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ショート×ショート マナー薬

作者: NATA

 今日は友達と一緒にお茶メーカーに面接をする。

 僕は緊張していたが、心配ない。僕にはマナー薬がある。これは緊張して就活やプロポーズなどが出来ない人のために作られた薬だ。ドラックストアなどどこでも売っている。しかも安価で副作用がない。

 このマナー薬は身体が勝手に行儀よく動いてくれる。例えばドアは3回ノックする。着席は促されるまで座らない。当たり前の就活マナーだが、僕は緊張して真っ白になる。

 しかし、この薬があれば真っ白にならず、身体が勝手にやってくれる。

 友達はニコニコしながら、

「いや、今日の面接楽しみだな。お前も第一志望だろ」

「ああそうだな」

 と答える。友達は清潔感はあるものの、僕と同じように就活マナーが出来ていない。元気が取り柄で挨拶は出来るが、頭が悪く、ノックの回数や椅子に座るタイミングを守れたことがない大雑把な人間だ。残り一枠が僕がもらうだろう。

 僕達は面接会場に入る。そこは4人程度が入れる会議室で一人の面接官がいた。僕と友達は通された。

「では面接を始めますね。どうぞ当社のお茶とお菓子を頂いてください」

 これは罠だな。出されたお茶は手を出してはいけない。ある程度話して一口飲む程度がマナーだ。

 そう思っていたら友達が。

「いいんですか? 頂きます!」と言って一気にお茶を飲んだ。ぷはーと声を出して。

「いや、ここの会社のお茶は渋くて美味しいですね。受験の時はお世話になりました」

 面接官は驚いた顔をしていた。

「君はお茶が好きなんか?」

「はい、大好きです。特に渋いお茶が好きなんで甘いものと一緒に食べると良い感じに口の中を洗い流して渋みと甘味を同時に楽しめて最高ですね」

「あっはっは、それは嬉しいね。なんならおかわりいるかい?」

「え、いいんすか? ありがとうございます!」

 と言った。友達は何をやっているんだろう。僕は一口お茶をすする。

「それじゃあ志望動機を聞こうか。まずは君から」と僕を指名した。

「はい、大手メーカーの弊社なら安定しており、ブランド力からより大規模に予想されます。その際、お茶を全世界に発信出来ると思い、サークル活動と講義から経済学を応用して当社のブランドをより高められると思います」

「なるほど、シェアを増やしたい当社にとっては実に欲しい人材ですね。では、隣の君もお願いします」

「はい、私はお茶が大好きで渋いお茶を飲みながら和菓子を食べるのが大好きです。弊社のお茶もよく飲用しており、この素晴らしいお茶を全国に広めたいです」

「なるほど、でもお茶でしたら他のメーカーもあると思いますが、当社以外でもいいんじゃないですか?」

「そうですね。基本的にお茶メーカーと和菓子メーカーを中心に受けており、そこのどこかに内定をもらえたら行きたいと思っています。日本のお茶と和菓子の素晴らしさを全世界に広げるのが私の夢です。だってこんな素晴らしいものがコーヒーや紅茶に負けるのは悔しいじゃないですか」

「なるほどありがとうございます」

 僕は内心友達が落ちたなと思った。そこは嘘でもいいから「第一志望です」と答えないといけない。会社から見たら内定出しても違うところに行かれるかも? と思って避けられるんだ。

 当然僕は「第一志望です」と答えた。

 その後、面接は滞りなく終わった。頭の中は真っ白にならず、礼儀正しく終わった。対照的に友達は面接でお茶のおかわりやあげくに和菓子まで全部食べる始末だった。

 友達は「面接楽しかったな。あんな感じのばっかりだったらいいのにな」

「そうだな。お前マナー悪かったぞ。もう少し気を付けろ。あれだけおかわりしたら面接官の印象最悪だろ」

「そうなのか。今度、マナー本を買おうかかな?」

「それよりマナー薬の方が手っ取り早いんじゃないか?」

「それもそうだな。今度使ってみるよ」

 受かるのは僕だろう。嘲笑いながら面接結果を待った。

 数日後、僕は落ちた。何度も不採用通知を見て現実を受け止めるのに時間がかかった。反対に友達が内定をもらった。

 僕は憎しみが募った。そして何故友達が受かったのか訳が分からなかった。どう考えても僕の方がマナーが良かっただろう。

 とても納得が出来なかった僕は怒りと同時に疑問を覚え、メールで採用担当者に不採用の理由を聞いた。すると、採用担当者からこう返ってきた。

「彼のマナーはあまり良くないなと思ったけど、それでも許せる範囲だった。それにウチの商品について愛を持って語ってくれた。あれだけ愛があればウチの商品を営業や広報などで活躍してくれると思った。君はお茶を一口しか飲んでくれなかったからあまり好きじゃないんだと思ったんだ」

 ああそうか、マナーの良さばかりに囚われていて臨機応変に動けていなかった。マナーはあくまで基本だ。薬なんか頼ってはいけない。

 僕はマナー薬を捨てた。もちろん人を不快にさせない点ではマナーは大事だろう。しかし、友達はマナーが悪かったかもしれないが不快にさせず、自然体で情熱をもって語れた。

 僕もそんな人間になろう。そうすればきっと僕の事を理解してくれる会社に出会えるだろう。

語彙力と表現力の訓練です。

感想頂けると幸いです。


お題

ゲーム×薬

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