自覚もなく
「セイテツさま、おでこ、大丈夫ですか?」
「まあな。・・・これでも、たすかったほうだ」
もどった伍の宮の中、シュンカのいれてくれた茶をセイテツは一気に飲み干す。
たどりつくまでに、シュンカの頬を見た役神たちが、足元でさわぐのをけちらしてシュンカを抱え上げ、逃げ込むように着いた自分たちの宮に、あの無愛想な坊主はいなかった。
―――― そうだ。たすかったよ・・・
とりあえず、いちばん面倒な『無自覚馬鹿』がいなくて助かったとセイテツはじんじんとする額をおさえ息をつく。
――― さて、・・・どう説明するか・・・
シュンカがつぎ足してくれたお茶をすすりながら、絵師は藁のような髪を乱暴にかいた。
普通に説明すれば、きっと、さも関心ないように「そうか」とだけうなずくのだ。
そのくせ、翌日からいきなりこちらを呼び出して、手合せしろ、とか、たまには付き合え、とか言って、加減もなくたたきのめそうとする。
――― 馬鹿ゆえに、自覚なしなのが面倒なんだよ・・・
坊主がシュンカを大事におもっていることは、ここの誰もが知っている。
ところが、本人はいまだにそれを自覚することはない。
数年前、命を落としかけたのをシュンカに救われたスザクは、目覚めてからしばらく、みなが驚くほどのかいがしさで、シュンカの世話をした。
自分のせいで『気』の量がえらく少なくなってしまった子を抱えて眠ること数日。
元気になったシュンカが恥ずかしさに耐えきれなくなるまで、それは続いた。
そのあとも、うなされる気配をさとればすぐに隣の部屋にゆき、遊びほうけた絵師が朝方宮にもどると、子どもの枕もとで書物を読む坊主を見つけることとなる。
ようやく坊主もこの子の大事さがわかったかと、にやけてその態度をからかえば、かえった答えは、
―――― おれのせいとあれば、気にもなる
だった。




