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軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜  作者: タキ マサト
第二章 虜囚

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9話 王都

 強風が、乾いた砂を渦のように巻き上げた。体全体を覆ったマントの裾が激しくはためく。厚い雲が陽光を閉ざし、視界が砂煙に霞む中、山岳地帯を抜けると枯れた森が眼下に広がった。


「……ここも違う」

 足元でぱきりと枝が折れた。

 一陣の風がフードを払い、突き出た耳が銀髪の間から覗く。

 砂と埃にまみれた顔には疲労の色が濃い。

 一つため息をつき、砂嵐に目を細めてリューシャは相棒に声をかけた。

「オムカ、行こう」

 オムカと呼ばれた小人はフードの中から顔を出した。

「こんな森じゃあ、隠れる場所はなさそうだねえ……」

 オムカはぼやきながら空を見上げた。


「まったく、タサキの鉄の車があればなあ」

 その名に、リューシャの険しい表情が一瞬だけ和らぐ。

「次はどっち?」

 だが、すぐに引き締め直し、問いかけた。


「やっぱり、王都に行かないとね」

 王都か、とリューシャの目が曇る。

 聖戒国の隣国、血生臭い噂が絶えない鉄騎国。

 近ごろは、国境の警備も厳しくなった。


「あれは、やはり王都にある?」

 リューシャはオムカに呟くように問いかけた。

「多分、何個かはあると思うよ」

 オムカの杖が王都の方角、東を向いた。


 十二年前――

 あの盲目の僧侶が暴走して祭壇が壊れた夜から世界は狂い出した。

 森は枯れ、獣が狂い、森の恩恵を失った諸国は互いを奪い合った。

 小人の里もまた影の力に結界を破られ、獣の襲撃が続いた。


 リューシャは幼い息子ケイを育てながら里を守って戦い続けた。

 そのケイは母の背中を見て、いつしか立派な戦士に成長していた。


 そんな中、リューシャとオムカはチョーローに呼ばれた。


 隣国に不穏な影あり。

 月の民の急進派が、隣国の森に潜伏し王室と交渉を重ねている様子。

 行方不明だった祭壇の”カケラ”が集まっている模様。


 半年前、ホーガイ調査団からの調査結果が届いていた。

 そのカケラの調査を依頼されたのだ。

 

「ケイはさ、もう立派な戦士だよ! イリナもいるし里は大丈夫!」

 オムカはいつでも明るかった。

「それは問題ない」

 リューシャは、ケイに剣と弓を幼い頃より仕込んでいた。

 戦い以外に教えられる事がなかったからだ。


 十一歳にして剣技も弓も、母リューシャに匹敵する腕前になっていた。

 子育ては、小人たちが本当に良く助けてくれた。

 イリナも姉のように面倒を見てくれた。


「イリナの力はすごいんだ!」

 興奮してオムカは叫ぶ。

 イリナは僧籍にこそ入っていなかったが、チョーロー直伝の光の術は闇を立ちどころに一掃できる力を持っていた。


「あの時の闇の呪いが、光の力を高めた……」

 イリナを襲った呪い。封印の箱。ホーガイ。そして小人の里。


 リューシャは十二年前のあの冒険を思い出す。

 あの不思議な鉄の車、そして、タサキ。


 タサキのことは、片時も忘れたことはなかった。


「会いたい……」

 影を通して向こうに行くことを何度も夢見た。

 そして向こうから来てくれることも期待した。

 

 しかし子育てと激動の変化は、それを実現させる余裕など無かった。

 小人も影の対応に追われ「あっちに遊びに行く」ことも出来なくなった。


――祭壇が復旧しさえすれば、そして影の力を使うことがもし許されるのなら……

 タサキに会いに行ける……


 それは世界の均衡を元に戻すことにつながるが、それよりも……


――平和な世になったら……私は……


 数日後、枯れた森を抜けた。

 その先は街道に行き当たる。

 王都は、もうすぐだった。


「ここからは、人が増えてくる」


――この目立つ大きな体……


「どうする?」

 リューシャはオムカに問いかける。


「まかせなっせ!」

 オムカは、にんまり笑って胸を叩いた。


 

――まずはケイのためにも、カケラを取り戻し、闇の流れを元に戻す……


 リューシャは目を細めながら、決意を新たに王都の方向を向いた。

 



  *




 潮の匂いが風に乗って運ばれてくる。海を臨む入り江と、三方を山岳地帯に面した自然の要塞のような地形に王都はあった。帆船が行き交う交通の要衝。

 武力はその豊かさに裏打ちされていた。


 王都の収穫祭は三日三晩、喧騒に包まれていた。

 年末にほど近い建国祭も兼ねた大きな祭りだった。


 王都の目抜き通りの昼下がり、露店が並び人でごった返している。

 肉や魚、パンの焼ける匂いが鼻腔をくすぐる。物売りの呼び声があちらこちらで響いていた。

 

「ちょっと、オムカ? これでバレないの?」

 不安そうにささやくリューシャ。大きな黒い布のせいで身動きが制限されている。骸骨のお面のようなものを被らされ視界が狭い。


――こんな仮装でも、自分の背の高さは隠せない。


「今は、フェスティバルの時期だからね! ……問題ない」

 オムカはリューシャの真似をしてキリッと答える。


 だが、リューシャの心臓は激しく鼓動を打っていた。


 カケラを取り戻し、ここから逃げなければならない。


――もし失敗したら……月の民の影に見つかったら……

 

 それぞれ思い思いの仮装をして、街を練り歩く。その中でもリューシャの仮装は群を抜いて大きかった。街ゆく人々は、自分の倍の高さはあろうかという巨大な仮装を見上げる。

「いやあ、たいしたものだ!」

「武神、オーバーロードか!」

「我が国の偉大さを象徴しているかのようだ!」

 連日の勝利に沸く鉄騎国は、大陸で一番の豊かさを誇っていた。


 収穫祭に合わせて郊外の洞窟に身を隠し、オムカがどこからか仕入れてきた布をかぶり、夜闇にまぎれ城壁を乗り越えて王都に潜入したのだった。

 オムカの的確な指示とリューシャの身体能力がそれを可能にしていた。


「王子の軍の詰め所……」

 王宮にほど近い石造りの立派な建物の前を通り過ぎる。

「……あそこね。……カケラがあるのは」

「今夜、忍び込むけど……大きすぎて持てないから……下で待っててほしいんだけど……」

「しっ! 衛兵がくる」

 衛兵が二人近寄る。リューシャの鼓動が大きくなる。

「ここはパレードから外れてるぞ! あっち行った行った!」

「それにしても、でかすぎる仮装だな……不気味でもある」

 衛兵は顔を見合わせ、眉を寄せた。

「前が見えなくて、すみませんね、騎士様……」

 オムカが高い子どもの声を出して、おどけた調子で答える。

「子どもたちか……、しょうがないな、早く戻れ! 戻れ!」

「ごめんなさーい」

 ふらふらと道を戻るリューシャ。



  *



 日が暮れても、篝火を焚いた街は賑やかだった。

 王子軍の詰め所は、街の煉瓦造りの建物からは離れている。

 詰所の前の広場には、多くの兵士が集結してきていた。


――昼間とは違う……


 路地に身を潜め、布の間から目だけを出して広場を窺う。

「やっぱりカケラの強い反応があるのは、あの建物だね」

「下で待ってろって言われてもあの兵士の数……どうする?」 

「ちょっと、ここで待ってて。中に入って探してくる」

 そう言ってオムカが駆け出していったきり、何時間も音沙汰がない。

 

――捕まった? いやオムカに限ってそれはない。

 不安と苛立ちが募る。


 その少し前――


 オムカは一際立派な扉を持つ部屋を臨む廊下の窓際のカーテンに身を潜めていた。

 先程から偉そうな騎士たちがひっきりなしに出入りしている。


――あそこが怪しいけど、なんとかして忍び込めないものか……


 出てきた騎士たちの密やかな話に聞き耳を立てていた。

「王子も困ったものだ……あのような異形なものの話を真に受けるとは……」

「だが、真実であれば我が軍は唯一無二の軍となろう」

 騎士たちは、まさか聞き耳を立てるものがいるなどとは思わない。

 しかし、いっそう声をひそめる。

「そのために聖戒国に奇襲をかけるとな……」

「奇襲は陽動に過ぎない……本当の目的は別にある……闇の森の……」

 王子軍の詰め所の最も奥まった区画。


――鉄騎国が奇襲をかける? 本当の目的?


 オムカの顔に緊張が走った。


――ただでさえ法王ちゃん……もうヨボヨボしてて忙しいし……鉄騎国に攻められでもしたら大変だ……


「王子がまた地下室の奴らのところにいくらしい……」

「あの薄気味悪い奴らか……」


――地下の薄気味悪い奴ら? 月の民か?


「地下か……」

 オムカはそっとカーテンを抜け出すと夜陰に紛れて地下に向かった。

 

チリン……


 その時、オムカの足元から、かすかな鈴の音が響いた。オムカはハッと顔を上げた。

「使い手……?」


――まさか、もう見つかった? でも、行くしかない……


 オムカは気配を断ち、騎士たちの後ろをつけていく。


 地下の闇の中へ、オムカは身を投じた。



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