笠の男が
「そりゃもしかして、―― あかい粉かい?」
「 ―― じいさん、見たのか?」
思ってもみないことで聞き返せば、年寄は同情するように手を振った。
「そりゃもうみつからねえよ。 ―― さっき、笠をかぶった男がよ、この堀に《赤い粉》をまいたのさ」
「笠の男? ―― どんな」
「 あんたよりは小さいが、じゅうぶん大きな男だ。 派手で仕立てのいい着物だったから、どっかの軍人じゃねえのかい。 おれはずっと見てたが、最後におれにむけて何か言ったようだ」
聞こえなかったが、と笑う。
「粉を、――― どんなふうにまいたか見てたか?」
年寄は竿をおき、片手をたかだかとあげてみせた。
「こうやって、握ってた指から、こすり合わせて落とすようなおかしなまきかたよ」
「じいさん、この堀からすぐに離れたほうがいい」
「はあ?なにを、っ、ぶっ、っ がほっ 」
年寄の口から、緑色の水があふれた。
とびすさったスザクがシュンカを呼ぶ。
振り返ると、堀の水がシュンカに襲い掛かるところだった。
びしゃん
『獲物』をのがした水が土にひろがり、しみこまずに固まると、堀の中へと戻った。
「っち、だれか、おかしな『術』をかけやがったな」
シュンカの腕を引き、スザクは首から数珠をはずす。
ところが今日は、刀は持っていない。




