➖第一話・奴隷騎士➖ ④
迷宮から出たユウキは街に戻ると冒険者ギルドに寄って受付嬢にGランクで迷宮に内緒で行った事を散々怒られながらも拾ってきた鉱石や希少な鉱石を全て売り払うと、その報酬で豪遊しようと生前の癖で自然と歓楽街へと足を向け歩いていた。
しかし周りからの奇妙な者を見る視線で自分が10歳の子供であった事を思い出し、こういう場所では自分が楽しめる物などないのだと思わず落胆した。
「そうか〜…流石にこの身体で酒は飲ませてもらえないか…それに…俺のアレも今では毛も生えてない皮被りじゃ女の子を満足させる事も出来ない…のかなぁ?…う〜ん…取り敢えず親に酒を買ってくるように頼まれたって言って後でお酒位売ってくれないかなぁ。それで宿屋で寂しく一人飲みでもしようかなぁ…」
そんな事をぶつぶつと独り言を呟きながら歩いて行くが、そこはちょっとした歓楽街になっていて多くの露出の多い服を着た女性が軒を連ねて客引きをしている。
もちろん10歳の少年を呼び止める客引きなどいるはずもない為、ユウキはそんな女性たちに目もくれず酒屋を探しながら歩いていたが、ふと一軒の店の前で誰かに呼ばれた気がして足が止まった。
その店は華やかな歓楽街に置いて営業してないかのような静かな雰囲気だが店内には多くの人の気配が有り一体何の店かと不思議と興味を惹かれた。
「あの~すいません〜誰かいますか〜」
何の店か興味に抗えずユウキは思わず店の扉をノックしてしまった。
するとすぐに扉が開き中から女性が現れ、その女性は20代後半で美しく髪は赤茶のロングヘアーでまるでシルクのような髪質に少しつり目がちな大きなグレーの瞳が特徴的なまさに美人の女性だった。
そして何よりユウキが驚いたのはそのスタイルの良さだ。
胸は大きく腰はくびれていてお尻も大きく足はスラリと長い。
そんな女性が胸元が大きく開いたドレスを着ていて、それがまた彼女の美しさを際立たせている。
どうやら隠れ家的な店なのだろうか店内にも人の気配は少なく営業してるようには見えなかったが、それでも誰かいる気配は有り余計になんの店なのか興味が惹かれた。
そして店の中から出てきた女性もユウキを見ると、まるで愛しい我が子を見つけたかのように満面の笑顔で話しかけて来た。
「いらっしゃい坊や……うちに何か用かしら?」
ユウキはひと目見ただけで大人のお姉さんの美しさに魅了されてしまっていたのだが、どうやら商売女ではなさそうでお姐さんと言うより女将といった雰囲気の人だと思い出すと、とりあえずいつもの子供の振りで挨拶をする事にした。
「あの…捜し物をしていて…ある人からこのお店で探せって言われて…そ、その…ボクみたいな子供でも大丈夫でしょうか?」
取り敢えずユウキが咄嗟にどうとでも取れる曖昧な返事をすると、美人の女性は少し考えてから子供のユウキにも優しく対応してくれた。
「大丈夫よ……貴方のような子供が探している物があるか判らないけど取り敢えず中にどうぞ」
そう言って店内に招くと入り口で立ったままのユウキをカウンターの椅子に座らせてから、その前に立って飲み物を出してくれた。
どうやらココは飲み屋なのかな?と考えていると奥の部屋から人の気配がしたかと思うと40代くらいの男性が姿を現して女性と何か話しをするとユウキの方にやってきた。
「坊や運が良いな!本来なら紹介の無い客は相手にしねえが坊やを連れてきた女の加護が働いたんだとよ、上物の客を見つけるって意味では俺はあの女に目をかけているんだ。それで坊やはどんな奴隷をお望みだ!」
ん?奴隷??なるほど…ここは奴隷商店だったのか…それで地味な店構えだったのか…とユウキはようやく理解したものの冷やかしで来たとは言えず、かと言って奴隷の値段相場も判らない為、どう答えて良いか判らずに言い淀んでしまう。
「ん?…坊やは奴隷を買うのが初めてなのか?だったら奴隷について教えてやる。奴隷と言っても何でも言う事を聞かせる玩具じゃない、何かの理由で税金を払え無かったり一攫千金を求めて自分自身を売り込んだ人間だな」
「えっ!?そうなんですか?奴隷って主人の命令は絶対服従で逆らったら罰せられるとか、主人に危害を加えられないとか、そういう物だとばかり……」
「それは奴隷紋が刻まれた旧体制の頃の奴隷だけだな。今では奴隷と言っても戦争捕虜や借金奴隷、犯罪奴隷等色々あって契約の種類で嫌なら嫌と逆らう事も出来るが契約の間は主人から離れる事は出来ない。そして奴隷紋は魔法の一種で契約期間は消す事は出来ないが主人が上書きする事は奴隷が承諾すれば可能で坊やの言うように逆らったら罰せるって事も出来るな」
「なるほど…奴隷の権利に反しない事なら言う事を聞くのですね」
とりあえず奴隷と言っても現代の派遣社員や契約社員って言葉の延長線なのかな? それでは遠慮なく雇っても問題ないのかな?
「それで!坊やの望みを教えてくれ」
「そうだなぁ…迷宮の案内人とか冒険者を手助け出来る人材が良いかな」
「ふむ…そうだなぁ…今その条件で店にいるのは…戦争捕虜で実力は保証する…が戦争の傷が残っていて少々見た目は落ちる…ってのは居るが、気に入らないなら数日待ってくれれば坊やの好みに合わせられる奴隷を用意出来るぜ」
「良いですね!でも…それなら取り敢えずその戦争奴隷だけ見せて貰えますか?」
「ああ判った、ただ…ちょっと見た目が悪いが良い娘なのは判ってくれ、それじゃあちょっと待ってくれ、連れて来るから……」
そう言って主人の男は一度店の奥の方へと向かった。
なんだろう?やけに見た目の事を気にしているけど戦争奴隷って言ってたけど戦争で怪我でもしてるのかな?ユウキは見た目が悪いと言う怖いもの見たさで、どんな人が来るのかちょっとワクワクしながら待っていると10分ほどで主人が戻って来て、その後ろの方に15歳前後の少女が歩いて来るのが見えた。
その少女は全身の傷痕を隠すように包帯で隠されており、片目を失い足も片方が折れているのか添え木をしており片足を引きずるように歩いて来るが良い所の生まれなのか歩き方に気品を感じた。
主人が包帯少女奴隷をユウキの前に連れて来ると折れた足を庇いながらも片膝を付いて挨拶をする。
「はじめましてご主人さま、私は戦争捕虜奴隷のエルザと申します、見ての通り足が不自由なので歩く際も時間が掛かりますが掃除や洗濯は出来ますので何なりとお申し付けください、そ、それにこの見た目をお気になさいませんようでしたら夜伽もお手伝い致しますので何でも致しますのでよろしくお願いします」
片膝を付き深々と頭を下げる礼儀正しい少女にユウキは思わず見惚れてしまっていたが主人の男の咳払いで我に返ると慌てて返事を返した。
「うん!この子にするよ!幾らだい?」
「本当にいいのか?それなら二千五百万ジェニーでどうだ?」
「安っ!」
値切ろうと頭を巡らしていた時に主人の提示した金額に驚いたユウキは思わず本音が口から飛び出てしまった。
そんなユウキの態度に気を悪くする事もなく主人は理由を説明する。
「この娘は戦争で捕虜になった時に、貴族に散々弄ばれたらしく、もう女としては機能しない位に傷を付けられたから娼館にも行けねえ…そうなると冒険者としての腕だが…それもこれだけの傷を負ってはダメだ…だから売り物にならないなら買い手がいる内に安く売るってのが筋だろ!それに元値が安ければコイツも早く開放されて自由になれる、だからこの値段がお互いにとって最善なんだよ、だからこの娘を買ってくれないか!」
「なるほど……それなら仕方ないですね。それじゃあエルザさん、僕の名前はユウキ、短い間だけどよろしくね」
ユウキの差し出した手をエルザが取った事で契約は終了した。
それから様々な契約書類にサインしてユウキとエルザが宿に戻ったのは夜遅くになってからだった。
「え〜と…エルザさん…これからの活動について調べたい事があるんだけど…え~と…だから最初の奴隷への命令だ!エルザよ!身に付けている物を全て脱ぎ捨て、その身体を余す事なく主人へ見せろ!」
エルザは突然のユウキの命令にまだ自分の身体に価値があったのだと驚きながらも、こうなる事を予想していた為、すぐに服を脱ぎ包帯をほどき、その裸体をユウキの前に晒した。
「これで宜しいでしょうか?ご主人様」
月下の薄暗い光だけが入る宿の一室に戦争捕虜として虐げられた15歳の少女の痛ましい傷痕の残る裸体が晒された。
片目は潰され、片足の骨が折られたままで癒着したようで曲がっていて、髪の毛が全て炎を浴びて焼けてしまったせいか頭頂部付近に残っている物を見ると地毛は金髪なのだろう。
そして顔や腕、足には無数の火傷や裂傷の疵がありそのどれもこれもが拷問で受けた傷だと判る。
だがさらに酷いのが胸から性器にかけて弄ばれたのか、裂傷でズタズタになりエルザのあまりにも悲壮感漂うその姿に思わず目を背けてしまいそうになるがユウキはエルザの目を見て微笑んだ。
「ゴメン、ゴメン…つい魅入っちゃっていたね、大丈夫だよ、このくらいの傷なら再生が可能だから、今はゆっくりとおやすみ…」
エルザはユウキに促されるようにベッドに寝かされるがベッドが一つしかないなら主人が寝る場所が無いのではと焦るが、ベッドに横になると何故かとてつもなく強烈な眠気が襲って来て、それに抗う事すら出来なくなってしまい、そのまま意識を手放してしまった。
「さてと…この娘の美しさは外見ではなく、たぶん内面にあるんだろうな…ボクの魔力でなんとかこの娘の傷を修復できると良いんだけど…《リジェネレイト(再生)!》」
再生魔法を唱えユウキがエルザの身体に手を触れると、その身体に手が沈み込んでいきエルザのパーソナル情報がユウキの脳内に流れ込んでくる。
彼女は隣国の貴族に生まれ騎士団に入隊したが初戦で彼女の国は敗退、その後、捕虜として過去…うん…その後は拷問や凌辱を受け…どうにか彼女がもう一度笑える日が来ると良いんだけど…
ユウキの魔力でエルザの身体を修復し欠損している部分も再生しようとしたが、それはかなり繊細な魔力コントロールが必要となり、その治療に時間が掛かった為か気が付くと朝方までかかってしまった。
そしてようやく全ての傷が治せた事を確認するとユウキも安心してその場で深い眠りについたのだった。