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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第三章 修羅場

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22話 復活

 古く暗い寺院のカビ臭く底冷えのする小部屋で、碧とケイは寄り添っていた。

 ここに連れて来られてから、ケイの左手の紋様からは黒い影が滴るようにこぼれ落ちていた。ケイは床に落ちて、そのまま吸い込まれていく自らの影を不安な面持ちで見つめていた。

「昨日もパパとママ…… 来なかった……」

 碧はバッテリーの切れたスマホをリュックに戻した。碧の顔も、疲労の色が濃い。

 ケイの傷を覆っていた影が薄れてきていた。痛みはほぼ無くなっている。

「パパ…… ママ……」

 すでにこの寺院にきてから二日が過ぎていた。黒づくめの人影から、焼いた魚や鳥が一日二度、小部屋に運ばれただけだった。

『これじゃあ、軟禁と一緒だ……』

 ケイの眉間にしわが寄る。ケイの紋様からは、じわじわと黒い影が滲むように漏れ続ける。無尽蔵に流れ続ける影に、体の中が空っぽになっていくような焦燥感と不安が高まっていく。

『ケイ兄ちゃん? おいしい ない』

 碧はパサパサして味のない、獣臭い鳥の肉の小さなカケラを指でつまんで口に入れた。ただ焼いただけの鳥を、ケイは小刀でほぐしていく。

『食べないと、いざという時、力が出ない』

 ケイは脂が少しは残る、痩せたもも肉を碧に食べるように促した。

「ケイ兄ちゃん? パパとママを探しに行こうよ……」

 碧は差し出された肉を飲み込むようにして言うと、手帳を開いた。

『父さん、探す、行く』

 ケイはため息をついた。

『そうしたいよ。でも、ここが、どこだか分からないし……』

 碧はケイの言葉を遮って続ける。

『飛ぶ 猿 乗る 行く』

 ケイは碧の顔をまじまじと見た。そして吹き出した。

『羽猿には乗れないよ。猿使いが特別な訓練を積んで術を使って、ようやく飛べるんだ』

 否定されたことが分かったらしい。碧は頬を膨らませた。

『でも、乗る「もん」』

 碧は窓辺に近寄る。そこには木に止まった羽猿が監視するように覗いていた。赤い狂気に満ちた目がギョロリと碧の目を捉え、碧は一歩下がった。

「この羽猿、ここに来た時に乗ってきた子だよね……?」

 額に同じ傷が走っていた。


 そのとき、二人の紋様が同時に輝き出した。碧の左の紋様から温かな光が漏れる。

『こ、これは…… 法王様の……光……』

 ケイはその光の温かさに、法王の術の残滓を感じ取った。

 碧の紋様の光は止まらずに輝き続けた。しかし、ケイの紋様は一瞬で沈黙し、逆にどろりとした影を濃くしていった。

「これ、何? また光ったけど? 前とは違う……」

 光は小部屋を埋め尽くし窓の外にも漏れ、羽猿を照らした。

「だれ……? あなたは……? わたしを呼んだのはあなた?」

 碧は、ぼうっとしたような顔で前方を見つめている。誰かに話しかけているようだった。

 ケイの紋様が再び疼き出した。紋様から止まっていた黒い影が滴るように溢れ出す。


『我が、敬愛なる法王猊下…… 私の光は! 私の光は、まだ消えては、おりませぬ……』

 碧とケイの目の前に白い法衣を着た小柄な姿が、朧げに浮かんだ。フードから覗く両の目は光を失い、左半分の顔は焼け爛れ、右半分は透き通った秀麗な顔を持っていた。

「あなたなのね……? わたしを呼んだのは?」

 碧の問いかけに答えるように頭に声が響いた。


——私は”盲目の僧侶”と呼ばれていたもの……

 我が”希望”の光を持つ異界の子よ…… 光と闇の均衡は…… まだ間に合う……

 古の竜猿、あれを眠りから醒めさせては…… ならぬ……


 ”絶望”の子を…… 救いなさい……


 そなたの光だけが…… 彼を救える……


 そして、碧の紋様の光が消えると同時に、盲目の僧侶の姿も消えた。


「なに? 今の……」

 碧は窓の向こうにいた羽猿と目が合った。血走っていた目が、澄んだ色を取り戻していた。

「あ……」

 羽猿は窓から部屋に入ってきた。そしてケイの紋様から滴り落ちる影を、乾きを癒すかのように舐めるようにしてすり寄った。


——アオの『光』が羽猿の狂気を鎮めた……?

 そして、ぼくの『影』が羽猿を魅了している……?


『おまえ…… この影が欲しいのか……?」

 羽猿はうなずくように頭をこすりつけた。紋様から流れ出る影はいつ止まるか分からない。


 そのとき、扉の向こうから杖を石畳に叩く音が聞こえた。その数が増えてくる。何事か叫んでいるようだった。

『依代の子の紋様が……』

『まずい…… あの子の”希望”が、我らの”絶望”の影を……』

 その声は焦燥と混乱に満ちていた。

『”絶望”の依代の子の影を…… 早く……』

 言葉の意味はわからないが碧は、その声色に恐怖と嫌悪を示した。

「あの白い服の人…… あの人たちを嫌がってた……」

 扉が開き、黒い影が覗いた。

『……早く! ”絶望”の影で古竜猿の復活を……!』

 バン! と扉が開き、豹猿とともに黒い影が小部屋に入ってきた。

「いやッ! 助けて!」

 そのとき碧の紋様が再び光り輝いた。その光に照らされた豹猿がうずくまる。黒い影はフードを深くかぶり、悲鳴を上げた。

『グアアッ!! 目が、目がぁ……!』

 顔を覆い、黒い影はのたうち回った。

『アオ! 乗る 猿!』

 ケイは碧の手を取ると羽猿につかまらせた。ケイが覆うように被さって羽猿につかまった。その瞬間、羽猿は体を倒した。ぎゅっと二人が足を羽猿の体に回すと、羽猿は力強く飛び立った。

『ああ! ”使い手”を止める手段が……』

『まだ術が、完成していない……』

 窓辺に駆け寄る黒い影が見えた。羽猿は寺院の周りを旋回すると上空に羽ばたいた。

「あれ! 見てッ!」

 碧が声を上げた。眼下に巨大な竜猿の石像が見えた。ケイから流れ出る影は、まるでその影の力を奪うようにその巨体に降り注がれている。


——この膨大な、ぼくの影…… 竜猿の復活に使ってた……?

 影はなくなる気がしなかった。底が見えない湧き出る影の恐怖に背中が凍りついた。


——あの巨大な竜猿が目覚めたら、世界が終わる。

 母さんが話してくれた、かつての大戦の恐怖。


 突如、風が止まった。

 羽猿の羽音が消え、森が息を詰めた。


 そして竜猿の頭頂部に大きなヒビが入り、赤い目がその隙間から覗いた。次の瞬間、亀裂がその巨大な体の全身に走った。轟音とともに石の破片が剥がれ落ちていった。


『ケイ兄ちゃん? 大丈夫?』

 碧が心配そうに声をかけた。

『……問題ない、アオ』

 ケイの顔は青ざめていた。


——いにしえの竜猿……? 復活……してしまった……?


「ねえ? どこに行くの?」

 碧とケイを乗せた羽猿は闇の森を飛んでいった。ケイの紋様からはまだ影が溢れ続けていた。




  *




「……なんとかなりそうね」

 未来がジムニーのボンネットをバタンと閉めた。ラジエーターホースを補強し、漏れた冷却水代わりに水筒の水を足した。エンジンルームの点検と補強を済ませ、足回りの掃除をしたころには昼近くになっていた。

「もう、本当に無理はできないな……」

 振り向くと、小人二人とリューシャとリーが、イリナに寄り添っていた。

『イリナ、食べられる?』

『……はい』

 小人の里で追加した食料を焚き火でリューシャが調理したものを、少しずつイリナは食べていた。だが、その顔には色がない。スプーンを持つ手が震えていた。

『……法王様』

 リューシャがそっと肩を抱く。リーが寄り添って鼻を押し付けた。

『……ありがとう ——食べなければ……法王様が命をかけて託してくださったもの、それを守るために……』

 その後半の声は言葉になることなく消えた。


「おれたちも、お昼にしようか……」

「そうね……」

 未来がコンロとクッカーを取り出し食材を選び始めたとき、モーイが田崎に声をかけた。

「グラン隊が、こっちに向かってる」

「それは、ありがたい。森には猿がうようよいるんだろ?」

 もうジムニーで逃げ回るような運転はできない。猿との対抗手段があることに田崎はほっと胸をなで下ろした。

「鉄騎軍もこっち来るよ」

 田崎は黒い台車で対峙した黒い人影を思い出した。深い憎悪と殺意に満ちたその目におぞけが走った。

「それよりも碧とケイの居場所はわかるのか?」

「イリナの術を使えば…… ただ術を使えば、”使い手”にこちらの居所もバレちゃう」

 田崎は頭を抱えた。

「この先に森を巌窟寺院近くまで突っ切る小径がある。そこから森に入るけど、鉄騎軍もおそらくその道に向かってる」

「じゃあ、ある程度はバレても構わないわけだ」

 モーイは首を振った。

「グラン隊の準備もある。正確な進軍状況が分かったらグラン隊が危険になる。まずはグラン隊と合流してからだね」

「……分かった。まずは飯にしよう」

 田崎はため息をついた。


 簡単な昼食をとった後、ジムニーは出発した。二輪駆動でゆっくりと小径の轍を進む。上り坂に差し掛かると低速四駆に切り替えた。

 ジムニーのエンジンが唸り声を上げる。応急処置はとりあえずの効果を上げたようだった。運転をしているとバックミラー越しにリューシャと視線が交差した。目が合うと、リューシャは熱っぽい目で微笑む。思わず田崎はそれに見惚れてしまう。リューシャはずっと田崎をバックミラー越しに見つめていた。


 その静かな交流に未来が気づかないわけはなかった。田崎がちらっと助手席の未来を見ると不貞腐れたようにぷいと顔を車窓に向けた。

『……だめだこりゃ』

 オムカとモーイが同時にため息をついた。


 午後の日差しが傾きかけたころだった。


「なんか、臭いんだけど……」

 未来が言及するまでもなく車内に悪臭が立ち込めた。

「グラン隊が近くにいるね……」

 モーイが言ったとき、前方から騎馬が駆けつけてくるのが見えた。

 騎士はジムニーに近づくと馬から降りてひざまずく。田崎は窓を開けた。

『イリナ様……、タサキ殿、グラン隊はこの先に陣を張っております』

「うわ、臭っ……」

 その顔に気づいた騎士が申し訳なさそうな顔をした。

『騎士の一人が、うんこ爆弾…… いや悪臭壺を懐で割ってしまいまして…… いや、その騎士はすでに隊を離れておりますが…… いや、申し訳ない』

「うんこ……  爆弾……?」

『いや、糞尿騎士団の面目躍如といったところですが、いや、こちらの話です……』

 騎士は困り顔で汗をかいて、かしこまった。

 騎士が早駆けで先導し、ジムニーがついていった。やがて開けた草原に出た。


 結界を抜ける何度目かの慣れた感覚があった後、目の前に連なる野営の天幕が現れた。



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