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17 交渉のつもりなのかもしれんが、恫喝でしかない、そんなものを誰がまともに取り合うと?

「おい!」

 霊気の満ちる領域の中。

 久しぶりに休日を堪能していると、恫喝のような声が耳に飛び込んでくる。

 なんだ、と思って声の方向を見る。

 この領域でこんな態度をとる人間は珍しい。



 基本的に、生存者の中にこんな態度をとる者はいない。

 だいたいが丁寧な態度と言葉遣いをしている。

 少なくともそうしようと気遣っている。

 なので、開口一番に人を呼びつけるような奴など久しぶりすぎた。

(誰だ?)

 とりあえず相手を確かめようと目を向ける。

 なじみのない顔だった。



「早く来いよ!」

 首をかしげてると更に怒鳴り声が叩きつけられる。

 なんで命令をしてるのか分からない。 

 だが、放置しておくつもりもないので、近付いていく。

(5人か)

 それなりに大きな車に乗り合わせている。

 いったい何の用でこんな所を走ってるのかが分からない。



 とりあえず車に近付き、射程距離に入ったところでベルトから拳銃を抜く。

 銃口をタイヤに向けて撃つ。

 空気の抜ける音と共に車は移動能力を失う。



 呆気にとられてる車に乗ってる者達。

 その中でいち早く正気を取り戻した者が、車から逃げようとする。

 銃を持つ男と反対側のドアが開く。

 そこから走り去ろうとした所で、銃が撃たれる。

 背中を撃たれた者が、車体の向こうで倒れる。

 他の者達は逃げ出そうとすらせずに車の中で縮こまっていった。



「なんだ?」

 そう尋ねる前に、車に乗っていた連中に銃弾を叩き込んでいく。

 窓を割って、それぞれの足を撃ち抜く。

 これですぐには死なず、逃げ出す事も難しくなった。

 撃ち抜かれた連中は、痛みに悲鳴をあげる。

 銃を持つ男に返事をする余裕もなさそうだ。



 だが、それは怒鳴りつけてきた連中の勝手だ。

 銃を持つ男には関係がない。

 そもそもとして、初対面で怒鳴りつけてくるようなクズをまともな人間扱いする必要もない。

 怒鳴りつけた理由を聞いて処分するだけだ。

 即座に殺しても良いのだが、銃を持つ男はあえてそうしなかった。

「なんで怒鳴りつけた?」

 これだけは聞いておきたかったので。



 たまにこういう人間がいる。

 何を考えてるのか分からないが、ふざけた態度を取る者がだ。

 なんで開口一番怒鳴りつけるのか?

 そもそも初対面なのに礼儀も何もないのは何なのか?

 作法を知らないのは仕方ないが、せめて丁寧にあたろうとしないのは何故なのか?

「なんでだ?」

 銃口を向けながら答えを求めた。



「な……んだよ、いきなり!」

 答えがこれだった。

 怒鳴りつけた連中は、それよりも撃たれた事をにご立腹のようだ。

 今は怒りよりも恐怖の方が勝ってるようだが。

 しかもだ。

「『いきなり』ってなんだ?」

 まるで怒鳴りつけた方が被害者であると言わんばかりである。

 実際、被害者だと思ってるのだろう。

 いきなり撃たれたと。



 理解しにくい考えだ。

 怒鳴りつけた方が悪いのだが。

 そういった考えはないらしい。

「そうか」

 これ以上話す事はない。

 銃を持つ男は、車の中にいる連中を撃ち抜いていく。

 今度は急所を狙って。

 車に乗っていた連中は。全員死んだ。



「────って事があったんだよ」

 携帯電話で事の顛末を伝えていく。

 それを聞いた役所の人間は、

「分かった、それじゃあ回収に行くから」

 そう言って現在地などを銃を持つ男から聞いていく。

 必要な事を伝え終わると、男はその場に留まる。

 役所の人間がやってくるのを待つために。



 それから20分ほどして。

 役所の車がやってきて、死体と車を回収していった。

 車は撃ち抜いた車輪を交換して走れるようにして運転していく。

「ご苦労様です。

 大変でしたね」

 役所の人間のねぎらいの言葉が心にしみる。

「まったくだよ」

 休みだというのに、いきなり怒鳴りつけられたのだ。

 気分は最悪。

 電話で話を聞いていた役所の者は、だから銃を持つ男をいたわった。

 慰めの言葉の一つもないとやってられない。

 その事を役所の男もよく分かってるからだ。



「言い掛かりはつらいですよね」

「本当に」

 仕事柄そんな状況に陥る事の多かった役所の人間にはそれがよく分かる。

 銃を持つ男もだ。

 霊気が満ちるまで、二人とも怒鳴り声に頭を下げる日々をおくっていた。

 互いに辛さがよく分かってしまう。



 そんな心の交流をしてから。

 役所に向けて車が二台走っていく。

 見送った銃を持つ男は、一度家に帰る事にした。

 使った銃弾を補充するために。



 それにしても、と男は思う。

 久しぶりに態度の悪い人間に会ったと。

 霊気が満ちて多くの人間が死滅してからはなかなか出会う事がなかった。

 穏やかな人間ばかりが生き残っていたからだ。

 威勢の良い人間も、気持ちの良いものばかりだ。

 なので、いきなり怒鳴りつけられるのは久しぶりだった。



「なんだったんだろ」

 腹は立つが処分できたから留意を少しだけ下げる事が出来た。

 やはり、二度と出てこなくなるのは気持ちがいい。

 引導を渡したのが自分だとなおさらだ。

 しかし、謎は少しだけ残った。

 何を聞こうとしたのか?

 何をしようとしたのか?

 理由が聞けなかったが残念ではある。

 ほんの少しだけ、一時間もすれば忘れる程度の気がかりであるが。



 ただ、予想もついてしまう。

 車の方向から、霊気の満ちてる領域の外から来たのだろうと。

 そんな者達の用事はだいたい同じだ。

 この場の責任者に会わせろというものだ。



 人が大量に死ぬようになってから、こんな連中が増えてきた。

 霊気に当たっても死なない者がいる。

 そう知った者達がわずかな可能性を求めてやってくるのだ。

 自分たちも死なずに済む方法があるのではないかと。



 その可能性にすがってあえて飛び込んでくる。

 もしかしたら死なずに済むかもいしれないと。

 そして、その方法を教えろと。



 これで頭を下げて謙虚な姿勢を見せるならともかく。

 たいていが、

「なんでテメエが生きてんだ!」

「どうやってんだ!」

「さっさと言えよ!」

と恫喝してくる。

 こんな奴等が大半だったので、生き残り達も対応を考えるというもの。



 せっかく平穏な世の中になったのだ。

 それを壊すような輩などさっさと処分するに限る。

 時間が経てば自動的に死ぬのだが。

 そうなる前に接触してしまったら、その場で処分する。

 放置してるとどんな悪さをするか分からない。

 死ぬのを待つ理由がない。



 死ぬべき者は何かしら悪さをしてるものだ。

 そして、生き汚いものである。

 生き様の汚さとは、周囲に対する危害となってあらわれる。

 殴る蹴るや壊すといった形だけではない。

 暴言なども含めて無形の態でもあらわれる。

 そんな連中が悪さをしないわけがない。



 そもそもとして、最初に出会った者への態度。

 いきなり罵倒で始まるのが大半だ。

 そうでなくても横柄な者が多い。

 そんな態度をとる奴など、生かしておく必要がない。



 言い方が悪いというのはそれだけで問題だ。

 なのに、世の中おかしなもので、暴言は許して認めて放置する。

 暴力は許さないとほざきながら。

 暴言に殴り返したら、殴ったものが悪なるのが典型だ。

 まず暴言を吐いた方が悪い。

 原因を作ってるのだから。

 しかし、これは常に放置される。



 なので生き残り達はまず最初の態度で相手を判断する。

 たいていの者は銃を持ってるので、これで来た連中を処分する。

 人数が必要な場合は応援を呼ぶ。

 今回は少人数だったので、手持ちの銃で処分された。



「ああいうのだから死ぬんだろうな」

 家に戻る途中、銃を持った男は一人呟く。

 死んでる者の大半は日頃から態度が悪い。

 そうでない者もいるが、態度が悪くて生き残ってる者はいない。

 生き残ってる者はたいてい穏やかな者達だ。

 例外はない。



 死ぬべくして死んでいく。

 生きている価値がない。

 生きていてはいけない。

 そういう者が死んでいく。



 霊気がどういう基準で処分対象を決めてるのか。

 それはいまだに分からない。

 だが、死んでいく者達を見ていれば何となく分かる。

 生きていたら他人に危害を加える者。

 そういった存在が処分されていってる。

 ならば、これが答えなのだろう。



 そんな事を思い返しながら家に戻り。

 備えてある銃弾を装填していく。

 また不埒な輩に遭遇するかもしれないからだ。

 その時、銃弾がありませんでしたでは話にならない。



「それにしてもなあ……」

 銃弾をこめなおした銃をベルトにはさんで思う。

「休日なのに、何してんだか」

 これでは作業中と変わらない。

 だが、それも仕方ないと思い直す。

 勝手にやってくるのだ、対応しきれるわけがない。

 接触したら運が悪いと思うしかない。



 ただ。

 ここまで来ると開き直ってくる。

 ならいっそ、やってくる奴を見付けて処分していくかと。

 どうせ休日を潰されるなら、自分から見付けにいってやろうと。

 これはこれで面白い遊びになるかもしれない。

 そう思って男は外に出る。

 予備の銃弾も出来るだけ持って。



「さて」

 今度はどっちに行こうか?」

 そう思いながら男は散歩に出る。

 意気揚々と。

 困った輩に出会うかもしれないが、今はそれが愉しみですらあった。

 どれだけ殺してやれるのかと。



 その後。

 銃を持った男は4組の人間と出会い。

 このうち3組を葬っていった。

 なかなかの戦果に気分は上々。

 夕暮れになってからの帰宅は足取り軽く。

 寝入りはゆっくりとぐっすりと。

 寝起きはすっきりと。

 心地よく次の日を迎える事が出来た。

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