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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第三章 修羅場

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17話 救出

 戦場は混沌としていた。黒い荷台は合計五台。グラン隊が結界を解き、森の奥深くから突撃を開始すると護衛部隊が槍を構え、または長剣を抜いて応戦を始めた。

『ナヴィ!! どれに乗ってる』

『あの真ん中の奴!!』

 グランの馬の鞍にしがみついたナヴィが叫んだ。

 そのとき、前後の荷台の後ろの扉が開き、黒い影が飛び出してきた。

 豹猿、熊猿、鬼猿、羽猿がそれぞれの台車からグラン隊に襲いかかる。各台車の扉の奥には黒いフードを被った猿使いがおり、一斉に鈴を鳴らした。

 獣の咆哮と鉄騎軍の鬨の声が轟く。

 先頭部隊と後方部隊も異変に気づき、駆け戻りつつあった。


 グラン隊の勢いは、解き放たれた猿の群れによって止められた。

 グランの顔に焦燥の色が浮かぶ。

『第一部隊は猿に構うな!! 突撃!! 我に続け!!』

 グランは声を振り絞る。

『第一部隊を守れ!!』

 第一部隊を囲むようにそれぞれの部隊が横に展開していく。鉄騎軍と獣の群れとの揉み合いが始まった。


 そのとき、ジムニーの爆音が響き渡った。


 猿使いが慌てて鈴を鳴らす。グラン隊の反対側から飛び出したジムニーに猿たちが矛先を変える。

「邪魔よッ! どきなさいッ!!」

 未来の絶叫が響いた。ジムニーは押し寄せる猿の群れに突っ込んでいく。

『きゃあああ!!』

 ハンクが片手で口を押さえ、甲高い悲鳴を上げた。

 未来はハンドルを切り、ドリフトの遠心力で車体を振った。鋼鉄のボディが豹猿と鬼猿をまとめて薙ぎ倒す。右後輪のオーバーフェンダーが弾け飛び、ボディに大きな凹みができる。すかさずアクセルを踏み込むと今度は左に旋回しつつドリフトを極める。遠心力で羽猿を数匹弾き飛ばすと、リアガラスにヒビが入った。


 その隙にグラン隊では、複数のかぎ爪のついた縄が中央の台車に向けて投げられていた。台車に鉤爪がかかると、騎馬隊は馬首を翻し反対側へと走る。


 未来はぬかるむ泥の中でジムニーを右へ左へと切り返しながら、猿の群れを翻弄した。

 そのとき、田崎の目の前に傾いた台車が見えた。

「未来ッ! あの台車の前に!」

 田崎が叫んだと同時に、イリナの手から温かい光が膨れ上がったかと思うと、あたり一面が聖なる光に包まれた。猿はその光を浴びると、動きを止めて苦しみ始める。

 黒い台車もまた光に照らされると、まとっていた影が霧散し、ただの木製の荷台が姿を現した。


「タサキ、今だ! ミク! 車を止めて!!」

 モーイが叫ぶ。田崎は完全に停車していない車のドアを開け、シートベルトを外した。停車した瞬間に車から飛び降りると、助手席を倒して後部座席へ手を伸ばす。

『ハンク!! 出番だ!!』

 モーイが叫ぶとハンクは、はっとしたようにシートベルトを根元から引きちぎった。

 片手で鉄槌を握りしめ片手で田崎の手を掴むと、ジムニーから泥まみれの地面へと飛び降りる。

『行くわよお!!!』

 ハンクは鉄槌を振りかぶると、迫り来る鉄騎軍歩兵の一人に叩きつけた。頭が粉砕され、体ごと鉄騎軍の歩兵の集団の中に弾け飛ぶ。その怪力に怯んだ鉄騎軍に一瞬の隙が生まれた。ハンクはその中に飛び込み、鉄槌を風車のように振り回して歩兵を薙ぎ払った。文字通り兵士が次々と宙を舞う。

「すげえ……」

 田崎はあっけに取られたが、すぐに我に戻った。

 その迫力に鉄騎軍は後退し始めている。

「ハンク! こっちだ! 時間がない!! ぶち壊せ!!!」

 田崎は必死に叫んだ。台車は倒れていない。深い泥が車輪を埋めて、横転を防いでいた。田崎は台車にスコップを向ける。それに気がついたハンクは飛ぶように駆け寄ると台車に鉄槌を叩きつけた。

 衝撃音とともに板が割れ、内部に光が届く。続く第二撃で数枚の板が吹き飛んだ。


 その瞬間、電源が落ちたようにイリナの光が消えた。


 台車の中で黒づくめの影が立ち上がるのが見える。

「使い手?」

 手に持つ鈴がチリンと鳴る。

 再び獣の目に狂気が宿りはじめた。

「ハンクッ! 行くぞッ!!」

 田崎は割れ目から荷台に飛び乗った。ハンクも続く。


 田崎の目の前に鉄の枷と猿轡をされ、裸で伏せているリューシャの姿が浮かんだ。

「リューシャ……」

 その体には無数の傷と痣の跡があった。


 一瞬、時が止まる。

 お互いの目が合った。


『——タサキ……』

 声にならない言葉が漏れる。

 リューシャの目から涙が溢れた。


「このやろう!!」

 田崎は激昂のまま、スコップで黒づくめの男に殴りかかった。同時に蛇のような影がスコップに絡みつく。田崎は力を込めた。赤いプラスチックのスコップにみしみしと影の力で亀裂が入っていく。

『あの時の異界のもの…… あの鉄の車は、やはり……』

 使い手の左の赤い目が”憎悪”の光りをたたえた。

 二匹目の黒い蛇が田崎に向かって頭を持ち上げる。

『お前も! 依代になるがよい……』

 田崎は咄嗟に腰に差した短剣を左手で抜くと、二匹目の黒い蛇に突き出す。短剣にも蛇が巻き付いていく。じりじりと田崎は、蛇の勢いに押されていく。スコップに大きなヒビが入り、田崎の顔に脂汗が浮かんだ。

『盲目の僧侶の”憎悪”を感じる……』

 使い手がつぶやいた。その左手の甲に黒光りする紋様が浮かぶ。

『この”憎悪”の紋様がッ! 我を狂わす……』

 そしてその紋様からあふれるように影が湧き立った。盲いた目と赤い目を同時に見開き、口角が不気味に上がっていく。

 複数の蛇が田崎に鎌首をもたげた。


 そのとき、聞き覚えのある歌うような詠唱が響いた。

 それと同時にスコップに絡みつく影の力が弱く薄くなっていく。


「リューシャにッ! 何をしたーッ!!」

 田崎は吠えた。弱まった蛇の影をスコップで振り払うと、一歩踏み込んで黒づくめの男をスコップで突き飛ばす。スコップがベキっと音を立てて砕け散った。

「オムカ……」

 振り向くとオムカが立ち上がって詠唱していた。猿轡と手足の枷が足元に転がっている。田崎はスコップを使い手に投げつけると短剣を鞘に戻し、リューシャの方に振り向いた。


『ちょっと我慢してなさいね、いくわよ』

 その間ハンクは、リューシャの鎖を引きちぎり枷を鉄槌で粉砕し、猿轡を外していた。リューシャの手首と足首は皮がめくれ血が滲み、赤黒く腫れていた。ハンクがリューシャを立たせるが、ぐったりと力がない。

『穴が閉じる!』

 オムカが叫んだ。

『逃すかッ!』

 再び台車は黒い影で覆われようとしていた。振り返ると黒づくめの影が詠唱を始めている。

「逃げるぞ!!」

 田崎は叫び、傷だらけのリューシャの体を抱き上げる。その体は痩せて軽かった。ハンクが薄い影を突き抜けるようにして飛び出すと、ぽっかりと穴が開き外が見えた。オムカが田崎の肩に飛び乗る。影に台車が覆われる寸前、田崎はリューシャを抱えたままタックルするように壁の穴に突進した。

「うわあああ!!」

 割れ残った板が足にぶつかり、形作られ始めた影を突き抜ける重たい感覚が消えた。体が宙に浮く。眼下に泥にまみれた地面。とっさに体をひねりリューシャを抱きしめると背中から泥の中に落ちた。

「うぅぅ……」

 呻く田崎の目の前にリューシャの顔があった。

 その顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。リューシャは田崎の顔をなで回し、馬乗りに覆い被さる。田崎の顔も泥だらけになっていく。

『ああタサキ…… タサキ…… 会いたかった……』

「リューシャ……?」

 リューシャが涙ながらに田崎の頭に手を回す。その唇が田崎の口を求めようとした、その瞬間、


プアアアアアアアアア!!!ヴオン!!ヴオオオオ!!!


 耳をつんざくクラクションとエンジンの空ふかしの爆音が、二人の世界を切り裂いた。

 驚いた羽猿が叫び声を上げて飛び立つ。排気ガスが辺り一面立ち込めた。


 リューシャがはっと目を見開く。


 田崎が顔を上げるとリューシャの頭ごしに未来の絶対零度の視線が突き刺さった。


「圭一? 早く乗って?」

 振り返ると辺りは戦場だった。ハンクが二人を守るように鉄槌を振るっている。勢いを取り戻した猿と鉄騎軍がグラン隊に襲いかかっていた。

「リューシャ、まだ終わってない」

 田崎はリューシャを立たせると支えながらジムニーに向かう。


 そのとき、リューシャと未来の視線がかち合った。

 お互いの動きが止まる。


 真ん中の空間で見えない火花が弾け飛ぶ錯覚に囚われ、田崎は身を凍らせた。

 田崎は、はっと我に返ると、全裸のリューシャに着ていた泥だらけのジャケットを羽織らせる。

 そのまま後部座席にリューシャを押し込むと、田崎は助手席に座って振りかえった。そのままリューシャに水筒を手渡す。目が合うとリューシャは微笑んで受け取った。蓋を開けてジェスチャーで飲むように促すと、口をつけた途端リューシャの目が見開いた。そのまま小人の薬湯を飲み干すと、みるみる顔に生気が戻ってくる。


 その間、ハンクはジムニーを守るように鉄槌を振るっていた。

 ハンクはリューシャを救出次第、第一部隊に戻る手筈となっていた。


 二人が乗り込むのを見届けたハンクは手を挙げた。

『ハンク! ありがとう!』

『タサキ! カッコよかったわよ! チュッ!!』

 田崎はハンクに現地語で声をかけて拳を掲げた。ハンクは投げキッスで返す。

 その瞬間、ジムニーは猛然と走り出した。激しいGがかかり座席に押し付けられる。


――何を言ったんだ? あいつ……?

 無骨な投げキッスに鳥肌が立つ。


『イリナも…… ありがとう……』

 リューシャは田崎のジャケットを抱くように顔をうずめ、イリナに声をかけた。

 リューシャは自分の左手の甲を見た。そこには変わらず紋様が刻まれている。

『……さっき、イリナの光で、紋様が一瞬、消えかけた……あれは、何?』

 返事はない。イリナはぐったりと目を閉じていた。

 呼吸が荒い。リーが寄り添っている。

『ルー……?』

 リーが違うと言うように「わん!」と吠えた。リューシャが乗ってきて窮屈そうだった。


「ずいぶん、お熱いことですこと」

「……未来」

「……」


 エンジン音だけが響く。

 ジムニーはもと来た坂道を爆音を上げて駆け上っていく。


『すごい嫌な空気なんだけど……』

 ダッシュボードの上でオムカがモーイに声をかけた。

『ずっと、こんなだよ』

 モーイがため息をつく。

「モーイ?」

 未来の声は棘だらけだった。

「ぼやぼやしてないで! ナビしなさい!!」

 一語一語、区切るように声に出す。


 オムカが怯えるような視線を田崎に向け、モーイは背中を伸ばし杖を指し示した。


 ジムニーは戦場を後に一目散に逃げ出していった。



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