砂糖粒
「――― ほお、無作法な?」
コウセンが試すように聞き返す。
この頃では、きっちりと髪を後ろで結い、髭も手を入れているコウセンに、このような聞き方をされれば、シャムショの者でさえ気おくれするだろうに、シュンカは堂々と口にした。
「はい。 おれはあの有名な《絵師のセイテツさま》と一緒にいるから、描いてほしければ頼んでやってもよいと、名前をききだそうといたしました」
「・・・おまえらしくないな」
「なにしろ『街』に住むおなごですので、普通に名前をきこうといたしましても、鼻であしらうような態度をとられます。おれも男として腹が立ちました」
「ふうん、そうか」
「はい。『街』にゆくと、なにやら甘く見られてはならないと、つい、見栄を張った態度をとりたくなります」
「――― シュンカ」
「はい?」
向かい合い、困ったように微笑む子を、コウセンはいつものように軽く抱き、背を叩く。
「こんどから、―― 誰と街にゆこうとも、笠をかぶってゆけ」
「はい。・・・コウセンさま・・・ご心配おかけして、すみません・・・」
額をコウセンの胸に押し付け謝る。
それを気分よく受け取った男は右腕をすいと持ち上げ、そばに立っていたセイテツへ何かをはじいた。
「っっってええ!!!」
額をおさえこむ絵師に四の宮の大臣でもある男が言った。
「―― おれが今、菓子しか持ってなくて助かったなあ?テツよお」
絵師の足元に落ちていたのは、シュンカがいつもコウセンからもらう、砂糖粒の菓子だった。




