第2話 一年遅れのスタート
「ステータスオープン」
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HP:2000 MP:300
攻撃力:10 防御力:10
スキル:探究心、解析
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どうやら、この世界はステータスが見えるらしい。
ただのファンタジー世界ではなくゲーム形式とは、さらに滾ってきた。
植物状態から目覚めて一週間。
この国を滅ぼすかもしれないダンジョンを攻略するために召喚された英雄という扱い、中々悪くない。
寝床、食事三食(粥)、身の回りの世話をしてくれる美人メイド。
セレブ気分だ。
『とにかく、君は今、こうして目覚めてくれた。それだけで希望の光だ。私達は君たちを無理やり戦わせるつもりはない。まずは体を休め、この世界に慣れることから始めてくれ。この城で、好きなだけ過ごして構わん』
アルフレッド王は優しい。
なんていうか、国の未来がかかっているのに俺達への扱いがゆるい。
ダンジョンに潜らずに城で贅沢している奴や、城下町に住んでいる奴もいるらしい。
もっと、こう、強制的にやらされるかと思っていた。
だけど俺を見る国王の目は、まるで我が子を見守るように温かい。
いつぶりだろうか、優しい目を向けられるようになったのは。
城の人たちもいい人ばかりだ。
だから、俺は彼らのために戦いたい。
メイドさんにこの世界に関する本を持ってきてほしいと頼んで、歴史や生息している生物、過去の偉人や、魔法に関する情報を一晩中頭に叩き込んだ。
一週間が経ち。
回復した俺の部屋に、アルフレッド王が顔を出した。
美味しそうなお菓子も一緒に。
本当、我が子のような扱いだ。
「それでヒイラギよ。君の考えを聞こう。君は王城に残るか、それともダンジョンに―――」
「ええ、行かせてください」
「ダンジョン内は未だに未知の領域、危険な魔物が大量に生息している」
「へぇ、いいですね。ぜひ色んな魔物を見てみたいですね」
「……」
「どうかしました?」
アルフレッド王は、口を半開きにしていた。
まるで予想していた返答ではなかったかのように。
「ヒイラギよ、もっとこう……躊躇うものだろう? 命の保証もできんのだぞ?」
「それがダンジョンの醍醐味では?」
「は?」
「え?」
一刻も早くダンジョンに行きたいのは本心だけど。
何をそんなに驚いているのか。
「君の同期生たちの大半はダンジョンに入ることを拒んだ。入った者たちでさえ、二ヶ月以上の葛藤をして、それでようやく決心がついてダンジョンに入ってくれたというのに……」
「大丈夫ですよ。異世界に来たばかりでいきなりダンジョンに入れと言われれば、誰だって混乱するでしょう。でも、俺だって危険だってくらい理解しています。でも、俺は子どもの頃から……」
西洋ファンタジーといえばダンジョン。
ダンジョンといえば魔物。
魔物といえばスライム、オーク、ゴブリン、ドラゴン、コボルト、スケルトンetc.
「この瞬間を夢見ていました!」
とにかく俺はダンジョンに入りたい!
早く俺をダンジョンに連れて行って!!!
あれ、なんかアルフレッド王が引いていた。
メイドさんも口に手を当てている。
本音を言っただけなのに。
授業中でもファンタジー関連の本を正々堂々読んでしまうぐらいのオタクだってことは自覚している。
でも、それって誰だって一度くらい経験あることだよね?
そして、入念な準備を整えてから3日後。
正式にダンジョンに入ることを国王に許可され、入口までの馬車を用意してくれた。
「それでは成瀬よ、一旦のお別れになるな。いいのか、同期生たちと挨拶をせんでも?」
国王やメイドさん、騎士たちが見送りにきてくれた。
確かに、この一週間は一度もクラスメイトたちとは会っていないな。
会いに行く機会は何度もあったが、俺はあえてしなかったのだ。
「いいですよ、別に彼らと仲良かったわけではなかったし。それに、一部がダンジョンを攻略中なんですよね?」
「ああ、そうじゃ。”カネイ”という者が皆を統率して、勇猛果敢に戦ってくれている。あの者は聡明で、賢い。英雄の器だ」
金井、か。
騙されているなアルフレッド王は。
あいつは俺の知る人間の中で、一番どす黒い。
ま、どうせダンジョンで会う気はないし、どうでもいいか。
「それでは、一週間お世話になりました。一年遅れのスタートになりますが、必ずこの国のためにダンジョンを完全攻略してみせます(楽しみたい)」
そう宣言するとアルフレッド王とメイドさんが泣きそうな顔をしている。
やはり、この国の人たちは優しいな。
「ヒイラギ様、どうかご無事に帰ってきてください。アリアは、いつでも待っております」
ドレスを着た可愛らしい女の子が、手をぎゅっと握ってきた。
国王の娘、お姫様のアリアだ。
この一週間、時間が空くたびに彼女の話し相手になっていたな。
それで仲良くなって、彼女は男女の距離とは思えないほどスキンシップをとってくる。
アルフレッド王が微笑ましそうに眺めてくる。
「はい、必ず。また二人でお茶しましょうね」
「……はい! 絶対ですよ?」
城の人たちに感謝、別れを告げ終えた俺は馬車に乗った。
さて、ダンジョンとやらを堪能させてもらいますか!
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成瀬の出発を見届けたアルフレッド王は城の中に戻る前に、側にいた宮廷魔術師にあることを聞いた。
「そういえば、魔術師グレイドよ。彼のスキル”探究心””解析”らしいのだが、私は今まで耳にしたことがない。お主はどうだ?」
「申し訳ございません陛下。私も存じ上げない能力です……」
アルフレッド王は驚いた。
宮廷魔術師グレイドは、世界でも指折りの最強魔術師。
彼の魔術に対する知識は膨大だ。
成瀬のクラスメイト19人のスキルを全て把握し、その効果でさえ知っていた。
それなのに成瀬のスキルだけ知らないとは。
一年間の植物状態、謎のスキル。
これは果たして偶然なのだろうか?
「もしや、彼こそ……この国を救う英雄に?」