6 前世
私は夢をみた。
「お姉様、助けてあげられなくてごめんなさい。死なないでよ、お姉様!」
ベアトリスは鉄格子の前で泣き崩れる。
『ベアトリス、そんな顔をしないで。私は大丈夫———』
その言葉が、どうしてこんなに空虚に響くのだろうか。
その答えはすぐわかった。
———ベアトリスは顔を上げた。
泣いているはずのその顔には、笑みが浮かんでいたのだ。
その笑顔は、まるで狂気のようで、ただの嘲笑のようでもあった。
『ふふ。あははっ!本当にお馬鹿さんね。私がそんなこと言うと思った?』
その声が、冷たく響く。
目の前で起きていることが信じられない。
『裏切られた気分はどう? やっと明日死刑ね、おねえさま。ふふふ。もう公爵令嬢じゃないのね。おめでとう!あら? 可哀想、というべきかしら? まあ、どちらにせよさようなら。お可哀想な操り人形さん』
ベアトリスの笑い声は、どこか痛みを伴っていた。
それは、長い間心の奥に秘めていた怒りと憎しみが、ようやく表に出た瞬間だった。
私が信じていた愛情が、こんなにも簡単に裏切られたことが、もはや私の魂を焼くかのように痛みを感じさせる。
『嘘……嘘よ、ベアトリス。本当に、本当に全てあなたの仕業? 私たちが処刑されるのも?』
その問いが、空気を切り裂く。
信じられなかった。
信じたくなかった。
仲良しの従姉妹として過ごした日々が、今や壊れたガラスのように音を立てて崩れ去る。
『あははっ!せいかーいっ! うーん、でも厳密に言うとお父様と私のせいかしら?』
ベアトリスは、さらに嘲笑を深めた。
『私は、貴女の絶望に満ちた顔が見たかっただけよ。貴女のせいよ。貴女のせいで、貴女の家族は死ぬと思いなさい!』
その言葉が、ナイフのように鋭く、そして深く刺さった。
絶望が、目の前で現実のものとなり、心の中で何かが崩れ去った音がした。
———希望が。
私は呆然とした。自分が知っているベアトリスじゃない。
お姉様、お姉様と慕ってくれていた、あのベアトリスじゃない。
『私の、せい?』
『そう。全部ねえ、私の方がふさわしいの。私は地味な“お姉様”とは違う。私の方がふさわしい。地位も、力も。今まで全てが私の思い通りになった。でも貴女はずっと幸せそうだった。ほんっと気に食わないわ。だから全てを奪う。あなたの大切な家族をね』
私はベアトリスを睨みつける。
『その目が嫌いなのよ。自分が正しいみたいな。
……あっ!それと、可哀想だから最期にいいことを教えてあげる。ほんとは——』
ベアトリス・アイダン。
私の従姉妹。
この記憶は…過去、いえ未来に起こることだわ!
目が覚めた。
そして、すべて思い出した。
ここはウェンナイト公爵家の私の部屋。
そして、わたしは今8歳。
あの悲劇が始まる7年前。
前世の私はどこにでもいるような普通の令嬢だった。
でも私は“普通”ではいけなかった。
私は公爵令嬢だから。
“完璧”でなくてはいけなかった。
そうしないと、簡単に奪われてしまうから。
そう気づいた時には、もう隙だらけだった。
15歳の春、お父様は爆弾人間が民のところに行くのを見つける。
爆弾人間とは、体内にある臓器が爆弾になるという恐ろしいものだ。
爆発まで時間がなく、民を守るため爆弾人間を殺してしまった。
民を守るためにした行動が、民の目にはなんの非もない民を殺したように映る。
民は当然、お父様を罵るだろう。
それが悲劇の始まりで、私たち家族は貴族の好きな“噂”の中心になった。
そして、彼らの操り人形になった。
『ウェンナイト公爵家のお嬢様は、あの伝説の闇魔法が使えるそうね』
『闇魔法は伝説よ?でもあの人ならやりそう。ああ怖い』
『聖女様の魔力を奪ったそうよ』
全ての終わりは16歳の冬。
私達家族と、家門に最後まで仕えた人が処刑された。
理由はすぐにわかった。
親戚であるアイダン侯爵とその娘、ベアトリスの策略だった。
私がするべきことは一つ。
それは今世ではちゃんと、守れなかった家族を守ること!
絶対に。
そして、復讐する。
私たち家族をめちゃくちゃにしたベアトリスを。
私は常に“完璧”であり続け、“公爵令嬢”にふさわしい人にならないと!
最初は、爆弾人間のことを調べないといけない。爆弾人間とは闇魔法が使われている。
人間の中に爆弾を仕掛け、時間になると発動するという恐ろしい魔法だ。
お父様を助け、事の発端である爆弾人間の爆弾解除法を探さないと!
それと、ベアトリスは最後なんて言ったんだっけ…?
いいえ、こうしてはいられないわ。
私は部屋を出て、図書室へ行った。入るとすぐ明かりがつく。
私は若干驚きながら、図書室を見渡す。
先代公爵令嬢が人が入ると明かりがつく“セーラスライト”彼女独自の生活魔法をかけたらしい。
彼女の名前は——。
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