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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第五章 満月前夜

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37話 残滓

 ババ様の一団が森の深くに口を開ける洞窟の入り口に迫っていた。

 その瞬間、背後から純白の光が一団を飲み込んだ。


『イリナ姉さんの光……?』


 そのイリナの光に触れた碧とケイは、沸き上がる生命力と懐かしい温かさに包まれた。疲労が回復していく。


 一方、羽猿と魔の森の民は苦痛の声を上げた。


『ギャギャギャ!!』

『飛び込むだべ!! もしい!!』

 純白の視界の中、次々と洞窟に飛び込んでいく。

 だが、数匹の羽猿が目測を誤り地面に激突し、さらに数匹が洞窟の壁に衝突した。

 暗闇に羽猿と民の絶叫がこだまする。

 羽猿の一団は鍾乳洞の広い空間によろよろと下降すると、へたり込むように着地した。


『影を出すべな、もし』

 黒い塊から淡い影が沸き立った。

 その影は光に焼かれた羽猿にまとわりつき、傷を癒していく。

 羽猿たちの苦しげな鳴き声が、徐々に静まっていった。


『ギャギャ……』

『えげつない光じゃったのう、もし』

 ババ様は羽ピーと二人の子どもを見た。


『あんなんは可愛いもんだな、もし』

 碧の紋様からは淡い光が放たれていた。


「羽ピー!! パパとママがいた! 早く行こうよ!!」

 碧は羽ピーにしがみついたまま叫んだ。


『アオ……? 光ってる……』

 ケイは碧の紋様を指差す。

 その紋様からは淡い光が放たれ続けていた。


 それは暗闇の中でわずかな光源となっていた。

 同時にその光は羽ピーを傷つけているようだった。


『ギャ…… ギャ』

 羽ピーは力なく鳴いて、うずくまった。


「羽ピー!! 立って!! 飛んで!!』


 羽ピーは息絶え絶えに突っ伏した。

 碧の紋様から放たれる淡い光の中、羽ピーの体は光に焼かれ所々が透け、黒い煙のような影が立ち上っていた。


『アオ……  ダメだよ……』

「羽ピー……!! ケイ兄ちゃん……!!」

 碧は羽ピーの背中を何度も叩いた。

 

『起きて、起きてよ……』

 ケイが、その小さな手を静かに止めた。

 碧の目から涙が溢れ、止まらなくなった。


「ひっく…… うわあああん!! パパ! ママ!」

 暗闇に、子どもの泣き声だけが響いた。


『アオ…… トオサン…… 母さん……』

 ケイの瞳からも一筋の涙がこぼれ落ちた。

 

『影を使い切ってしまうべな、もし』

『……仕方あんめ、半日は動けんべ、もし』


 ババ様も光に当てられた影響か、苦しそうな声を上げた。

 黒い塊から影が沸き出し、民と羽猿を包み込んでいた。


『これ、飼育係、給餌係は生きてるべか、もし』

『……ババ様』


 飼育係と給餌係のか細い声が暗闇から上がる。


『治療係はおるべな、もし』

 その声に応えるように、いくつかの影が沸き立ち羽猿たちを包み込んでいく。


『日が暮れたら、出発じゃ、もし』


 ババ様がため息をついた。


『この洞窟の出口は入ってきた一つしかないじゃろ、もし』

『竜猿も夜んなったら、また復活すんかも分かんね、もし』


——夜になったら、またアレと鉢合わせる?


 ケイはその巨大な姿を思い出し、ごくりと喉を鳴らした。


 羽ピーは治療係の影に包まれて、眠っているように動かない。


「羽ピー、起きてよ……」


 冷たい石の地面に座り込んで泣き続ける碧の背中に、ケイはそっと手を置いた。





  *





 地上のジムニーの車内では重苦しい空気が流れていた。


「碧とケイがいたのね?」


 未来の声は震えている。


「うん、近くにいるよ。碧の光の残滓が残ってる」

「じゃ、早く行きましょう!」


 モーイが小さく首を振った。


「この真下から碧の光を感じる。地底奥深くにいる」

「真下? ……地下ってこと?」

「碧の光を辿ってるけど、入り口はどこか分からない……」

 未来は深いため息をついた。


『おそらくケイたちは巌窟寺院に向かっていた。きっと二人は巌窟寺院に連れて行かれる』

 リューシャが冷静に指摘した。


 イリナを振り返るとまたぐったりと眠りについていた。


「はあっ! 仕方ないわね」

 リューシャの言葉を聞いた未来は顔を上げた。


「未来。ジムニーの点検をしよう」

「一応、結界を張っておくね。イリナの光で追っ払ったから、大丈夫だと思うけど」

「イリナは大丈夫なの?」

「分からない」


 モーイの声は不安げだった。


「でも、光の強さがどんどん上がってる。覚醒したのかも……」

「覚醒?」

「うん。でも…… その代償は大きいはず」


 田崎はイリナの横顔を見る。

 イリナに寄り添うリーと目が合った。

「頼むぞ、リー」

 リーの頭を撫で、足元の工具箱を引っ張り上げる。


「リューシャ、降りて。未来、点検と修理をしようか……」


 三人は車外に出た。


 明るい日差しの下で見る愛車の姿は、あまりにも無残だった。

 ボディは泥と血と爪痕で汚れ、至る所が凹んでいる。

 フロントバンパーは脱落しかけ、フロントガラスにもヒビが入っている。


「これ見て」


 未来が腰に手を当てて前輪を指さす。


「タイヤがハの字になってる。タイロッドが曲がってるわね。これじゃハンドルが取られる」

 昨夜の決死のジャンプと着地の代償だった。

「直せるか?」

「叩いて戻すしかない」

 未来はジムニーの荷台の床下からジャッキを、工具箱から大きなハンマーを取り出した。

「圭一はエンジンルームを見て。昨日のモーイの急冷でホースがイカれてるかも」

「分かった」


 作業が始まった。リューシャは長剣の手入れを始める。

 刃についた血を拭い、砥石で研ぐ。

 淀みのない、無駄のない動作。

 田崎はふと手を止め、その姿を見た。


 未来は泥だらけの地面に転がり、車体の下に潜り込む。


「くっ……! 硬い……!」

 曲がった鉄のタイロッドにハンマーを叩きつける。

 カン! カン!と乾いた音が響く。


 田崎はボンネットを開けた。

 甘い冷却水の匂いが鼻をついた。


「やっぱり漏れてる……」

 ラジエーターホースの繋ぎ目から水が滲んでいた。

 予備のホースはない。ジムニーに積んであった工具箱から自己融着テープを取り出し、祈るように何重にも巻きつけた。


「頼む、耐えてくれ……」


「圭一、ジャッキ下ろして!」

 未来が車の下から這い出してくる。

 顔もセーターも油と泥で真っ黒だった。


「……どうだ?」

「完全じゃないけど、マシになったと思う。少なくともタイヤが外れることはないかな」

 田崎はボコボコになったフェンダーを愛おしそうに撫でた。


「よく頑張った。……もう少し頼むぞ」


 その目には、かつてこの地を走り抜けたジムニーと同じ、相棒への敬意があった。


「ガソリンは?」

「携行缶の残りを全部入れた。……これで空っぽだ」

 田崎が空になった赤い缶を振る。

「ここから巌窟寺院まで、片道分ってとこね」

「十分だ。帰りは……」


 田崎は言葉を濁し、弓矢の手入れをしているリューシャの背中を見つめた。


「帰りは、またあの黒い霧で帰れる。まずはたどり着くことだけ考えよう」


 修理を終えたジムニーは、傷だらけの戦士のようだった。

 見た目はボロボロだがそのエンジン音だけは、まだ走れるというように力強く唸っていた。


「さあ、行きましょう。あの子たちが待ってる」

 未来がクラッチを繋ぎギアを入れ、アクセルを踏み込む。


 西陽が木々の間から差し込んでいた。

 夕暮れが近い。


 田崎は拳を握った。

 必ず、取り戻す。

 碧とケイを。

 三人の紋様を解いて、家に帰る。


 明日、満月の夜に、すべてが決まる。

 


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