主さまの正体
苦しくてそのまま意識をてばなせば楽になりそうだったとき、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「おいシュンカ!てめえ、おれの従者だろうが!
これぐらいで眠るんじゃねえぞ!」
ああ、まったく、無茶言うんだから・・・・
っがぼっと水を吐きながらもがく手で経をつづりはじめた。
体から、悲鳴をあげる水が、ひきあげはじめる。
ようやく水の上に顔をだせたら、堀の主が腹をあげてはねあがった。
その腹には、たくさんの女人の顔が、卵のようにびっしりと、はりついている。
でそうになった悲鳴をのみこみ、堀をのぼった。
すぐにスザクが経を続けろと怒鳴る。
堀端に立ったシュンカは言われた通り、今度は経をつづるまねごとをくわえながら、口にする。
魚の暴れかたが弱まったと見た坊主が魚の背にとびうつり、魚の背びれをつかんでつづった経を刀に《のせる》と、そのままいっきに背びれの根元に突き立てた。
ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
地の底からの、低い声のような、地鳴りのようなものがひびきわたると、みるまに堀の栓をぬいたように、水が一気に引き、最後に残った巨大な魚びしゃりとが《くずれ》た。
「―― 主さまって・・・・」
水の引いたそこには、何千何万という小型の魚たちが、じたばたと水をもとめもがいていた。




