転5
週末が過ぎ、再びオフィスでの通常業務が始まった。バーベキューの出来事は彼らの間で語り草となり、特に坂井が焼肉への執着心で見せた奮闘ぶりは皆の笑いのネタになっていた。そんな中、新しい週が始まって間もなく、何気ない日常に変化が訪れる。
昼休み、コタローと坂井はいつものようにカフェテリアで昼食を取っていた。坂井は焼肉丼を大盛りで注文し、満足そうに箸を動かしている。
「おい、谷主。俺、バーベキューの続きみたいなもんだぜ。やっぱり肉は最高だよな!」坂井は肉を頬張りながらニヤニヤと笑っている。
「坂井、お前は本当に食いしん坊だな。そんなに肉ばかり食べてたら、体が肉でできてしまうぞ。」コタローは冗談めかして言いながら、自分のサラダをつまんでいる。
「まあ、それはそれでいいさ!俺は肉好きだからな。それにしても、お前最近何か悩んでるんじゃないか?顔がちょっと元気ないぞ。」坂井が真剣な表情でコタローを見つめる。
「そんなことないさ。ただ、最近仕事が忙しくてさ…」コタローは言葉を濁しながらも、心の中では彩花のことを考えていた。彼女との距離が縮まってきているのを感じながらも、どう接するべきか悩んでいたのだ。
「本当にそれだけか?お前、もしかして佐々木さんのことを考えてるんじゃないか?」坂井はニヤリと笑い、コタローの心を見透かしたように言った。
「えっ…な、なんでそんなこと言うんだよ!」コタローは動揺を隠そうとするが、顔が少し赤くなっている。
「ほらな、図星だろ?お前の顔が物語ってるぜ。で、どうなんだ?佐々木さんと何か進展あったのか?」坂井は興味津々でさらに問い詰める。
「いや、別に…ただ、普通に話してるだけだよ。それ以上のことなんてないさ。」コタローは必死に冷静を装おうとするが、坂井の追及は止まらない。
「そんなこと言って、実はお前、彼女に夢中なんじゃないのか?俺が見たところ、佐々木さんもお前に対してちょっと特別な感じがあるような気がするけどな。」坂井は腕を組んで、したり顔をする。
「そ、そんなことないって!佐々木さんはみんなに優しいんだよ。それに、彼女はきっと…もっとすごい人が好きなんだろうさ。」コタローは自分に言い聞かせるように言ったが、どこか自信がない。
「おいおい、そんなに自信がないのか?お前の知識や冷静な判断力、そしてたまに見せる真面目なところ、結構魅力的だと思うぜ。」坂井は真剣に言いながらも、少し茶化すような口調で付け加えた。「だから、もっと自信を持てって。案外、向こうもお前のこと気にしてるかもしれないぞ?」
その時、突然背後から声が聞こえた。「何の話をしてるんですか?」
二人が振り返ると、そこには彩花が立っていた。彼女は明るい笑顔を浮かべているが、どこか探るような目つきも感じられる。
「お、佐々木さん!実は今、お前の噂をしてたところなんだ!」坂井が軽い調子で答える。
「そうなんですか?私の噂って、どんな話をしてたんですか?」彩花は少し興味津々の様子で、二人を見つめる。
「いやいや、ただの世間話だよ。何でもないさ!」コタローは慌てて言い訳をするが、その顔はさらに赤くなっている。
「そうですか?でも、なんだかコタローさん、顔が赤いですね。」彩花は不思議そうにコタローを見つめる。
「え、いや、これは…ただの気温のせいだよ。暑くて…ね。」コタローは汗を拭きながら、何とか誤魔化そうとする。
「本当ですか?でも、無理しないでくださいね。何かあれば、いつでも相談してください。」彩花は優しい微笑みを浮かべながら言った。
「ありがとう…佐々木さん。」コタローはようやく冷静さを取り戻し、感謝の言葉を返した。
坂井はその様子を見ながら、ニヤニヤと笑いをこらえていた。「ああ、ところで佐々木さん、今度みんなでまたどこかに行こうって話をしてたんだ。お前もどうだ?」
「いいですね!ぜひ参加させてください。前回のバーベキューも楽しかったですし、次はどこに行くんですか?」彩花が興味津々で尋ねる。
「まだ決まってないけど、キャンプとかいいんじゃないかって話してたんだ。自然の中でリラックスしながら、またみんなで楽しい時間を過ごそうってね。」坂井は自信満々に答えた。
「キャンプか…それは楽しそうですね。私、アウトドアは好きなので、ぜひ参加させてもらいます!」彩花の目が輝いている。
「よし、それじゃあキャンプが決定だな!またみんなで最高の時間を過ごそうぜ!」坂井が力強く宣言し、彩花もそれに同意した。
コタローはそんな二人の様子を見ながら、彩花との距離が少しずつ縮まっているのを感じていた。だが、同時に彼女に対する気持ちが強くなるにつれ、どう接するべきか悩みも増していく。
昼休みが終わりに近づくと、彩花がふとコタローに話しかけた。「コタローさん、今度のキャンプでは、また色々教えてくださいね。前回の山登りも、とても参考になりましたから。」
「もちろん。何か困ったことがあれば、いつでも言ってくれ。」コタローは自然体で答えたが、心の中では彩花との時間を楽しみにしていた。
「ありがとうございます。頼りにしていますね。」彩花はそう言い残し、仕事に戻るために席を立った。
坂井はコタローに小声でささやいた。「お前、いい感じじゃないか?あとはもっと積極的に行けば、きっと…」
「もうやめてくれよ、坂井。これ以上、俺をからかうなって。」コタローは軽くため息をつきながらも、どこか嬉しそうだった。
こうして、彼らの日常はまた少しずつ動き出し、次のキャンプに向けた期待が高まっていく。そして、彩花との関係がどう進展していくのか、コタローは心の中で期待と不安を抱えながら、仕事に集中しようと努めた。