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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第三章 修羅場

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18話 撤退

 グラン隊は窮地にあった。猿の群れと鉄騎軍が押し寄せる。前後の部隊も中央に戻ってくる気配がしていた。これ以上踏みとどまれば全滅する。


『ナヴィ! もう持たん!! 救出はまだか?!』

 グランの長剣は血まみれで、すでに刃はぼろぼろだった。叩きつけるように羽猿に剣を振り下ろす。足場の悪い泥の地面には敵、猿、味方の死体が積み重なっていた。

『救出! 成功!』

 そのときナヴィが鞍上で立ち上がる。

『よしッ! 第一部隊が殿を務める! それ以外は全員逃げろー!!』

 ジムニーの爆音とクラクションが鳴り響く中、グランは叫んだ。包囲を防ぐために森の中に後退しながら戦線を維持する。

『ハンクは!! まだか?!』

 グランの顔に焦りが見え始めたとき、鉄騎軍から悲鳴が上がり、歩兵が吹き飛んでいくのが見えた。グランがニヤリと笑う。


――あんなことが出来るのは、この世で奴しかいない。


『ハーンク!!』

 グランは騎士を失った馬の手綱を取ると、剣を片手に突撃を始めた。第一部隊が慌てて続く。悲鳴と激突音が轟いた。グランが敵を突破すると、視界に血だらけで鉄槌を振り回すハンクの姿が入った。

『乗れ!!』

 上空から滑空してくる羽猿を叩き伏せると、グランはハンクに駆け寄り剣で馬を指し示す。

『全隊ー! 全速! 逃げろー!!』

 グランが絶叫しながら、懐から壺を取り出すと後方に投げつけた。

『特製うんこ爆弾ッ! 用ー意ッ!!』

 立て続けに指示を出すグラン。作戦に使ったものとは別の逃走用に工夫した悪臭壺だった。

——こいつが付いた日には、十日は飯が喉を通らない。あの時は、一月はシャバには出られなかった……


『置き土産だッ!! 投ー擲!!』

 グラン隊が次々と壺を後方に放り投げると、背後に紫色の煙とともに脳髄を揺さぶる激烈な悪臭が漂った。馬がいななき、猿が悲鳴を上げ、兵士が絶叫してのたうち回る。


 グラン隊は煙に紛れて森の中に次々と姿を消していく。三々五々、一目散に馬を駆けさせる。突撃以上に、この「逃げ足」こそがグラン隊の真骨頂だった。


――集合場所にいったい何人、戻って来られるか……


『みんな!! 死ぬなよ!!』


 予想される被害の大きさにグランの胸が強く痛んだ。




  *




 ジムニーは荒野を爆音を上げて走っていた。昨晩、点検と補修、ガソリンの補充をしていたとはいえ、無茶な運転と猿との衝突ですでに満身創痍だった。

 背後に羽猿と豹猿の一団が執拗に追走していた。


「しつこい!! モーイ! なんとかならないの?」

「……ひたすら逃げて、距離を取るしかないよ」

 オムカが進行方向に杖を向けていた。モーイは座布団にうつ伏せにしがみついて目を回していた。

「疲れた…… あとはオムカにまかせた……」

 リューシャが、後部ウィンドウから追っ手の猿を確認したとき、荷台に弓と矢筒、長剣が立てかけてあるのが目に入った。

『タサキ! ***! **!』

「何? リューシャ? モーイ? なんて言ってる?」

「後ろの窓は開けられないかって」

 田崎は首を振った。それを確認するとリューシャは続けて言った。

「前に行きたいって言ってるよ」

 疲れた顔でリューシャは弓をかかげて見せた。

「体は大丈夫か?」

『問題ない』

「問題ない、ね」

 田崎が苦笑してシートベルトを外し、体を起こして無理やり後部座席に向かう。

「ちょっと! 足が邪魔!」

 未来が不満の声を上げると、ジムニーはさらにスピードを上げた。

「うわッ!」

 不安定な田崎にGがかかり、そのまま後部座席に飛び込んだ。リューシャの豊満な胸に田崎の顔が埋まる。

「ごめん……」

 顔を上げるとリューシャの赤らんだ顔がのぞきこんでいた。愛おしそうに田崎の顔を胸に押し付ける。

「もうッ! なんなの!!」

 バックミラーで二人をちらっと見た未来は苛立ったようにドリフトを極め、強烈な横Gが車内を襲った。田崎とリューシャは抱き合うようにもつれ、小人二人がダッシュボードの上から転げ落ちた。

「わんわんわん!!」

 リーがさらに狭くなった後部座席でイリナをかばうように抗議の声を上げた。

「うわああ! リーごめん! 未来! リューシャも!」

 リューシャは田崎に覆い被さられ、さらに顔をあからめた。

「ひどいなあ……」

 モーイが助手席の床に倒れたままうめいた。

『リューシャ! イチャついてないで、なんとかして!』

 オムカがモーイの体の下から呻くようにリューシャに声をかけるとリューシャは、はっと我に返った。弓と矢筒を持ち田崎を押し除けて、狭いシフトレバー周辺を抜けて助手席へと移動する。

「未来……? 窓を開けてあげて……」

「何するの?」

 未来が窓を全開にすると、乾いた冷たい風が車内に吹き込んでくる。リューシャは窓から身を乗り出すと、矢を弓につがえ引き絞る。上体を完全に外に出すと、車内に残った形の良いヒップがジャケットから出てピンと張った。田崎の目が思わず釘付けになる。

 だが、激しく揺れる車内で狙いが定まらない。

「未来、もう少し速度を落としてあげて……」

 スピードが落ちたその瞬間、弓弦がヒュンと鳴った。羽猿が一匹地面に落下する。

「やるじゃない……」

 サイドミラーで確認した未来が口笛を吹いた。速度を落としたジムニーは豹猿に追い付かれる。リューシャは次々と矢をつがえ、迫り来る豹猿を射っていった。

 未来はリューシャが狙いやすいようにスピードを抑えつつ、半円を描くように車を回していく。豹猿の長い胴体が一瞬、曝け出される。そしてリューシャの速射の技が確実に豹猿の体を貫いた。

 さらに車体をスライドさせ、リューシャの射線が通るように調整する。急に狙いがつけやすくなったことに気がついたリューシャは、未来をちらりと見た。

 ヒュン! 打ち出された矢は正確に豹猿の喉元を貫き、次の矢も羽猿の頭に突き刺さった。

「ナイスショット」

 思わず未来が声を上げると、リューシャが振り向く。

 一瞬目が合った。言葉は通じない。

 短く頷き合うと、それぞれの仕事に戻る。


 さらに鮮やかに数匹を撃ち落とした。


 そして、それは未来の走り屋の魂に火をつけた。


「リューシャさん! 中、入って! 窓閉めるよ!!」

 言うが早いか、強制的に窓を閉めると未来の左手がギアをリズミカルに操作し始めた。荒野が終わり、山岳地帯の下りをジムニーは飛ぶように駆け降りる。

「リューシャ! シートベルトして!」

『きゃあああ!!』

 断崖絶壁をぎりぎりのコーナリングで回避すると即座にギアを入れ替え、道なき道を崖、岩、窪みを避けながら滑降するように走り抜ける。

『タサキの運転と全然違うなあ……』

 ダッシュボードに戻ったオムカがぼやきながら杖を向ける。

 気がつけば猿の追っ手は見えなくなっていた。


 リューシャと未来は目を見合わせた。お互いの頬が緩む。


 その様子を見ていた田崎は、安堵と同時に別の種類の冷や汗を流していた。


――なんか、二人の波長が合ってきてないか……?


 最強の元カノと最怖の妻。この二人が手を組んだら、自分に勝ち目はない。


 田崎はそっとリーを抱き寄せた。



  *




『これだけか……』

 集合場所に指定した崖下に、殿をつとめたグランがたどり着いた時、すでにそれぞれの部隊長が集合していた。

『第二部隊、死者十、怪我人十一、不明五……』

『第三部隊長、討死……』

 グランの拳が震えた。

『代理に副長が指揮しています……』

『……わかった』

『工作部隊……』

 それぞれ指揮官から報告を受けるたびグランの顔が強張っていった。

『まだ、これから戻ってくる奴らも、いるかもしれん』

 拳を握りしめる。爪が手のひらに食い込んだ。


『目標は達成! リューシャ、オムカ救出成功。無事逃げ切ったよ』

 ナヴィがモーイからの連絡を受け報告した。

 そして結界が張られると、ほっとした空気が流れた。

『ハンクもご苦労だった』

『あの救出! ほんとうに刺激的で情熱的だったわ』

 ハンクが手を組んでもだえながら片目をつむった。

『あんな激しい乗り物は初めてよ! あの女御者、いい腕してたわ」

 グランが苦笑して、大きく深呼吸すると表情を引き締めた。


『仲間の犠牲を絶対に無駄にしない!! 弔い合戦はこれからだ!!』

 グランは声を張り上げた。 

『我が隊は、これより鉄の車と合流し、闇の森への鉄騎軍の侵入を阻止する!!』

 そして一つ息を吐くとふっと力を抜いた。

『だが、まずは休もう…… 仲間の戻りを待とうか……』


 午後の太陽が西に傾きつつあった。

 


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