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16 いずれ消える逃げ場にそれでも駆け込んでも、覚悟を決めて残っても、どうせ死ぬだけ

「脱出は?」

「準備ができ次第進めております。

 ですが、航空機にしろ船舶にしろ、数が足りません」

「やはり、無理か」

「なんとも……」

 首相官邸にてこんな会話がそこかしこで行われている。

 霞ヶ関の中央省庁でも。



 人が死滅する地域。

 この拡大を受けて、日本政府は様々な対策をたてた。

 だが、その全てが無駄に終わった。

 警察による調査は、警察官の死亡によって頓挫する。

 自衛隊の投入も考えたが、そもそも戦うべき敵が見えないので意味がない。

 かろうじて効果があると言われたがの、神社仏閣など、神域・聖域など。

 そして、神職・聖職による念仏や読経などなど。

 こんなオカルトな手段すらも頼って、どうにか死亡者を減らそうとした。

 これ以上の拡大を止めようとした。

 だが、全てが無駄に終わった。



 それを予見して、というほどではないが。

 全てが無駄に終わる最悪の事態を想定して、国民の脱出も計っていた。

 生き延びるためには他に方法もない。

 人が死ぬ領域の拡大を食い止める事が出来ないのだ。

 あとは逃げるしかない。



 しかし、困難を極める作業になる。

 たんなる観光旅行では無いのだ。

 生き残ってる日本人の脱出だ。

 数は膨大なものになる。

 今は一億二千万人もいないが、数千万人の生存者がいる。

 あらゆる飛行機・船舶を使っても、この全てを脱出させるには足りない。



 そもそもとして、受け入れる国がほとんどない。

 なにせ難民なのだ。

 誰が好んで受け入れるというのか。

 受け入れ国からすれば、日本人は外人である。

 そして外人が大量に入って居着けば、必ず自国民・先住民との衝突が発生する。

 これまで現実に発生してきた問題だ。

 日本人だけが例外になるわけがない。



 これもあり、受け入れる国はそれほど多くは無かった。

 あったとしても、その人数には限りがあった。

 その範囲で、とにかく日本政府も避難を進めていた。

 また、どうにか受け入れてくれるよう、各国に働きかけてもいた。



 もちろん、成果はほとんどあがってない。

 先進国・大国だった日本なら、まだ交渉も出来ただろう。

 だが、原因不明の大量死亡で人口が大きく減った日本だ。

 産業もその分停滞・潰滅。

 経済力も当然ない。

 そんな国をまともに相手にする者などいない。



 交渉とは、基本的には恫喝である。

 より強い者が相手に言い分を押しつけるものだ。

 日本にそんなものはない。

 無いものをどうして他国がまともに相手にするのか?



 かろうじての受け入れも、上っ面だけの人道主義に基づくものだ。

 本心の忌避感や拒絶感、嫌悪感を押し殺してのものだ。

 好んで何の利益にもならない難民を受け入れる国はない。

 高い能力や技術・知識を持ってる者でもだ。



 それでも何人かは受け入れはするが。

 その待遇が良いわけがない。

 社会の最底辺のおいやられ、まともに生きていけない環境におかれる。



 衣食住にありつくとしてもだ。

 犬小屋のような畜舎。

 生ごみを使った食事。

 ボロキレを体に巻き付けるだけの衣類。

 この程度のものが与えられるにすぎない。

 労働力として使える場合に限って。

 つまりは奴隷だ。



 日本から脱出した者達。

 彼等は奴隷として、家畜としてのみ生存が多少は認められた。

 使えなくなれば、即座に殺処分される程度の存在として。

 このため、日本からの脱出は、現代の奴隷貿易と呼ばれた。




 これが海外に渡った日本人からネットを通じて伝えられる事になる。

 当然、日本政府は抗議などしなかった。

 文句を言えば受け入れを拒絶されるだけだ。

 力のない存在は、こうして虐げられるしかない。

 世界にとって日本はこの程度の存在だ。

 なんの利益もないのに助ける馬鹿はいない。



 それでも生きていられるだけ良い。

 そう考えるものは奴隷となるために海外に渡り。

 そんな事ではここで死ぬのも同じだと思う者は。

 死ぬまでの猶予期間を日本で過ごそうという者も出てくる。



 それにだ。

 多くの人間が死滅するとはいえだ。

 わずかながら生き残ってる者達も確認されている。

 もしかしたら自分もそういう生き残りになれるかもしれない。

 自分は無理でも、親兄弟は、妻に我が子は、と考える者もいる。

 可能性は低いだろう。

 だが、万が一に賭けて、居残る者達もいる。

 人が死ぬ領域に入っても、自分や誰かが生き残ってくれと願いながら。



 逃げる余裕のない者もいる。

 親兄弟や女房・子供を連れていく余裕のない者。

 渡航費用が用意できない者。

 こういった者達は、住んでる場所を終の棲家として過ごす事になる。

 これはこれで哀れなものである。



 逃げようにも逃げられない。

 追い詰められたこの思いから、家族に八つ当たりする者が大半だった。

 親は子供、子供は親を詰り。

 夫は妻を、妻は夫を罵り。

 兄弟姉妹は殴り合い、傷つけ合う。



 同じようにその場に残った近隣の者同士でも、同じような衝突が起こる。

 時に町の中で殺し合いすら起こる。

 生き残りをかけたデスゲームになる。

 無駄で意味の無い争いの果てに、わずかな生存者が残り。

 その生存者も霊気にくるまれて死んでいく。

 慌てなくても死ぬというのに、なぜか自ら率先して死んでいく。

 理解に苦しむ行動である。



 こうなると、あえて死亡する領域に向かう者も出てくる。

 死ぬのを待つのではなく、万が一の生存に賭けて。

 ただ待つのではなく、積極的に可能性を確かめようと。

 その賭けに勝って生き残る者もいる。

 それらは人が死ぬ領域で新たな人生を送る事になる。

 ただ、この選択をする者は少ない。

 やるとしたら、先の無い独り者がほとんどだった。


 生きていても先はない。

 なら、死んでも構わないじゃないか。

 生きてる間は苦痛しかないのだし。

 それに、守らなければならないものもない。

 ──こんな想いが、彼等を死地へと進ませていった。



 そんな彼等の大半は死ぬのだが。

 生き残る者もやはりいる。

 それらは霊気を放つ存在に接触し、己のやれる事を見付けていく。

 生き残ってる者達と共に、霊気を阻む障害を取り除いていく。

 死中に活を見いだせた者達は、己の出来る事を成し遂げていく。



 もちろん、こうでない者も多い。

 死んでしまったら、そこで人生は終わりだ。

 確実に生きていられるならともかく。

 わざわざ寿命を縮める事をしてどうする。

 ──こう考えるのも自然な流れだろう。



 こうした者達は国外を目指す。

 それが無理でも、出来るだけ安全な場所を探していく。

 まだ人が死なない場所へと向かっていく。

 こうした者達の大半が浮浪者・ホームレスとなっていった。



「終わりだな」

 そんな日本の現状を首相官邸にいる者達は一言で言い表した。

 もう既に日本は終わっている。

 死者が多発する領域は拡大を続け。

 それを前にした人間は自ら自滅の道をたどっている。

 放っておいても日本は消滅する。



 首相官邸も例外ではない。

 既にすぐ近くまで死者が多発する領域は迫ってる。

 あらたな首都は既に指定済みで、そちらに政治の中心はうつるけど。

 意味のある行動ではない。

 いずれ日本の端まで移動して。

 そこで終焉を迎えるだけだ。



 それでも首都を移転してるのは、全てが潰えるまでは日本人の避難を進めるため。

 ただその為だけに名前だけの首都を次々と作り出している。

 実る事もない努力とわかりつつも。

 あらゆる意味で終わってるのだ。



 もっとも、日本政府が最後の最後まで活動を続けられたわけもない。

 そもそも政治家になる者もおらず。

 官僚だって逃げ出していく。

 最後は首都にされた田舎の町の町会会館を国会として。

 担い手の全てが逃げ出して潰えていった。

 責任を全うしようという者などいなかった。

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