表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

7 似たもの同士、波長が合う、そして

 イライラしながら帰宅する。

 寝るためだけに戻るアパートで、風呂を済ませて布団に入る。

 晩酌すらする気にならない。

 肉体的な疲労もさる事ながら、精神的な苦痛が堪えがたい。

 少しでも癒すためにはさっさと寝るしかない。

 苛立ちが眠りを妨げるけども。



 それでもどうにか眠った警察官だが。

 寝れば終わりというわけではなかった。

 事件が起こってる現地に出入りするように鳴った頃から続く現象がある。

 何者かが呼びかけてくるのだ。



 それは、声というわけではなかった。

 だが、確かに気配があり、それが警察官に近づいてくる。

 自分ではない別の存在。

 そいつの意識を感じ取る。

 相手の気持ちも同時に。

 警察官に「応えてくれ」という思いを。

 これまではそれをただの夢と思っていたのだが。

 その日は違った。



 意識が警察官をくるんでいく。

 相手の考えが頭の中に入り込んでいく。

 不愉快極まりない感触だった。

 相手の考えを遮断する事も出来ずに流し込まれ続けるのだ。

 見たくないと拒否も出来ない。



 だが、警察官の拒絶もだんだんと無くなっていく。

 相手の考えを見させられていくうちに、言いたい事を理解出来るようになった。

 相手が何をしたいのかが。

 その為に何をしてもらいたいのか。

 それを知った警察官は、夢の中で返事をした。

「……分かった」



 翌日。

 生まれて初めてというほど爽快な目覚めをおぼえた。

 頭がすっきりしている。

 体も軽い。

 起き上がるのも面倒だったこれまでと違って。

 おかげで職場に行くまでは良い気分でいられた。



 その途中。

 通り道にある様々な結界。

 それらを少しずつ取り除いていく。

 夢で会った存在がこちらに来れるように。



 昨夜の夢で出会った存在。

 それは世に広まった己に仇為す存在を消そうとしている。

 その為に、協力してくれる者を探してるとも。

 呼びかけに応えてくれる者が少ないので、そういった者を見付けるのも大変だが。



 幸い、警察官は呼びかけに応えてくれた。

 波長が合うというのだろう。

 そんなつもりは無かったが、警察官には素質があった。

 おかげで意識の存在と接触し、何を求めてるのかを知る事が出来た。

 その申し出を警察官は受け入れた。



 意識で接触してきた存在。

 それは事件発生の中心地にいた者。

 存在を封印されていたが、それが壊れた事で世に再び出てきた。

 そして封印のない地域を霊気で覆い、そこに生きてる者達を死滅させていった。

 一部の例外を除いて。



 警察官もそうした例外だった。

 霊気を放つ存在と接触出来た。

 素質がなければそもそも接触すら出来ない。

 この存在がいる地域に出向いて、縁が出来ていたとしてもだ。

 意思の疎通が出来る素質があるから夢の中で出会う事が出来た。



 その存在の提案、求めに応えて彼が動きやすい場所を作っていく。

 少しでも妨げとなる結界を破壊していく。

 それは道端におちてる石であったり、立ち並ぶ木々であったり。

 霊気を遮る結界としての役目を担ってるこれらの置いてる位置をずらしていく。

 木々なら、枝葉の先端を少しちぎっていく。

 これだけで霊気が侵入しやすくなる。



 仕事中はさすがに無理だが、行きと帰りの途中で少しずつ事を進めていく。

 そうする事で霊気が少しずつ侵入していく。



 こうして霊気は県境を越えていく。

 警察官の近隣まで多数の死亡者が出る事になる。

 わずかな生き残りを残して、多くが霊魂を失っていった。

 その様子を警察官は淡々とした気持ちで眺めていた。



「…………」

 静かな職場で警察官は席に座っている。

 何をするでもない、そもそも仕事が仕事として成り立ってない。

 多数の死者を出したのは警察も同じだ。

 人がいなくて動きが取れなくなっている。

 幸いなのは、町の住人も大多数が死んでおり、その中には、控えめに言って良からぬ輩も含まれていた。

 おかげで犯罪や事件は起こってない。

 問題をおこす者が減ったのだから当然だろう。



 そんなわけで、特に働かなくても問題は無い。

 動こうにも動けないのだから。

 生き残りの警察官もいるにはいるが、それらだけで業務が進むわけもない。

 今のところ、警察は開店休業状態だ。

 警察に限った事ではないが。



 おかげで、事件発生地への捜査や調査も停止している。

 動かせる人間がいないからだ。

 生き残りで今は警察署や交番を何とか維持している。

 これとてかろうじて活動してるという程度だ。

 余分な人間などいない。



 そんなわけで警察官は警察署でゆっくりとしてる。

 業務のほとんどが止まってるので、何かする必要もない。

 そのうちまだ無事な地域から応援の人間が寄越される事になってるが。

 それまでは平和でいられる。



「さて」

 気持ちが落ち着いたところで警察官は立ちあがる。

 する事がないといっても、それは仕事の事。

 もう一つの作業はまだまだ終わらない。

 むしろ、ここからが本番になる。



 近隣からの応援が来る。

 それまでの間に、更に霊気を拡大しなければならない。

 そうすれば、応援を寄越す地域でも多数の死者が出る。

 警察も巻き込まれる。

 応援など出してる余裕がなくなる。



 そうなれば無駄な仕事をしなくて済むようになる。

 嫌味を放つだけの上司にいたぶられる事もなく。

 成果の出ない作業に従事する事もない。

 落ち着いた余裕のある時間を過ごす事が出来る。

 それを失うつもりはなかった。

「折角手にいれたんだし」



 嫌味を言ってくる上司は死んだ。

 上司をいびって働かせていた上層部も死んだ。

 そんな上層部や警察をせっついてた民衆も死んだ。

 今、警察官を脅かすものはない。

 解決しなければならない事件もない。

 あるにはあるが、それもいずれ解消される。

 霊気が世界を覆えば。

 そうすれば、問題のある人間は全て消え去る。

 犯罪者もだ。

 その時、警察の仕事はなくなる。

 裁判所と刑務所も。



 その時を目指して警察官は動いていく。

 ありあまる時間、それを利用してあちこちを巡る。

 霊気の侵入を阻むものを取り除くために。

 少しでも広く大きく霊気を拡大するためにも、邪魔になるものを外していく。

 時間はいくらでもある。

 うるさい上司はいないのだ。

 何をしても自由である。



 もちろん、こうしてる間にも事件は起こっていく。

 だが、それも気にする必用は無い。

 霊気が覆えば問題のある輩は死ぬ。

 ならば、捜査ではなく結界の破壊の為に活動した方が良い。

 捜査に時間をかけるより効率的に犯罪者が消えていく。

 急がば回れである。

 もちろん、即座に対応できる事件の解決には臨むが。

 だが、それ以外の事件の解決には、霊気を蔓延させた方が良い。

 最終的に全てが解決する。



 どうしても外せない捜査もある。

 だが、それならば捜査で出歩く時に作業をすれば良いだけである。

 出向いた先にある結界を破壊する。

 そうすれば一石二鳥だ。



 こうして霊気は各地にひろがっていく。

 死亡者も増えていく。

 協力者も。

 静かな世界に平穏がもたらされていく。

気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を



どうせ書籍化しないから、こっちに寄付・投げ銭などの支援を↓



【よぎそーとのネグラ 】

https://fantia.jp/posts/2691457



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


_____________________

投げ銭(チップ)・支援はファンティアで随時受付中↓


【よぎそーとのネグラ 】
https://fantia.jp/posts/2691457


_____________________



+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ