『まずい』とおもう
急に、シュンカがはっとしたようにまばたきをし、身をひいた。
だが、スザクは肩をもち、こちらへひきかえす。
「まだ、―― さっきおめえが、何で泣いたのか、わけをきいてねえ」
のぞきこんだ顔が、不安にゆれている。
こんなにじっくりとシュンカの顔をみるのは、初めてかもしれない。
「『従者』としてあそこに迎えに来たんじゃねえんだろ?」
シュンカが、ゆっくりと、うなずく。
「なら、なんで逃げた?」
きれいな目に、水が張る。
こらえるように、スザクさまが、来るなとおっしゃったので、と震える声がこぼれた。
「あん? ああ、さっきから言ってるが、おめえがここに来るなんて、女に喰われにくるようなもんだ。 ―― それは、おれが嫌だからよ」
え?と頭がゆれた拍子に、目の水がこぼれた。
「あのな、シュンカ、―― 前も言ったが、おまえに泣かれると、おれは困る」
筋をひくそのしずくを指の背でとめた。
謝って身を引こうとするので、その頭ごと抱えて、胸におしつけてやる。
シュンカは身を固めて息もとめているようだ。
困った坊主は、思わずため息なようなものをこぼして口にする。
「・・・テツやコウセンはおまえを笑わすのがうまいのに、おれは、泣かしてばっかな気がすんな」
がばりと顔があがり、スザクさまのせいではありません、と着物をつかまれた。
瞬間、この距離は、まずい、と坊主は思う。
天宮の中ならば、シュンカのことをおもって、はぐらかすことができる。
が、ここは色街だ。
すざくさま
と、すぐそこの唇が呼ぶ。




