➖第ニ話・勇者➖ ①
ドレイク国国境砦の列に並んでいたユウキとエルザは、先程の関所での事があった為か少し緊張していたのだが、戦時中のユーラット国と違い、中立国である海洋貿易国家ドレイクの国境は気のせいか和やかな雰囲気で、エルザも落ち着きを取り戻して順番を待っていた。
「次!」
「はい」
ユウキが前に進み出て通行証を見せると衛兵は軽く目を通した後、チラリとエルザの方を見たが何も言う事なく次の入国者の対応へと移った事でホッと胸を撫で下ろしたユウキとエルザは無事に国境砦を通過した瞬間、緊張の糸が切れたのか、お互いの顔を見合わせて吹き出した。
「良かったね、これでエルザは正真正銘、自由の身になったんだよ」
「はい……ですが…私のせいで旅費を失ってしまって…」
「エルザ!その事はもう気にしないで良いから、取り敢えず近くの冒険者ギルドに行ってがっぽり稼ごうよ。何処か近くの迷宮があると良いんだけど…考えても仕方ないから行こう!」
……
街道を馬で走り続けていると冒険者ギルドは無いが小さな村に辿り着いたので情報収集も兼ねて立ち寄る事にした。
村の閑散としていて活気がないと思っていたがそれは気の所為ではなく、住人に話を聞くと昔の戦いで荒廃した街を復興させる為の費用がこの村にまで回ってくる余裕が殆どないのでどんどん廃れて行くだけだと言っていた。
「すいませーん!ボク達無一文になっちゃって近くの冒険者ギルドのある街か近くの迷宮を教えて貰いたいのですが」
「そうだなぁ…ココから西に向かった所に『迷宮都市』と呼ばれる場所なら冒険者ギルドも迷宮もがあるけどちょっと遠い場所にあるから、この村を通るほとんどの人は南側に仕事を探しに行くなぁ…まぁどっちに行くにしても今日はもう遅い、うちに泊まって行くと良い」
「えっ!?でもボク達さっきも言った通りお金が全然無いですよ!?」
「なに、ここは何も無い村だからうちの手伝いと旅の話を聞かせてくれるだけで十分さ」
その親切な老人の言葉に甘え、ユウキ達はその晩、彼の奥さんの作る温かい料理を食べ久しぶりに人としての生活でこの上ない安心感を感じずにはいられなくなりゆっくりと睡眠をたっぷりとる事が出来た。
……
次の日の朝、親切な老人に礼を言い迷宮都市へ向けて馬を走らせていると、突然エルザが馬を止めた。
ユウキは何事かと思い前方を見ると、どうやらモンスターの群れに襲われている馬車を見つけたようで、その馬車の周りでは冒険者達が戦っているようだが苦戦しているようだった。
モンスターはオークが8体にブラックウルフが9体だ、冒険者達の陣形はオークとブラックウルフを分断した3人の前衛で対処して最後の一人は馬車を守るようにしてブラックウルフの相手をしていた。
だが数が有利なオーク達に押されており、このままでは馬車が襲われてしまうのは時間の問題だった。
「ユウキさま、加勢に入りますっ!」
エルザはそう言うとユウキの答えを聞く前に馬をモンスター達に襲われている馬車に向けて走らせた。
助けを求めているものがいたら誰であろうと助けに入る気持ちはエルザの高潔さでもあるが、それが最後まで戦場に残り続け、その結果捕虜となった危うさを孕んでいるのだから誰かが守ってやらねばと思っていた。
突然現れた女騎士と子供にオークも商隊も双方慌て隊列を乱すが、何よりも動揺を見せたのがオーク達でエルザの人を惹きつけて目を離せなくなる美貌がフェロモンとして働いたのか、一斉にエルザが駆る馬へと我先にと集まってきた。
「エルザ!危ない!」
「大丈夫ですよユウキさま、私はオーク如きに遅れは取りませんッ!!」
その言葉の通りエルザの馬上術は凄まじくオーク達複数に四方を囲まれながら、なおかつユウキを片手で支えながらの盾を使ったシールドアタックで次々とオークを弾き飛ばした。
オーク達が次々と馬上の騎士エルザに弾き飛ばされて行く姿に、これまで戦っていた冒険者達は呆気に取られて居たが、目の前のオーク達の統率が乱れを攻勢のチャンスと見て皆、奮起した。
そして、手綱を持たぬ人馬一体の攻防で戦うエルザに群がっていた最後の一体のオークを蹴散らす頃には戦闘は終了していた。
「どなたか存じませんが助けて頂いてありがとうございます。さぞ名のある騎士とお見受けしましたが是非お名前を教えて頂けないでしょうか?」
「えっ!えええっ!?わ、私は…私はただの旅人です…当然の事をしたまでですので、御気にせずとも大丈夫です」
答えたエルザは少し寂しそうだったが、その憂いた表情に彼女に助けられた冒険者達はすっかり骨抜きにされたようで口々にエルザを褒め称えていた。
「まぁ!こんな辺境で高名を出すのも憚れるのでしょうから御礼はまた後日改めてさせて頂きます。あの…もしよろしければこのまま迷宮都市ラプラスまでご一緒に行きませんか?」
商人の好意にエルザは後ろめたさを感じたが、ラプラスと言う都市の名を聞きユウキの目的地へと食料の心配もせずたどり着ける為、馬車の護衛も兼ねて一緒に向かう事にした。