あの女に惚れたか
「あの、おれ、帰ります。スザクさま、は、どうかごゆっくり」
「おい、待て。―― おれも戻る」
うっそりと立ち上がった坊主に、おランが煙をふきかけわらう。
「少しは嬉しそうな顔しろってんだい」
「うるせえよ」
おランはシュンカをみあげ、つやっぽく笑んだ。
「ねえシュンカ、今度来たときはお客として迎えてやるからね。こんな坊主と一緒にくるんじゃないよ」
「え?いえ、その、―― だいじょぶです」
何がだいじょぶなのか自分でもわからないが、大笑いする女二人に送られてそこを後にした。
歩きながら目をあげれば、笠のふちごしに、黙々と先をゆく男の大きな背があるが、なにもしゃべれなかった。
女との時間を邪魔し、そのうえまた、男の前で『うそ』をついてしまった。
眼に映る背がにじみはじめたら、それが突然止まった。
「―― あのな、シュンカ」
「・・・はい」
震えないように、ゆっくりと慎重に声をだす。
「なぜ、また『うそ』をつく?」
「・・・・・・」
「それとも、ほんとに心配で来たのか? ―― あの女に惚れたか?」
「ち、ちがいますっ」
「なら、―― なんで、あそこに来た」
それは、――― と続けようとしたが、うまい『うそ』がみあたらない。
こちらに体をむけた坊主が不機嫌なのがわかる。




