第3話 ダンジョンと幼馴染
エルデン王国の王都を、場所で西へと。
三十分ほど移動すると、高く聳えた白い塔が見えた。雲を突き抜けるほど高く、面積も恐ろしく広い。
あれを、三年で攻略しろってか?
いや、俺の場合は二年しかないか。
一年前にダンジョンに入ったクラスメイト達がいるようだが、果たしてどれくらい進めたのだろうか。
馬車は入り口の方へと向かっていたが、近づくにつれてテントやら建物が見えた。
同行していた護衛の騎士に開いてみると。
「入り口の近くは、まるで小さな町のようになっています。冒険者たちがテントを張り、酒場や鍛治屋、道具屋が並んでいます。ダンジョンから持ち帰った素材をその場で売る商人や、魔物を狩って生計を立てる者も多いです。国民の中にも、ダンジョンで一攫千金を夢見て参加する者もいますよ」
「へぇ、ダンジョンって儲かるんですね」
「ええ、なんせダンジョンでしか生息しない珍しい魔物がいるからです。鉱石も植物も外では手に入らない。だから、それを求めてダンジョン入りする冒険者が多いのです」
つまりダンジョンの出入り口は、冒険者たちの拠点になっているということか。
それは便利だ。
わざわざ町に戻ったりせず、ここで物資を補給できるから有難い。
「しかし、中にはヒイラギ様たちと同じようこの国を救おうと、ダンジョンの完全攻略を目指そうという者たちもいます。だから、これだけは覚えてください。貴方たちは決して孤独ではない。助けが必要なら、この世界の住人である我々にいつだって頼ってください」
騎士はにこりと笑って、言った。
それは心強い。
やっぱりいいな、この世界の人たちは。
ますます好きになってきた。
「おっと、到着しましたよ。では、ヒイラギ様。ご武運を」
大勢の冒険者が行き来している入り口前に下され、送ってくれた馬車の御者と騎士と別れる。
ここから一人での行動になる。
まず荷物のチェックをしよう。
武器は剣と、小さな短剣。
一週間分以上の食料と、水。
金調理器具(俺の要望)、方位磁針、火を起こす魔道具、王城で一番詳細に書かれていた生物図鑑。
おかげでリュックはかなり重いが、生きるためなので仕方ない。
さて、出発するとしようか。
初めてのダンジョンなのであまり深いところまで行かず、入り口前を拠点にしながら少しずつ進んでいこう。
そう思ってダンジョンに入ろうとしたが、入ってすぐのところの螺旋階段から降りてくる三人組に見覚えがあり、俺はそそくさに近くの壁の後ろに隠れた。
(あ、あいつらは……)
クラスメイトの連中だった。
しかも、中学生の頃によく遊んでいた幼馴染の西条もいる。
一年間眠っていたからなのか、彼女たちが少しだけ大人びて見えた。
西条は全身に鎧を着ており、見た目は完全な女騎士だ。
「あー、疲れた。五日ぶりの外の空気〜」
「そうだね、はやく王都に帰ってお風呂が浴びたいわ」
西条の友達の二人の女子たち。
悪いが名前まで覚えていない。
こんなすぐ遭遇してしまうとは運が悪い。
できるならクラスメイトたちと会わずに、充実したダンジョン生活を満喫したい。
そう思っていたが。
「それで、西条さんはどうすんの?」
「私? ああ、私は……柊のところに行こうかな」
西条の口から、俺の名前が出た。
気になって聞き耳を立ててしまう。
「ええ、西条さんも飽きないわね。成瀬くん、眠ってからもう一年が経つんだよ? 私らが頑張ってるのにアイツだけサボって、ウザくない?」
友達Aが嫌味を言ってくる。
こっちは好きで寝ていたわけじゃないんだが。
「もう起きなかったりしてね〜」
友達Bが不謹慎なことを言う。
それを聞いた西条の声が、ちょっぴり険しくなる。
「そ、それでも私は信じるからっ。柊は絶対に目を覚ましてくれるって。そしたら、私が色々と教えて……二人でこのダンジョンを完全攻略して……その……昔みたいに仲良くなって」
「ははーん、なるほど、そういうことね」
「西条さんも隅に置けないね〜」
「もうっ、からかわないでよ!」
なんだが楽しそうに話している女子たち。
俺は意味が分からなかった。
高校で一度も話しかけてこなかった西条が俺と仲良くなりたい?
今更そんなこと言われても……。
「あ、そういえば武井のパーティがさ」
女子Aが話題を変える。
俺をいじめてカツアゲした武井についてだ。
俺を見下してくるあの忌々しい表情が鮮明に蘇ってくる。
思い出したくもないクソ野郎だ。
「ダンジョン内で活動していた冒険者パーティを惨殺したって、大騒ぎになっているよ……?」
(……は?)
俺は衝撃を受けた。
武井が、冒険者を殺しただと……。