転生して女神になった俺は、異世界に勇者を送りだす
ある日、俺はトラックにひかれて死んでしまった。
そして、転生して女神になった俺は、異世界に勇者を送りだす仕事に就いたのだ。
ーーー
「おい新人、元気ないぞー」
今、俺に話しかけてきたのは、赤髪の女神アイラだ。
彼女は女神として、何人もの勇者を異世界に送り出したらしい。
つまり、俺の先輩ということだ。
「まだ転生してから日も浅くて、理解が追いついてないんですよ」
「まあ、いずれ帰れる方法も見つかるだろう」
アイラは、あっさりとした様子で返事をした。
アイラには、数日前に俺が転生してお腹が空き、行き倒れているところを助けてもらった。
そしてアイラは、お金の無い俺を女神として雇ってくれたのだ。
なぜ、俺を雇ってくれたのか。
どうやら俺は転生した際に、平凡なサラリーマンから金髪美少女の姿へ変わっていたらしい。
つまり、顔採用ということだ。
そして、今日が初出勤日となる。
「では、女神の仕事内容を教える」
「はい!」
気合いを入れていかなければ。
「今日、お前が担当するエリアは、サードというエリアだ。このエリアに存在している世界たちは、最近まで治安が良かったが、突如現れた魔王のせいで、多くの被害が出ている。このままでは、これらの世界は滅びてしまうだろう」
「そこで、女神の出番ということですね!」
「そうだ。死んでしまい、この女神の間にやってきた勇者候補者たちを、勇者にふさわしいかどうか判断し、異世界に勇者を送りだすことで、世界を救わせるのが私たちの仕事だ」
なるほど。
死んでこの場所に来た人たちの中から、勇者の素質がある人を選び、異世界に勇者として送り出すということか。
その後も俺は、アイラから女神の仕事内容を教わった。
「これで、だいたいのことは教えられた。おや、さっそく候補者がきたようだ。やってみろ」
「早くないですか⁉」
「経験したほうが早い」
すると、部屋の中心にある白い魔法陣から、若い金髪の男が現れた。
男は突然のことに慌てふためいている。
よし、やってみるか。
『女神の仕事:1日目開始』
俺は、男の方に手を向けて呪文を唱えた。
「ステータスオープン!」
女神は、魔法を使うことで、勇者候補者たちのパラメータが見れる。
アイラの話では、それを見て勇者にふさわしいか判断すれば良いらしい。
サードというエリアにある世界を救うためには、筋力、知力のステータスが10以上あれば合格だ。
俺の目の前に文字の書かれた、パネルのようなものが現れた。
ステータス
名前:ユウ
年齢:18歳
出身:ザントニア
筋力:19
知力:10
筋力も知力も目標の10を超えているな! これなら合格だ。
しかし、ここまでは、1次審査。
次は2次審査の面接だ。
面接では、候補者と話すことで勇者にふさわしいか見極めるらしい。
では、話しかけてみるか。
俺は魔法を唱え、候補者の前に姿を現した。
「ユウさん。あなたには、世界を救う勇者になる資格があります」
「うわあ! あんた誰だよ!」
ユウは突然現れた美少女こと俺に驚いているようだ。
「俺は女神。ユウさんを勇者へと導く存在です」
「おれ?」
しまった! つい癖で俺と言ってしまった。
俺はいかにも風格がありそうに、咳ばらいをしながらユウに向かって話をした。
「こほん。私は女神。あなたは残念ながら亡くなってしまいました。しかし、再び勇者として生を受けるチャンスを得たのです」
「俺は死んだのか⁉ しかも勇者だって! わけが分からない」
ユウは混乱しているようだ。
当然だろう。俺も転生したと分かったときは混乱したもんだ。
その気持ちを分かち合いたいが、俺にも仕事がある。
俺は女神らしく優しく微笑みながら、ユウに問いかけた
「お気持ちは良く分かります。しかし、あなたには勇者になり、世界を救って欲しいのです。あなたにその覚悟がありますか?」
ユウは、俺の質問にこう答えた。
「分かりました。まあ。俺の力なら楽勝ですよ! 世界救って来ます!」
だいぶ自信がありそうだな。
少し能天気な所が引っかかるが、このユウという少年ならば、勇者として世界を救ってくれそうだ。
これは2次審査の面接も合格ということでいいだろう。
あとは魔法陣の上に乗ってもらえれば、候補者は勇者として転生される。
女神の仕事も終わりだ。
「では、ユウさん、左側にある緑色の魔法陣の上にのってください」
ユウは俺の言葉に従い、緑色の魔法陣の上に乗った。
「では、ユウさん幸運を祈ります」
俺はユウに向かってお辞儀をした。
その後、ユウの姿は魔法陣の中に消えていった。
「初仕事おめでとう!」
アイラが拍手をしながら俺の方に向かって歩いてきた。
「俺、ちゃんとできてました?」
「うん、初仕事にしてはバッチリだよ。お祝いに今日は焼肉を奢ってあげよう」
「いいんですか! いつも安いパンばっかりで飽き飽きしてたんですよ!」
俺は両手を挙げて喜びながらそう答える。
「そのパンのお金を誰が払っているのかを君は忘れたのかな?」
アイラを少し怒らせてしまったが、俺はその後アイラと一緒に焼肉を腹いっぱい食べた。
焼肉を食べた後、俺は自分の部屋に帰り眠りについた。
女神の仕事も案外簡単だな。
「おはようございます!」
次の日、俺はアイラに元気良く挨拶した。
「おはよう」
アイラの返事は素っ気ないが、いつものことだ。
俺は昨日の夜、寝る前に気になったことを聞いてみることにした。
「先輩! 1つ質問があるんですけど」
「なんだ?」
「昨日俺が勇者として送ったユウという少年が世界を救えたのか、確認する方法はあるんですか?」
俺の問いにアイラは少し困った顔をした。
「そんなことが気になるのかい?」
「ええ、とても気になります」
俺の送りだした人間が勇者として、世界を救ってくれたら俺もうれしいもんだ。
「女神のいる世界と他の世界とでは時間の流れが違う。女神の世界で1日たつ頃には、他の世界では、すでに勇者と魔王の決着がついているだろう。」
「つまり、すでにユウが魔王を倒し、世界を救えたか分かるということですね!」
アイラは俺の言葉に頷いた。
「この水晶を覗けば、好きな世界の様子を覗くことができる。」
俺はアイラが差し出した水晶をわくわくしながら覗いてみた。
「……なんだこれは」
俺の目には、炎によって焼き払われた大地と、魔物によって殺されている人々の姿が写っている。
「ユウは目標のステータスを超えてたんだぞ! なんで魔王に負けてんだよ!」
「ユウは魔王に負けてない」
「なら、なんで世界が滅んでんだよ!」
アイラは俺の目をしっかりと見ながらこう答えた
「ユウが裏切ったのさ、つまり魔王の手下になったということだ」
水晶には、ユウが人々を殺しまわっている姿が写っている。
噓だろ……
あいつが裏切ったなんて……
「どうやら魔王に、手下になったら世界の半分をやると言われたらしい。それに、まんまと食いついたわけだ。」
ユウが裏切ったから世界が滅んだ……
そのユウを勇者として送り出したのは俺だ。
それなら……
「あまり気にするな、1回の失敗くらいたいしたことはない」
たいしたことない?
「そんなわけねえだろ! 俺のせいで世界が1つ滅んだんだぞ!」
俺はアイラに向かって怒鳴った。
「この宇宙には数え切れないほど世界が存在している。いちいち気にしていたら、お前の身がもたない」
アイラは俺の肩に優しく手を置いた。
「次、頑張ればよい」
本当に、気にしなくていいのか?
確かに1つのミスを引きずっていたら仕事なんてできない。
だか、この仕事は多くの人の命が関わっているんだぞ。
俺に女神の仕事が務まるのだろうか……
「そろそろ、今日の仕事が始まるぞ。昨日に引き続き、お前が担当するエリアはサードだ。候補者に必要なステータスも昨日と同じく、筋力、知力のステータスが10以上あれば合格だ」
俺の気持ちが固まる前に、候補者が来てしまった。
とりあえずやるしかない。
『女神の仕事:2日目開始』
アイラの姿が消えた後、部屋の中心にある白い魔法陣から、青髪の少女が現れた。
俺は、少女の方に手を向けて呪文を唱えた。
「ステータスオープン!」
俺の目の前に候補者のステータスが表示される。
ステータス
名前:ミオ
年齢:11歳
出身:イザニア
筋力:5
知力:10
知力のステータスは目標に届いているが、筋力が足りていない。これは不合格だな。
アイラによると勇者に選ばれなかった者は、審判の間という場所に行くらしい。
そこで、死んだあと天国か地獄に行くのか判断されるようだ。
俺は魔法を唱え、ミオの前に姿を現した。
「ミオさん。あなたは審判の間にて、天国か地獄に行くのか定められます」
「あなたは?」
ミオは突然現れた俺の姿に怯えている。
「私はあなたを導く女神です。右側にある青色の魔法陣の上に乗ってください。そこから審判の間に行くことができます」
「女神様、私は天国に行けますか?」
俺もできることなら天国に行って欲しい。だが、
「それは、私にも分かりません。ですが幸運を祈ります」
俺はミオに向かってお辞儀をした。
その後、ミオは魔法陣の上に乗り姿を消した。
何とか仕事を終えれたと俺が一息付いた後に、白い魔法陣から黒髪の中年が現れた。
(もう1人いるのかよ!)
だが、しょうがない。
俺は渋々、男の方に手を向けて呪文を唱えた。
「ステータスオープン!」
俺の目の前に候補者のステータスが表示される。
ステータス
名前:シン
年齢:42歳
出身:トット
筋力:11
知力:14
筋力も知力も目標の10を超えている。合格だ。
次は面接をしなければならない……
俺は魔法を唱え、候補者の前に姿を現した。
「シンさん。あなたには、世界を救う勇者になる資格があります」
「うわあ!」
シンは、突然現れた俺に驚き、しりもちをついた。
「私は女神。あなたは残念ながら亡くなってしまいました。しかし、再び勇者として生を受けるチャンスを得たのです」
「私が勇者ですって! そんなこと私には無理ですよ!」
シンは思いきり首を横に振っている。
「お気持ちは良く分かります。しかし、あなたには勇者になり、世界を救って欲しいのです。」
シンは俺の言葉に頭を悩ませている。
それと同時に俺も頭を悩ませている。
(本当にこいつでいいんだろうか)
ステータスは足りているが、自信のなさに不安が残る。
だが、ユウのこともある。自信があり過ぎるのも良くないのかもしれない。
それならいっそ、不合格にして審判の間に送るか?
それなら、天国に行こうが、地獄に行こうが俺の責任ではない。
しかし、それでは、魔王に世界が滅ぼされてしまうかもしれない。
俺はどうしたらいいんだ……
すると突然シンが口を開いた。
「女神様、私には何もこれといった才能はありません。ですが、そんな私でも、誰かにとっての大切な人を守れるのなら、私は勇者になりたいです!」
シンは力強い目で俺を見つめている。
この決断はただの直感で、正しいかなんて分からない。
でも、俺はこの人を……
「あなたの覚悟が良く伝わりました。シンさん、左側にある緑色の魔法陣の上に乗ってください」
俺はシンを勇者として異世界に送り出す決断をした。
シンは俺の言葉に従い、緑色の魔法陣の上に乗った。
「では、シンさん幸運を祈ります」
俺はユウに向かってお辞儀をした。
その後、ユウの姿は魔法陣の中に消えていった。
(本当にこれで良かったのだろうか?)
なんだかどっと疲れたな。
「おつかれさま、今日の仕事は終わりだ」
アイラが俺の方に向かって歩いてくる。
「ありがとうございます」
「今日も何か食べに行くか?」
「いえ、今日はもう部屋に戻ります」
「そうか……」
アイラが俺を心配してくれていることは分かるが、楽しくご飯を食べる気にはなれない。
アイラと別れ、部屋に戻ったあと俺は眠りについた。
少し朝が来るのが怖い……
「おはようございます」
次の日俺はアイラに向かって挨拶をした。
「おはよう」
今日もアイラの返事は素っ気ない。
しかしそれよりも、
「先輩、水晶を見せてください」
「本当にいいのか?」
「はい」
水晶を見るのは怖いが、俺にはシンを送った責任がある。
俺が見なければ。
俺はアイラが差し出した水晶を覗いた。
そこには……
多くの人に囲まれ、祝福されているシンの姿が写っている。
「よっしゃああ!!」
俺は右腕を突き上げた。
「シンは無事に魔王を倒すことに成功し、可愛いお姫様と結婚することが決まったらしい」
そうか、シン、良かったな!
どうやらシンは幸せになれたらしい。
「君のおかげで1つの世界が救われた。異世界に勇者を送りだす女神の役目を果たしたのだ。おめでとう」
そう言ってアイラは俺に向かって手を差し出した。
「はい!」
俺はアイラと握手をかわした。
これからも俺の女神としての仕事は続いていくのだろう。
俺の力で、勇者を異世界に送り出し、いくつもの世界を救ってやる!
「おい新人、今日の候補者が来たぞ」
アイラの向いた方向を見ると、白い魔法陣の上に1人の男が現れている。
今日も俺の女神の仕事が始まる……
『女神の仕事:3日目開始』
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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