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13 親は最も身近な加害者

「ここか」

 マイクロバスから降り、目の前の家を見る。

 これから過ごす事になる宿舎としてあてがわれたものだ。

 元は他人の家だが、これからここで暮らす事になる。



 地方が霊気で覆われ、多くの人間が死んだ。

 生き残りは各地に点在しており、このままでは生活も難しい。

 そこで、ある程度はかたまって住む事になった。

 仕事の関係でどうしても離れられない者達は別として。



 少年もその一人だ。

 既に誰もいなくなった家をあてがわれ、成人するまで生活する事になる。

 衣食住は近隣の者からまかなってもらう。

 まだ学校に通う年頃を考慮してだ。



 とはいえ、家に一人で住む事にはなる。

 それで大丈夫なのか、誰かと一緒の方がいいのでは、という意見もあった。

 少年にだけではない。

 同じような年頃の子供は多い。

 これらを気遣ってだ。

 ただ、大半の子供達は一人で暮らす事を選んだ。



「また親みたいな奴等と一緒にいたくない」

 これが一番の理由である。

 親を失った子供達の大半は、親の虐待を受けていた者達で

ある。

 虐待をするような親だから霊気によって死滅したともいう。

 そんな子供達にとって、親など最も身近な危険人物でしかない。

 悪人とどうして一緒に暮らさねばならないのか?

 これが子供達の気持ちである。



 これを慮り、身近な大人との同居は諦めていった。

 無理して一緒にいても、互いに不幸になるだけだ。

 ただ、子供一人での生活はさすがに無理がある。

 なので、近所に大人がいて、ほどほどに接する事にした。

 少年を含めた子供達もこれらは受け入れた。

 一人で生きていくのはさすがに無理だと分かっている。

 だから、適度に距離を置いて接していく事にした。

 他人と一緒に暮らすよりは気が楽だ。



 少年のような子供達にとって、そんな態度がありがたかった。

 親のように支配下におこうとしない。

 思い通りにしようとしない。

「ああいう大人もいるんだ」

 そう思うくらいに少年達には新鮮だった。



 親とはもっとも身近に居る子供への加害者だ。

 子供を自分の道具として、おもちゃとして扱う。

 好き勝手に動かせると考え、思いのままにしようとする。

 子供の好みなど無視して、親の望む事をさせるのが一例だ。

 将来のためにと、特に好きでもない習いごとを続けさせる。

 こうした虐待を受けてきた子供達にとって、自分たちの望みを聞き入れる大人は初めてだった。



 言っても無駄。

 それが少年達が共通して抱く大人の姿だ。

 なので、適当に言ってる事を聞き入れていくしかない。

 あとは適度に手抜きをすればいいのだが。

 これがそうはいかないのが悩ましい。

 成績が張りだされる事柄については、やたらと高度な事を求めてくるのが親という虐待者である。



 学習なら一定以上の点数を取れと。

 級や段位のあるものなら、段位をとれと。

 免状があるものなら、免状を取れと。

 スポーツなら選手・レギュラーになれと。

 大会で一位をとれと。



 概ねこんな命令を子供に出すのが親という生き物だ。

 子供が従うまで脅迫暴行をして従わせて。

 出来ないというのを決して認めない。

 本人の意向や素質などを全て無視して。



 こういった親と共に暮らしてきたのだ。

 言うだけ無駄となるのも当然。



 もちろん、児童保護を司る役所なども、こういった惨状を無視している。

 学校の教師など言うまでもない。

 子供を虐げてきる大人に囲まれ、少年達は全てに投げやりになっていた。

 大人への不信感など当然。

 信じるという事がそもそも無い。



 今も、距離をとってくれる大人には驚いているのだが。

「どうせそのうち悪さをするさ」というのが少年達が共通して抱いてる確信である。

 最初は大人しくしてる、温和に接してるとしか思わない。

 なぜそうするのか?

 信を得て、あとで騙すため。

 それを少年達はこれまでの短い人生で学んできた。

 穏やかに接してるだけで信じるわけがない。



 それでも、親を含めた多くの大人と違うのも分かってる。

 なにせ、霊気に触れても死ななかった者達だ。

 まともな人間だとは思う。

 それでも信をおけるかどうかは別。

 疑ってかかるのが一番だと少年達は学んでいる。



 それが分かってるから、生き残った大人達も少年達に深入りしようとしない。

 適度な距離を保とうとする。

 少年達を気遣って。

 ここで距離を詰めよう、信を得ようと無駄な行動をとる事こそ最悪の選択になる。

 一緒にいるのが仲良しと思い込んでるなら、それは間違いである。

 そもそも、仲良くしようというのが大きな間違い。



 適度な距離を置く。

 他人行儀でいる。

 これこそが良好な人間関係である。

 生き残った大人達はそれをよく知っている。

 だから少年達との間に距離を置く事にした。



 そんな気遣いは少年達も察している。

 だからこそ、心地よく暮らせるという予感を抱いた。

 親と一緒にいた時には無かった心地だ。

 それを言葉にするならこういうなるだろう。

 安心感。



 霊気が世界を覆うようになってから感じるようになったものだ。

 親が死んだ時も感じた。

 今、それと同じような幸せを少年達は感じていた。

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