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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第二章 虜囚

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13話 疾駆

 薄暗い洞窟の中を、爆音を響かせながら二つの小さな人影が手を繋いで走っていた。

『アオ! 光の魔法!』

 けたたましい防犯ブザーの音でケイの声は届かない。

 ケイは小刀の切っ先で碧が手に持つLEDライトを指し示した。それに気づくと碧はライトのスイッチを入れる。白い閃光が闇の中で輝き、洞窟の壁を照らし出す。

 その瞬間、洞窟の奥で悲鳴が上がった。

『ギャギャッ!!』

 黒い不気味な猿が光の中に映し出される。目を閉じ、反射的に手で顔を覆った。駆け抜けざまにケイは、小刀でその体を切り付ける。倒れた猿を横目に二人は駆け抜ける。

「きゃッ!」

 碧の足が小さな段差につまずいた。気づいたケイが力強く引っ張り碧の体を受け止める。

『ケイ兄ちゃん、好き』

――まだ勘違いしてる……

 ケイは苦笑して立ち止まると、空気の流れに感覚を研ぎ澄ませた。

「ブザー止まんないよ!!」

 碧は冬休みに入る前に、未来が新しく防犯ブザーを新調したことを思い出した。


――これ新品だった……いつまで鳴ってるんだろう? これじゃすぐバレちゃう。 


 ケイは碧の手を引き、再び走り出す。

 洞窟の分岐をいくつか、空気の流れに従って二人は走り抜けた。

 そのとき、前方に黒い人影が複数現れた。さらに狗猿の群れが闇に浮かぶ。

『ええい! 異界の怪しげな術か! 鈴が使えん!』

『詠唱もかき消される!』

 碧はその人影にライトを向けた。強烈な光を受け悲鳴を上げる黒い影たち。唸り声を上げる狗猿も光を浴びるとたまらず飛び退いた。

『アオ! 突っ切る!』

 急に強い力で碧は引っ張られた。ふらつく碧だったが、踏ん張ると足に力をこめた。ライトを持つ手を大きく振る。


――サッカークラブじゃフォワードだもん! 男子にだって負けないんだから!


 ケイの速さに合わせて、ステップを整えると速度を上げた。ケイが驚いた顔をしてさらに足を速める。『負けない!』

 ケイは小刀を振り回しながら敵集団の真ん中に突っ込んだ。碧は自分より小さいその体を見て、さらに勇気を振り絞る。飛びかかってくる狗猿にライトを向けた。けたたましいブザー音が近づくと、聴覚の鋭い狗猿がさらに怯む。

 ケイの前にいた影がケイの小刀で切りつけられると、前方の視界が開けた。

 そのまま二人は駆け抜ける。気づけば二人並んで走っていた。

 その通路を曲がると前方に光が見えた。


 二人は洞窟を抜け出した。




  * 




 ジムニーは午前中の太陽の下、枯れた草原を飛ぶように走っていた。ハンドルを握っているのは未来で、田崎が運転席のドアに手をかけたときに、当然のように押し除けて運転席に居座った。

 昨晩は久しぶりに情熱的な夜だったが、朝になってなぜか機嫌が良くない未来を刺激しないように田崎は静かに助手席に腰を下ろした。

「碧、待ってなさいね……」

 未来はつぶやく。モーイの杖が指す方向は道なき道だった。最短距離を行くよう、未来が指示していたからだった。

「この先で騎士団……? が、わたしたちを待っているのね」

「向かう方向は同じだからね」

「そこに碧とケイは本当にいるの?」

「それは、分からないよ。ただ祭壇を復活するためには碧とケイのカケラの紋様が必要でしょ? どこかで必ず合流する」

「いなかったら?」

「どこかで待ち合わせでもしてるかもしれないけど、その場所は分からない」

 そのとき、イリナが口を開いた。碧とケイの名前に反応したようだった。

「目的は私たちと同じ……祭壇の復活。でも掲げる目標は正反対……」

 未来に睨まれて慌ててモーイが通訳した。

「この先でグラン様と共闘して、一つでもカケラを奪い返すことができれば、碧とケイの命は取られることはない『銀の刃さんも』」

「最後、何て言ったの? モーイ」

「碧とケイがいなくても、一つでもカケラを取り返せれば、あちらの祭壇の復活は阻止できるってさ、つまり碧とケイは殺されない」

 ごまかすモーイだったが、リューシャという名前が出るたびに車内が凍りつくのを乗員は敏感に感じていた。

「奥さん、怖いね」

「いたっ!」

 ボソッと田崎につぶやくモーイだったが、未来にハタキで叩かれた。

「あなたはしっかり杖を指しておきなさい!」

 ジムニーはさらに激しく砂煙をあげ荒野を走り去っていく。


 その進行方向、北東の鉄騎国との境の山岳地帯で一本の赤い狼煙が上がる。


『斥候が敵本隊を発見したようです!』

 副官が部隊長グランに報告を入れる。

『みりゃあ分かるわな』

 馬上でグランは前方にそびえる山脈を望んだ。ホーガイからの報告よりさらに北寄りの進路を取っているようだった。頭の中に叩きこんである地図と照合する。


――やっこさんたちは、北周りで闇の森に侵入するってか……

 

 続いて黄色い狼煙が三本上がる。

『て、敵本隊は三千のようです!!』

『まずい…… 聖都…… 本隊は向こうだったか……』

 ホーガイの報告書は騎士団幹部で共有されていた。敵主力が闇の森であれば、グラン隊が足止めをしつつ、カケラの奪取に向かう予定だった。

『聖都が危ない……』

『グラン隊長、いかがいたしますか? ご指示を!』

 グラン隊本隊は騎馬五百、他に斥候、輜重部隊合わせて五十騎あり、同様に騎馬編成だった。グランは長期間の任務に耐えるため、工夫を凝らした部隊運用をしていた。


『どうしたものか……』

 グラン隊の本分は突撃にある。一番槍を突き刺し、傷口を抉り、一気に急所をつくことでこの十年、幾多の功績を上げてきた。獣や鉄騎軍との戦いの中でグラン隊は勇猛の名をほしいままにしてきていた。

 そしてグラン隊にはもう一つの呼び名があった。——それは、糞尿騎士団。


 頭の中の地図が、ある一点を指し示していた。


『今回の任務は、敵の殲滅、撃退ではない。カケラを一つでも奪い、敵を足止めするだけだ』


――使い手はどこにいるか……


『ナヴィ、使い手の場所は分かるか?』

 グランは鞍の先端にしがみついている小人に声をかけた。

『本隊にいるね、もう少し近づけば特定できるけど……』

『オムカからの連絡もまだないか?』

 ナヴィは首を振る。

『タサキのところの小人は?』

『こっちに向かってる。さすが伝説の鉄の車だね。夕方には合流できそうだよ』

 その言葉を聞くと、グランの頬がほころんだ。グランの胸にあの冒険の日々が去来した。

 そして副官を呼び寄せ耳打ちをすると、副官は一部隊を率いて本隊から離れていく。


『少し、嫌がらせしてやるか……』


――タサキ、ちょうど良いタイミングに来たな。少し、あの鉄の車を使わせてもらおうか……


 グランはニヤリと笑うと手綱を捌き、全軍の進路を北寄りに変えた。

 

 

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