15 家の中は安全だけど、外に出たらどうなるか
「終わりか」
窓から外を覗く男は諦観の表情を浮かべていた。
外は使者だらけ、家から出たらどうなるか。
かろうじて家の中は安全だが。
それも不安を消す材料にはならない。
人が突然死ぬのが当たり前になって久しい。
既に日常となっており、今はどこまで人が死ぬ地域が広がってるかを語るようになってる。
押し返す事など既に諦められている。
現状維持に留める事すら不可能だ。
それでも生き延びたい者は、まだ安全な地域へと向かい。
そんな余裕のない者はその場で死を待っていた。
男もそんな者の一人だ。
既に人が死ぬ地域の中にいて、あとは死を待つだけになっていた。
ただ、男はまだ生きていた。
自分でも信じられないが、死なずに済んでいる。
「どういう事だ?」
疑問はネットへと放たれた。
人が死ぬ地域にいるのにまだ死なずに済んでると。
疑問への応答はいくらかやってきた。
「俺もそうだった」
「俺は死なないで生きてる」
「死ぬ奴と死なない奴がいるのは確か」
明確な答えがあるわけではない。
だが、目撃情報などからある程度の予想は出ている。
人が突然死ぬ地域は拡大している。
そこに入った者達は、ある日突然死んでいく。
だが、その中でも普通に生きてる者達がいる。
理由は分からないが、死ぬ者と生きる者とで分かれる。
もっとも、死亡者の方が多く、生き残れる者は少ないようではある。
また、生き残る者にも二種類ほどいる。
神社仏閣などにいた者達は生き延びてる。
だが、こういった所にいた者達は、その敷地から出ると死ぬ。
ここから、神域・聖域によって守られてる可能性がある事が予想されてる。
同様に、神棚・仏壇などがある家も安全らしい。
もっとも、全ての家がそうではないので、これは何らかの条件次第だと言われてる。
これらの話を聞いて、男は納得した。
なるほど、男の家には仏壇がある。
死んだ爺ちゃん婆ちゃんが熱心に祈っていた姿を思い出す。
「そのおかげなのかな」
二人が存命だった頃を思い出す。
とはいえ、だったら男が無事なのは家の中にいるからとなる。
外に出れば終わり。
すぐに、とはいかなくてもいずれは死ぬ。
無事は無事だが、危険から逃れたわけではない。
それに、このままではいずれ死ぬのも明らかだ。
外に出れないのだから食料を買いに行けない。
水や電気は今のところ流れてはいるが。
これもいつまで保つのか分からない。
だが、外に出れば死ぬ。
なのに、冷蔵庫の中は既に空っぽだ。
短時間であれば、外に出ても死なないという。
確証はないが、半日程度なら問題は無いと。
だが、それも根拠があるわけでもない。
あくまでそう言われてるだけにすぎない。
根拠のない噂と言われてる。
これらはネットにあがった動画が参考にされている。
男と同じように閉じ込められた者達が、行き詰まって外に出たところ。
それが生配信された動画が幾つかある。
ほとんどが外に出て程なく倒れたところで終わる。
死んだのだろうと言われてる。
たまにそのまま生き続けた者もいる。
だが、そんな者は動画配信をした者達全体からすれば小数でしかない。
しかも、その後は配信する事もなく、安否は不明となっている。
ここから考えられる事は一つ。
外に出たら高確率で死ぬ。
死ななかったと思われる者も、本当に生きてるのかは分からない。
無理して外に出るのは自殺行為でしかない。
これが今の所出てる結論である。
確定はしてないが、もっとも有効な意見だと言われてる。
他にも意見はあるが、それらは確証が得られないので参考の域を出ない。
ただ、不可解な事が起こってる状況だ。
あらゆる可能性を否定する事も出来ない・
賛同を得られてない、検証中の意見も否定はされずにいる。
「もしかしたら」という可能性を捨ててはいけないからだ。
ただ、家にいてもどうせ死ぬ。
餓え死には避けられない。
だから男は外に出る事にした。
餓え死には避けたいからだ。
それも金が続く限りという限界はあるが。
だが、まずは目先の問題をどうにかしないといけない。
なので男は家の外に出る事にした。
近所のコンビニを目指して。
ついでにスマホで配信を始める。
外に出たらどうなるかを示すために。
自分自身を実験台にしていく。
これが他の誰かの参考になるように願って。
これくらいはしておこうという、男の心意気だ。
「じゃあ、行ってくる」
スマホで生配信を始めながら男は視聴者に声をかける。
集まってくれてる者は少ない。
だが、初配信で45人がいるというのは、まずまず成功なのだろう。
知名度も何もない一般人としては。
それだけ、死ぬ領域に出向くというのは興味を抱く話題だ。
意を決して外に出た男は、ごく普通に外を歩く。
短時間なら死ぬ事はないという話は本当のようだった。
それが言われてるように半日程度はもつのか。
せいぜい数分程度なのか。
それはこれから検証していく事になる。
男が自らの命を使って。
「まだ、生きてる」
外に出て近所のコンビニに辿り着く。
ここまででまだ死んではいない。
「外に出ても半日くらいなら大丈夫ってのは本当なのかも」
まだ確証は無い。
だが、我が身を使っての実体験から、短時間なら大丈夫というのは本当に思える。
「影響は受けてるだろうけど。
それはこれから俺がどうなるかで分かるんだろうな」
自分を実験体にしてるのが実に残念である。
その後、コンビニに入り、食料になりそうな物を買っていく。
店員は出てこないが気にしない事にした。
おそらく死んでるだろうから。
ただ、金だけは置いていった。
「この金、これから必要なのかな」
こんな世界でどれだけ意味があるのか分からない。
だが、それでも最低限の礼儀や道義として支払うものは支払っていく。
それから家に戻り、レトルト食品や冷凍食品を使って食事をしていく。
保存が利くものなので問題無く食べる事は出来た。
「でも、スーパーとかの野菜や肉は大丈夫なのかな」
生ものが食えるのかどうか。
そこは心配だ。
スーパーに出向けるかどうかも分からないので、いらぬ心配かもしれないが。
ともかく、コンビニまでの往復はどうにかなった。
だが、外に出た影響があるのかどうか。
それだけは心配だった。
「まあ、配信は付けっぱなしにするから、これからどうなるのかは見ててくれ」
そういってスマホを固定していく。
「顔は一応映らないようにしておくぞ。
身バレは怖いからな」
こんな世界だが、用心はしておく。
そんな男の配信はその後も続き。
夜、寝るところも撮影された。
そして、翌朝を迎え、男が起きるところも撮影される。
「…………まだ生きてる」
その声を聞いた視聴者達は、心からの応援を配信の感想欄に書き込んでいった。
「どうやら、半日まで……かどうかは分からないけど。
短時間なら外に出ても大丈夫なのかも」
男の配信でそれが明らかになった。
誰もがそう思った。
「やっぱり仏壇のおかげなのかな」
そう言った時だった。
べきっ
音がした。
何かが壊れる音。
男はスマホを持って移動する。
「まさか」
言いながら、でも確信があった。
音がした方向には、
「仏壇からだな」
その声には諦めとに混じってかすかな焦りが感じられた。
「うわ……」
男はそれをスマホで見せていく。
「仏壇、壊れてるよ」
戸が閉まった状態で、仏壇が潰れていた。
上から下に押しつぶすように。
どれだけの力が加わればそうなるのか、完全に押しつぶされていた。
それを見て男はあらゆる事を受け入れた。
「こりゃあ、ダメかも」
その次の瞬間。
男はその場に倒れ込んだ。
意識が一瞬にして途切れた。
床に転がった時には、もう絶命していた。
男の手から離れたスマホは、その後天井をカメラでうつし。
電源が切れるまで画面を固定して配信を続けた。
そんな配信を視聴していた者達は、様々な感想を書き込んでいき。
最後にはお悔やみの言葉を書き連ねていった。
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【よぎそーとのネグラ 】
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