隊は再び闘志を燃やし、闇の森をさらに奥に向かって進軍していった。





  *





 その少し後、地下空間。

 物見係が闇の民の影を捉えたことをババ様に報告した。


『ババ様。闇の連中がこっちを探してるぞな、もし』

『あの光で死んどらんか、しぶとい連中じゃな、もし』


『もうすぐ満月じゃ、闇の連中は月のやつらには敵わないわな、もし』

『わしらも魔の森から出たら、何も出来んわな、もし』


 黒い塊が体を震わしたのを、ババ様が杖で叩いた。


『おおかた我らと同じようにあの”絶望”の影を使いたいんじゃろな、もし』

『どうするべな、もし』


 ババ様はちらりと放心したようにうずくまっている碧とケイを横目で見た。


『月のやつらに奪われたら終わるだな、もし』

『森にいる鉄の国の軍団も煩わしいわな、もし』


 ババ様と黒い塊はうなずき合った。


『連れてくるだあ、もし』

 ほどなくして物見係に連れられてきたのは、腰が九十度に曲がった長老と数人の側近だった。闇の民の一行は息絶え絶えに羽猿を降りる。


 光に焼かれた同胞の多くは、この場に来ることはできず、瀕死の重症を負っていた。


『やむにやまれぬ…… 月の奴らの企みは阻止しなければならぬ……』

『闇の民の長老じゃな。えらいことをしてくれたものじゃな、もし』


 ババ様は闇の民の長老を睨みつけた。


『”絶望”の影が必要じゃ。術が完成できれば、月の奴らを滅ぼし、古の竜猿を制御できよう』

『このコンコンチキがあ、もし!! あんなバケモンは影で縛りつけて闇に沈めとくだあ!!』

『古の竜猿は、我ら闇の眷属。光と闇の均衡が崩れる時、古の竜猿が世界を浄化する…… これは、そのきっかけにすぎない』


 長老は達観したように目を閉じた。


『この……! このくそボケじじいがあ!! もしい!!』

 ババ様の怒声が地下空間に響き渡った。

 黒い塊が縮こまった。

 ババ様の体から黒い霧が湧き立ち、不穏な空気が漂う。

 闇の民の表情が強張った。


 碧がびくっとして振り返った。


『おんどりゃッ!! おめは自分の頭でものを考えることをせんのか!! もしい!!』

 闇の長老は印を結んだ。

 長老の体からも影が漂う。

 黒い塊がぼそりとつぶやいた。

『月のやつらも、闇の連中も同じ穴のムジナだわな。他力本願よ、もし』

 黒い塊から莫大な影が地下空間を覆い尽くしていく。


 闇の民の影が怯えたように引っ込んだ。


『われらには力がない…… 月の民の企みは阻止しなければならぬ……』

『であれば、なおさら頭を使わんとな。月の民の企みは阻止しなければならぬのは同じだな、もし』

『……では、なにをすれば良いというのか』


 闇の長老が深く息を吐いた。


『……我らだけでは、月の民には敵わぬ。力を貸してくれ、魔の森の魔女よ……』

『長老! 魔の森の魔女と手を組むなど!』

『黙れ。我らでは魔の森の魔女には敵わん。”絶望”は取り返せん』

 闇の長老が側近の言葉を制すと、ババ様の目が怪しく輝いた。


『ようく、耳の穴をかっぽじって聞きやれ、もし……』

 ババ様は声をひそめて語り始めた。


『……、……もし』

『……それは、危険すぎる』

『”希望”を囮に使うだな、もし。それで月の連中を鉄の国の奴らにぶつけるだな、もし』

『”希望”の光が輝いておるぞな。あれはわしらには危険だな、もし』

『その間に巌窟寺院に行って”絶望”の影を取り込むだな、もし』


「ケイにいちゃん。碧たちどうなっちゃうの?」

 傍で、碧が不安そうにつぶやく。羽ピーはぐったりと眠っているようだった。


『問題ない。巌窟寺院に行けば、トオサンたちが助けてくれる』

 ケイは森の民の会話がところどころ聞こえてはいた。


『なんとか羽ピーに乗って逃げ出そう』

「パパ…… ママ…… 早く、助けて……」

 ケイは碧の手を強く握りしめた。

 碧の光は脈打つようにまたたいている。


 ケイは沈黙している自分の紋様を見た。


——この影の力を使うことができれば、羽ピーを助けられる……


 だが、脳裏に飼育係の言葉が蘇る。


——『……中毒になる』


 ケイは左手の甲を見つめた。


 それでも、羽ピーが元気になるなら…… 碧を助けられるなら、里を母を捨ててもいい……


 



  *




 ジムニーは日が暮れる頃、ついに魔の森を抜け出した。

 モーイによると巌窟寺院まではあと半日の行程のところまで来ていた。

 森は不気味に静まり返っている。


「なんとか、ジムニーは持ちそうね。こんな森の中、普通走れないわよ」

「結果的に道が開けたな」

 森の中はスタンピードの影響で見通しが良くなっていた。

 絡み合ったツタや木々、灌木は、軒並み薙ぎ倒され踏み潰されていた。

 ジムニーは低速四駆で着実に進んでいく。


「あの竜猿は…… 死んだわけじゃないよな?」

「竜猿の影の力はまだ感じる…… 気絶してるだけだ。早ければ明日までには起きるかも……」


『猿がいない……』

 助手席でリューシャが小弓を手にしたまま、警戒するように呟いた。

 田崎は長剣を持ち、レジャーシートを取り外したリアガラスを振り返った。

 猿の暴走や使い手の襲撃への警戒の緊張で疲労は強かった。


「イリナは、いつ頃起きられそうか?」

「分からない。今まで、こんなに連続して光の術を使ったことはなかった。でも、確実に力は上がってる。明日の夜までには起きて欲しい」

 モーイの答えは願望に近いものになっていた。田崎はため息をついた。


「いずれにしろイリナが起きなければ、再封印はできないんだよな……」

「もう、今日はここまでね」

 未来はジムニーを止めた。


 傍らに沢が流れる少し開けた場所だった。

 ジムニーのライトのみでの走行は限界だった。

 窪みや大きな岩にジムニーが突っ込んだら致命的な故障に繋がる。


「明日には巌窟寺院に着くわけね」

 未来の声には焦燥が混じっていた。

 リューシャが手際よく焚き火の準備を始める。

 田崎はイリナを寝袋に入れて休ませた。

 未来はクッカーでスープを作り始める。


「結界もあてにならないわよね……」

「今はイリナの光は消えてるから、使い手には場所は特定されないとは思うけど……」

 モーイも疲れた顔を見せる。


 走行中、エンジンを影で覆って冷やし続けられていたのだった。


「疲れた。今日はもう休もうよ……」

 モーイがイリナの寝袋に倒れ込んだ。


 田崎は焚き火を見つめ、拳を握りしめた。

「碧、ケイ、待ってて。必ず明日助けるからね……」

 その時、リューシャの紋様が赤く脈動し始めた。


「リューシャ……?」

『……問題、ない。オムカの紋様の脈動を感じる……』

「オムカ……? モーイ! どういうことだ?」

 オムカがつかまったことはナヴィからの影伝えで聞いていた。

 オムカの事だ、自力で脱出してくるだろうと高を括っていた。


『ケイ!! アオ……の脈動も感じる』

 そのときリューシャが叫んだ。


「ケイ? 碧? なにが起こってるの? モーイ!」

「分からない。でも…… なにかが起ころうとしている」

「今は、……無事なのね?」

「死んだら感じ取れない…… もう今日は何もできない…… 眠れなくとも、明日に備えて休むしかない……」


 モーイが首を振った。


 闇の森に、ほぼ満ちた月が昇っている。


 満月は明日——


 田崎は焚き火を見つめた。


 静寂な森に、不穏な空気が漂っていた。

 何かが起ころうとしている。

 

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