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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第三章 修羅場

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24話 新法王

 ジムニーは騎士の先導を受け、広々とした草原から結界に入った。

 騎士団からざわめきが起きる。好奇と期待に満ちた目が向けられた。


「どうなってるの? さっきまで何にも無かったわよね?」

 未来が驚きの声を上げるのも無理はなかった。ただの開けた草原に見えた空間が、結界の中に入った途端、天幕が連なり馬がいななく、ざわついた騎士団の野営地になっていた。


「オムカがやってたあのまじないも、外からはこんなにも分からないものなんだ」     

 田崎も感嘆の声を上げた。

「ナヴィの結界は、チョーロー、イリナに次いで強力だからね」

 オムカが得意顔で言って、モーイが訳した。


「うっ……まだ鼻が曲がりそう。消臭の魔法はないの?」

 未来が鼻をつまんだとき、グランが駆け寄ってきた。

『イリナ様、次期法王としての重圧。このグランが少しでも肩代わりいたしましょうぞ』

 ジムニーから降りてきたイリナにひざまずく。


『グラン様 ……ありがとう』

『皆の者!! イリナ法王猊下に敬礼ッ!! 剣を捧げよッ!!』

 グランが叫ぶと騎士たちは一斉にひざまずいて剣を抜き、切っ先を己に向けた。


 場が一瞬にして静まり返る。リューシャも剣を抜き、二人の小人もひざまずいた。


『みんな、ありがとう。みんな、顔を上げて。法王猊下の御心、決して無駄にはいたしません。このイリナにみなさまのご助力を。聖戒の光のご加護がありますように……』   

 イリナが聖戒を詠唱し、杖を掲げるとその杖の先が光り輝いた。


 その光は結界内を覆い尽くし、温かな清浄な空気に満ちていく。


「……臭い、消えたわね……」

 未来がぼそっと田崎に囁いた。

「……」

 田崎が未来を睨みつける。


 そして野営地に割れんばかりの歓声が鳴り響いた。


『イリナ様!! イリナ法王猊下!!』

 一人の騎士が叫ぶ。

『新法王猊下! 万歳!!』

 その声に、次々と声が重なる。

『万歳!!』


 騎士たちは涙を流し、口々に叫んだ。小人により法王崩御と聖都陥落を知らされ、絶望の淵に沈んでいた騎士団にとって、イリナの言葉と輝きは、まさに闇に差す一条の光だった。


 その後、グランの大きな天幕で今後の作戦が立てられた。


  田崎一行も地図を囲んだ。

『悪臭壺が思いのほか、効果があったらしい』

 グランはニヤリと笑った。斥候からの報告によると、鉄騎軍は悪臭による混乱で進軍が大幅に遅れている様子だった。


『一日分くらいは先行しているはず。碧とケイの救出に今のところ鉄騎軍の妨害はないと思う』

 ナヴィが補足した。


「結界って、外からは見えないけど、もし敵が来たらどうなるわけ?」

 未来が不安げにモーイにささやいた。

「ここは、いわば光の世界。別次元だから、素通りするだけ。強い影の力でないと破られない。使い手がいるから、安全ではないけどね」

「結界を張ったままで移動はできないの?」

 未来の質問にモーイはため息をついた。

「動いてる間は、結界は張れない」

「……不便ね」


 田崎とリューシャは顔を見合わせうなずきあう。リューシャが口を開いた。


『午前中、竜猿のような咆哮を聞いた。そちらでは確認は取れていないか?』

 グランとナヴィが同時に首を振った。

『我らも気づいた。しかし、影の儀式が行われているような気配は感じられなかった』

 ナヴィが首を傾げた。

『竜猿を復活させるほどの大量の影が動いたら、チョーローが察知するはず。連絡はない…… でも、竜猿は目覚めた…… きっと今頃チョーローは原因を探っているはず……』


「……やっぱり ……竜猿か」

『……儀式ではありません。でも、竜猿は目覚めた…… もっと…… 歪んだ目覚め方です。そう…… 制御を失った”闇”が無理やりこじ開けたような……』

 イリナが両腕を抱え首を振った。


『嫌な予感がするな…… 急いだほうが良さそうだ…… まあ、分からんことを考えても仕方がないか』

 グランが大きく息を吐いた。


『隊を二手に分ける』

 グランが地図を指差した。

『騎士団主力はここで敵を食い止める。俺は碧とケイの探索に向かう。ナヴィはここに残れ。副官がここの指揮を執る』


「ちょっと待って! 碧とケイの居場所は確かめられないの?」

 未来が割り込んだ。

『今、外に向かって強い術を使えば、この場所を使い手に特定されてしまう……』

 イリナが目を伏せて首を振った。


『俺とハンクと工兵百騎が鉄の車とともに闇の森に行く。光の術を使うのは一度切りだ』    

 グランが厳しい口調で方針を示していく。

『光の術を使ったが最後、使い手の猿どもに地獄の果てまで追いかけられる』

 グランが田崎を見て不敵に笑う。

『まあ、あの鉄の車なら逃げられるだろうがな。出発は明日未明。今日は休んでおけ』

 グランがそう言って、ひとまず場を締めた。


『イリナ様も大切なお体。どうかお休みください』


 そのあとは騎士団幹部だけで詳細な作戦会議となった。


 田崎一行が天幕を出ると夕暮れ時だった。炊事の煙が上がる。

 騎士に案内され、田崎と未来とリューシャはそれぞれの天幕を与えられた。


 イリナは別の天幕に通された。


「イリナは結界を強化するってさ。でも休まないと、倒れちゃう」

 モーイが心配そうに田崎にささやいた。


 田崎と未来はジムニーの点検に向かった。

「よく走ったな」

 田崎がジムニーのボンネットを愛おしげに撫でた。


「碧…… どうしてるかしら…… 怖い目に合ってるんじゃないかって気が気でないの……」   

 未来が田崎の背中に身を寄せた。その肩が小さく震えている。普段気丈に振る舞っているが、さすがの未来も眠れていないことに田崎は気づいていた。


 その顔は疲労と心労の色が濃い。


「……ケイもついてる。……大丈夫なはずだ」

 田崎は自分に言い聞かせるように言うと、ライトを取り出してボンネットを開けた。


「明日からは、闇の森だ。安全なのは今日までだ…… 多分」

 田崎も碧のことを思うと気が狂いそうになるほど焦燥感が高まる。

「この車が動かなければ、体一つであの猿がうようよしている森を歩かないといけなくなる…… 未来、ライトを」

 田崎はラジエーターホースの補強を始める。手を動かしていなければ、悪い想像で頭がどうにかなってしまいそうだった。


 騎士団から提供された夕食を囲んだあと、リューシャが未来に向かって口を開いた。


『ミク殿、タサキは今晩、私と過ごす』

「……?」

夫婦(めおと)であれば当然であろう』

「……なんて言ってるの? モーイ?」

 嫌な予感に未来の目が細くなる。


「リューシャは、タサキと愛を確かめ合いたいってさ」

 モーイはそっぽを向いて口笛を吹いた。


「休戦してたんじゃないの?」

『ならばこそミクに伝えた。異界ならともかく、ここでは私がタサキの妻だ』

「そ、そんなこと…… 圭一も何か言ってちょうだい!」

「えーと、ジムニーの点検がまだ、だな……」

 逃げようとする田崎の襟首を未来がつかんだ。

『タサキ……』

「リューシャ……?」

 田崎の腕をリューシャが取り、熱っぽい目で顔を覗き込む。その目は戦場に生きる女の、明日の命も知れぬ切実さを帯びていた。


「圭一の口から、はっきりと断ってちょうだい!」

 未来が仁王立ちをして腕を組んだ。

『タサキ、ケイに弟か妹を作ってあげたい』

 モーイがしゃしゃり出て通訳すると、未来の顔が真っ赤になった。


「……圭一ッ!」

 未来が田崎の反対側の腕を取った。

『よろしい、ならば休戦は終了だな』

 リューシャは腰に下げた弓に手をかけた。


『ミク殿は、鉄の車に乗るがよい』

「ちょ、ちょっと! そんなことできるわけないでしょ! 圭一もなんか言って!」

『タサキ……』

 リューシャは目を潤ませた。鼻をすすり上げ、田崎の顔を熱を帯びた瞳で見つめる。

「未来…… リューシャ……」

 田崎は目を閉じて、首を振った。


——こんな…… 碧が大変なときに……


——リューシャ…… 


 田崎はそのリューシャの瞳を見つめた。


 十二年分の空白と、かつての温もりがフラッシュバックする。


——抱きしめたい…… と思ってしまう……


「目の前で不倫する気?」

 未来の声が低く響いた。その声には怒りだけでなく、置き去りにされるような恐怖が混じっていた。

「うっ……」

 言葉に詰まった。否定も肯定もできない。

「信じらんない……」

 未来が額に手を当てた。


——最低だ…… 父親として…… 夫として…… 男として…… 


 何が正解なんだ……


 どちらを選んでも、誰かを、傷つける。


 答えはどこにあるんだ?


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