転9 また危険なキャンプ 終幕 コタローの必死なフォローと彩花の視点
クマをなんとか追い払った直後、皆が安堵の息をついている中、コタローは坂井の顔色が急激に変わったのを見逃さなかった。普段はどっしりと構えている坂井が、まるで大変なことを隠そうとしているかのように青ざめている。それを見たコタローの心臓は、まるで鼓笛隊が暴れ出したかのように早鐘を打ち始めた。
「(あれ?何だその顔…坂井、お前まさか…いやいや、でも、あの顔は絶対に何かやらかしてるだろ!)」
コタローは焦りながら、坂井の顔をじっと観察した。いつもは冷静な坂井の顔が、まるで子犬が飼い主に叱られた後のように怯えている。その額には明らかに冷や汗が浮かんでいて、彼の目は落ち着きなく泳いでいた。
「(手が震えてる…いや、これはもう確実だ。絶対に何か隠してる。でも、それが何かは分かるぞ…いや、むしろ分かりたくない!でも、見れば見るほど、その可能性が濃厚になっていく…やばい、やばいぞ、コタロー!オレが何とかしないと!)」
コタローの頭の中で、最悪のシナリオが高速で展開されていった。彼は坂井の動きに一瞬たりとも目を離さず、どんな些細な動作も見逃さないようにと神経を集中させていた。
「(なんだ?なんでそんなに腰を押さえてるんだ?そして、そのぎこちない足取り…まるで、何かを隠してるみたいじゃないか!?いや、いや、隠してるんだよ!絶対に!でも、まさか…そんなことあるか!?)」
坂井が立ち上がろうとした瞬間、その腰に巻きつけた上着が少しだけずれてしまったのを見たコタローは、心臓が一瞬止まるかと思った。慌てて坂井が上着を直す仕草を見て、彼の動揺が手に取るように分かった。
「(待て待て待て!今、ちょっと上着がズレたぞ!?何かが見えそうになったんじゃないのか!?それはマズい!マズすぎる!おい、坂井!もっと慎重に動けよ!俺まで冷や汗が止まらないじゃないか!)」
コタローは自分の冷や汗を拭いながら、なんとか状況を収める方法を考えた。しかし、坂井の表情はますます険しくなり、手の震えはますますひどくなっていく。
「(まずい…これは本当にまずいぞ…。坂井がこんなに動揺してるのを見たことがない。普段なら堂々としているあいつが、今はまるでネズミを捕まえた猫のように、ビクビクしてる…。これは、間違いなく重大な事態だ…!)」
コタローは坂井の動きを一瞬たりとも見逃さないようにしながら、何とかして彼を助ける方法を考えた。坂井が少しでも目立たないように、彼の動きに合わせて自分も自然に動く必要があった。
「(落ち着け、コタロー。ここでお前が冷静でなければ、坂井はさらに動揺してしまう。俺がしっかりフォローして、なんとかこの場をやり過ごすんだ…!)」
コタローは心の中で自分に言い聞かせ、何事もなかったかのように話題を振り始めた。「さっきのクマ、すごかったよな!あんなのと出くわすなんて、まるで映画みたいだ。でも、みんな無事で良かった。特に坂井、お前のあの時の勇敢な姿、まるでヒーローだったぞ!」
コタローは必死に話題を続けながら、坂井の挙動を観察し続けた。坂井の手がまだ震えているのを確認し、さらに内心で焦りが募る。
「(頼むから、坂井、落ち着いてくれよ…!今ここでお前が動揺したら、すべてが台無しになる…。俺が何とかするから、せめてその震えを止めてくれ!)」
コタローは冷や汗をかきながらも、笑顔を絶やさずに周囲の雰囲気を保とうとした。しかし、坂井の不自然な動きが続くたびに、コタローの心臓はドキドキと早鐘を打ち、冷静さを保つのがますます難しくなっていった。
「(坂井、お前、まだ腰に手を当ててるのか!?それは逆に目立つって!もっと普通にしてくれよ!ああ、何かが見えそうだ…頼むから、ズレないでくれ、上着!俺の心臓が持たないよ!)」
その様子を少し離れた場所から見ていた彩花は、コタローが普段とは違う必死な表情をしていることに気づいていた。彼が坂井を全力でフォローしようとしている姿を見て、彩花は心の中でクスッと笑いそうになりながらも、どこか温かい気持ちになっていた。
「(コタローさん…何でこんなに一生懸命なの?坂井さんのために、あんなに必死になって…普段はのんびりしてるのに、こういう時にはちゃんと動けるんだね。何だか可愛い。)」
彩花は、コタローが坂井の一挙一動を細かく確認しながら、何とかしてフォローしようとしているその姿に、思わず微笑んでしまった。彼のひたむきな努力が、彩花の心に響いていた。
「(コタローさん、普段はのんびりしてるけど、本当は優しくて、こういう時にはちゃんと頼りになるんだな…。彼があんなに必死になってる姿を見ると、なんだか応援したくなるし、もっと知りたくなる。)」
彩花はコタローが坂井を守ろうとしているその姿を、じっと見守りながら、彼の優しさと真剣さに心を打たれていた。そして、彼のそのひたむきな姿勢が、彼女の心に深く刻まれていった。




