➖第一話・奴隷騎士➖ ②
「さてと…何をするにしても、この世界のお金を稼がないとだけど…どうしたら良いんだろ?やっぱり異世界の定番は冒険者ギルドかな?」
お金を稼ぐのは冒険者ギルドと言うのは異世界転生物では王道である。
そう考えたユウキは冒険者ギルドへ向かう事にしたのだった。
暫く歩くと大通りに交差するように大きな通りが見えてきたので一本中に入った脇道を進み暫く行くと、剣と盾をクロスさせた看板が掲げられた建物が見えて来た。
その建物は三階建てで、横に大きく広く、そして入口には武装した冒険者達が多く出入りしているのが見える。
どうやら此処で間違いなさそうだとケイゴは確信して中へと入った。
此処こそが冒険者ギルドと呼ばれ、来た者の実力毎に薬草採集から魔獣の討伐等の依頼を受け報酬を払ってくれる物である。
冒険者ギルドは中央機関として近隣の領主から直接の依頼を受け付けたり、様々なサービスを行っており、それに応じた職員も多く存在していて、傭兵や職人が多く所属しているギルドで、冒険者は登録したてのF〜A級までランク付けされ、その実力や実績に応じて依頼を斡旋されるシステムになっている。
ユウキは建物の中に入るとカウンターの中で笑顔を絶やさない受付嬢に声をかけた。
「あの……登録したいんですけど……」
「冒険者ギルドへようこそ!新規ご登録の方ですね?それでは必要事項の記入をお願いします!」
受付嬢はユウキが子供と言う事に気づいても変わらず丁寧に対応してくれた。
基本15歳になった際に教会等で加護の判定を受けて神から賜る力の確認をしてから、その力量に合わせた職業の冒険者として登録するのだが、この街では止む得ない事情で15歳以下でも冒険者に登録を望む者も多いので、その対応も慣れている様子で受付嬢はマニュアル通りの対応をして必要事項の記入を求めるとユウキも必要事項を記入して受付嬢へと渡した。
「ユウキ様ですね?ご登録ありがとうございます。こちらがギルドカードになります!紛失されますと再発行に銀貨5枚が必要となりますのでご注意下さいね。それと本来冒険者はFランクからスタートなのですが、まだ教会で加護を受けていない年齢ですのでGランクからスタートとなりますので、くれぐれも危険な任務を引き受けないようにしてください」
教会からの加護を受けてはいないがユウキは神からの加護を直接受けている為、この年齢から冒険者として活動していけるのかと心配する母親のような目で説明する受付嬢からの説明を上の空で聞いていると、近くに腕試しの迷宮が有るけど決して近付かないようにと注意を受けたが、そうは言ってもGランクで受けられる依頼ではたいした報酬も得られそうも無いから後でこっそりと行ってみようと考えていた。
そしてギルドカードを受け取ったケイゴは受付嬢の話が終わるまでは、この世界のお約束を守って良い子としてのお返事をしていたが話が終わりとようやく帰れると思って溜め息を付いた所で絡んで来た冒険者の一団が現れた。
「おいおい!何時から冒険者ギルドはガキの来る場所になったんだ?ここは子供の遊び場じゃ無いんだぜ?」
「そうそう!さっさとママのお乳でも飲みに帰ってお寝んねしてな!」
「ぎゃははははは!お前上手い事言うぜ!!」
数人の冒険者がユウキを囲むように近付き口々に子供扱いして馬鹿にして来たのだ。
どうやら何処にでも居る新人を虐めて鬱憤を晴らす連中のようで、受付嬢もこの程度で潰れる様なら命懸けの仕事であるる冒険者など辞めてしまいなさいと言った雰囲気で見て見ぬフリをしていた。
「ほれ、こっちへ来い!俺が冒険者の何たるかを教えてやるぜ?それともビビッて動けねぇか?」
どうやら新人イビリ集団の中では比較的偉いと見られる大柄の男がユウキの手を掴もうとするが、ユウキは一歩飛び下がりヒョイッとかわすと男はバランスを崩して床に手をついて転んでしまった。
「なっ!?このガキ!おい、お前ら、このガキを捕まえろ!ただじゃおかねえぞ!」
ユウキがヒョイと避けた事に驚き一瞬唖然とする男だったが直ぐに立ち上がると子分達に命じて捕まえさせるが、全員がいくら掴もうとしてもスルリとすり抜けてしまい捕まえる事が出来ず男たちの怒りが頂点に達する。
「このガキ!ちょこまかと!」
「おい!魔法を使っても良いぞ!多少怪我させても構わねえ!やっちまえっ!」
大柄の男がそう言うと子分達は懐から杖や剣を取り出すと詠唱を始めた。
「ファイヤーボール!!」
「ウインドカッター!」
「サンダーアロー!」
それぞれが炎や風、雷の矢をユウキに放ち命中した!…かのように見えたが実際には放たれた魔法はユウキにダメージを与えるどころか服に焦げ跡一つ付けずに消えてしまっていた事に大柄の男は驚愕し、そして子分達も驚きの表情で魔法が効かなかった事を目を白黒させていた。
そんな男達の様子にユウキは呆れながら先輩冒険者達に話しかけた。
「あのさぁ……こんな街中で魔法なんか使って良い訳?それにボクが魔法を打ち消したから良かったものの避けてたら、この建物に大ダメージを与えて怒られる所だったよ」
あれだけ魔法を打ってその痕跡が何も残っていなく、打ち消したと本人がアッサリと口にするので話が噛み合わず先輩冒険者達も訳が分からないと言った感じだった。
「な……何を言ってやがる?お前、魔法なんて使ってねえだろうが!それに打ち消しただと?そんな事が出来る訳ねえ!」
「そんな事言われても事実放たれた魔法は消えた訳だし…ねぇこれで満足した?それならボクもう出かけたいんだけど……」
ユウキの小馬鹿にした態度に先輩冒険者として舐められる訳に行かず怒りを覚えるも今、目の前で起きた事にどうして良いのか判らなく眼の前の子供相手に遠巻きに取り囲む事しか出来ない大柄な男とその子分達に、ここが潮時だとそれが誰の為の助け舟なのか判らなかったが、それまでずっと状況を見ていた受付嬢が口を開く。
「はいはい、それまでにしてください!これ以上の冒険者ギルド内での破壊行為は冒険者資格の剥奪になりますよ。ほらほらユウキ少年はもう行って良いですよ、こっちのお兄さん達にはお姉さんがキツく言っておきますから!さぁどうぞどうぞ!」
「ありがとーお姉さん、でもそこのお兄さん達、新人を脅す演技するにしてももう少し本気でいかないとバレちゃうよー、それじゃ失礼しましたー」
軽はずみな気持ちで冒険者にならないように最初に怖い目に合わせる、それでも続ける気持ちがあるか、それが冒険者の適性試験だったのだ。
それでも今回は相手が悪かったと苦笑いするしかない先輩冒険者達を後にユウキは冒険者ギルドを後にしたのだった。